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『醒めない夢』
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ハンマー投げの室伏広治(ミズノ)が自身では初の81メートル台となる81メートル08の日本新記録をマークして、今年のGP種目でもあり強豪がこぞって出場していた同種目を制した。6本の投擲すべてを投げ、うち4本が80メートル台という超安定投法で、五輪での表彰台への期待がさらに増す好パーフォーマンスで国内最終戦を締めくくった。
また男子100mでは伊東浩司(富士通)が10秒26で2位、日本インカレで10秒11の日本歴代3位の好記録をマークしたばかりの川畑伸吾(法大)が10秒25の好タイムをマーク。今大会でメンバーを決定するといわれていた400mリレーの選考では、川畑がわずかにメンバー候補の1人、小島茂之(早大)を先行。結果的にはバトンミスで記録はなかったものの、川畑がリレーメンバーに選ばれる可能性が高くなった。
女子10,000メートルでは弘山晴美(資生堂)が、ボルダーの高地トレーニングから帰国し疲労の残る中で15分23秒64とまずまずの記録で5位に入り、13日からの菅平合宿に弾みをつけた。
気温が27度、しかも湿度が75%と、立っているだけでも汗がにじみ出てくるようなコンディションとなった午後3時過ぎ、室伏の1投目は静かに始まった。
あまりの暑さと強い陽射しを避けるように、室伏はほかの競技が行なわれている日陰となったフィールドのギリギリまで歩んで、体に陽射しを当てなかった。1投目は、傍目にもゆっくりと、そして力強い回転だと見えるような動きの中から、77メートル41を投げる。名古屋で続けた練習では中京大のグラウンドが非常に暑いために練習時間も午後5時頃に繰り下げた。このためトレーニングは深夜に及んだ。疲労が抜けず、冷房もかけないことから、寝不足になる。食欲も減退し、内臓には疲労もある。
「正直言って驚いています。自分が思った以上に成果が出せたと思うし、この1ケ月練習ばかりで試合から遠ざかったので」
試合後の会見では、自らがもっとも驚いているかのように、テレ笑いをした。記録も動きももう少し控え目な目標設定をはるかにクリアする日本記録、そして1試合4本もの80メートル台(これまでは2本が最高だった)に父・重信氏も「正直、(レベルが)ここまで来たかという感じがした。あれだけリラックスした動きを見たことがありませんでしたし、なかなかできるものでもない」と、ハンマー投げという種目ではロス五輪以来16年ぶりとなる五輪に送り出す息子へ、むしろアスリートととしての敬意を先に表した。
試行錯誤の末である。しかし要因はある。まずは暑さの中での練習に耐えたこと。疲労が出たがコンディションを落としたことで、かえって今がよい状況になった。
次に、体の力み(りきみ)、心の力みが消えたこと。
この日の会見でも「何を意識しているか」と聞かれて、「何も意識しないことを意識している」と答えた。こうした精神状態が決して付け焼刃的なものではないことを、この日の4本の80メートルが象徴した。
父は23日の予選で、77〜78メートルを投げて欲しい、という。今季だけで実に19人が80メートルを越えているという激戦の中、「それが投げられれば決勝では思い切ってぶつかるだけだから」と話す。
この日は、バルセロナ五輪金メダリスト、アトランタ五輪の銀メダル、アテネ世界陸上の金メダリスト、さらに昨年の世界陸上金メダリストらが勢ぞろいした。この中で今季GP3勝目をあげた自信もまた、無形だが大きな後ろ盾になる。
コブス(ドイツ)は試合後、「誰が金メダルへの有力候補か?」と聞かれてこう答えた。
「私、そしてムロフシも」