1月4日

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国際オープンフィギュアスケート選手権
(東京・国立代々木競技場)

お知らせ

増島みどり著
シドニーへ
彼女たちの
42.195km

1月11日発売
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 今大会、4年10か月ぶりの「現役復帰」で注目された伊藤みどり(プリンスホテル)が、フリープログラムでトリプルアクセルに挑戦、失敗したもののいまだ健在の高いジャンプで、女子No.1と言われたジャンプ技術の実力の一端を見せ、観衆を沸かせた。大会は、プロとアマが混合で出場するもので、女子シングルではソルトレーク五輪を狙うマリア・ブチルスカヤ(ロシア)が優勝した。伊藤もショート、フリー2つのプログラムを滑って5人中3位と日本のアマチュアで出場した恩田美栄(18)を上回った。

1位 ブチルスカヤ(ロシア)
2位 スルツカヤ(ロシア)
3位 伊藤みどり(プリンスホテル)
4位 チェン(中国)
5位 恩田美栄


「スポーツ世界遺産へ」

 伝統工芸や重要文化財、世界的な取り組みとしては世界遺産……、さまざまな形で現存する技術や自然を守ろうという取り組みが20世紀の終わりから盛んに始まっている。
 復帰自体は、現在はプロとしてアイスショーに出場するなど競技からは遠ざかっている伊藤にとってただ一日の話である。今後、プロ選手権への出場などの可能性はあるが、競技に復帰することはない。
 しかし、フリーの最初に跳んだ「トリプル・アクセル(3回転半)」には、見ていた者誰もが驚かされたはずだ。
「試合に出ると発表してからきょうまで、自分が随分と無謀なことをしていると思っていました。不安も多かった。でもここまでやってきたことで、それなりの満足感はあります」
 4分の滑走で使う体力、スタミナは生半可なものではなく、プロに転向すると4分を滑りきる肉体的な集中力そのものがなくなってしまう。
 しかし「練習からずっと、(トリプルアクセルを)を跳びたくて、跳びたくて……。残念でしたが挑戦したことには誇りもある」
 ジャンプ6種類の中でも、唯一前足で踏み切るために半回転が増える、このトリプルアクセルは、男子並みの高い技術と体力、タイミングへのカンなど、さまざまなものが要求される。女子では伊藤が初めて跳んで以来、ボナリー(フランス)、ハーディング(米国)らが挑戦している。女子で完璧な形で、競技会で成功させたことは、それから10年以上が経過した今でも誰もなし得ないことを見ても、いかに桁はずれのチャレンジだったかわかるものだ。
 名古屋のマンションとビルの中にある小さなリンクで、伊藤は育った。一般のお客さんとしょっちゅう接触するし、米国やロシアのような恵まれた環境とは無縁だった女の子は、跳ぶことだけで華やかで日本人には圧倒的に不利といわれた競技で世界に挑み、伍していった。それを思うとき、この日見せたトリプルアクセルの迫力と美しさは特別なものだ。
 こうしたオリジナリティに満ちたスポーツでの技術を、スポーツ界で保存できないものだろうか。技術は日に日に進化する一方で、誰もが真似することのできない、最高峰を極めているものもある。野球ならば「王のフラミンゴ」でも「野茂のトルネード」でもいい。日本人がオリジナリティを持って世界に伍した技術を、保存できないか。
 自ら、女子で初めて成功させたトリプルアクセルを跳び、失敗してもなお、涙ぐんでいた伊藤の姿にそんなことを考えた。

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