9月8日


スーパー陸上競技大会2000横浜
前日記者会見

(新横浜プリンスホテル)

 シドニー五輪に向けて最後の実践の場となる国際陸上競技会を前に、会見が行なわれ、日本の短距離のエース、伊東浩司(富士通)、ハンマー投げの室伏広治(ミズノ)、三段跳びの現世界記録保持者、ジョナサン・エドワーズ(英国)ら内外の有力招待選手がシドニー五輪への重要な試金石となる試合であることを強調した。大会は9日、横浜国際総合競技場で行なわれる。

「疲労困憊だが」

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 今季は怪我に泣かされてきた伊東だが、やはり最後の最後、五輪の調整にはピッチリと合わせて来る。3度目を迎えるオリンピックを知り抜いているからこその、これもまた「技」と呼べる部分ではないか。
「オリンピックはほかの大会とは全く違うんですね。単なる調子の良し悪しでは図れない何かが潜んでます。でもそれが何か、ボクは3度目にして幸いわかっているのです」
 8月末の結団式ではそう話していた。内定を昨年11月に受け、その後は思うような体調ではなかった。しかし、一方では、落ちるところまで体力や集中力を落とした分だけ、現時点での勢いが加速する、そんなピーキングを伊東は10秒00の記録を持つ競技者として試していたのかもしれない。
「沖縄合宿では走り込みをして、現在は疲労困憊といった状態です。でも追い込んだその中でどのくらい走れるかを自分でも楽しみにしています」
 タイムそのものは必ずしも重要ではないが、スーパー陸上での目標は10秒20ライン。スタートでの集中力もテーマのひとつだと話している。

「切ない」

 会見は有力選手が登場した後、注目のハンマー投げ(国際陸連の今季GP種目でもある)の会見だけが行われた。
 日ごろ、競技場の場合かなり離れた位置から、テレビならば室伏1人だけが映る場面がほとんではないか。だから、全員が目前の壇上に並んだとき、それは「数字」という客観的部分では十分に理解しているものであっても、いかに室伏がこの競技の特性からは逸脱しているか、それが感情的な面で心に沁みる。
 切なくなる。
「お前は何の種目の選手だ?」
 国際舞台に名乗りをあげたころ、親しみも込めて海外のトップ選手にそう聞かれたと室伏はよく話していた。
 この日も、体重が90キロ台なのは室伏ただ1人(94キロ)。残る全員は100キロ超である。体重そのものだけで差が20〜30キロもある中での戦いはひどく孤独であろう。そしてそれを見ている者の胸を切なくする。
 しかし、だからこそ、室伏はこの競技を選び、続け、前進しようというのである。
「オリンピックを前に、もう技術、体力で変わることはないでしょう。あとは心理的な問題です。余計なことは何も考えない無の状態で望みたい」
 何年か前、「何の選手だ」と聞いたトップ選手たちが、「どうやれば投げられるか」を室伏に聞くようになった。
 80メートル台が実に今季だけで10数人もいる混戦に挑む五輪のテーマは、メダルよりも「力に勝つこと」なのかもしれない。

三段跳びの世界記録保持者、ジョナサン・エドワーズ(英国)「この大会はシドニーに向けての重要な試合になる。ここまで非常に順調に来ているので、最後のゲームにふさわしい結果を出して、シドニーに向かいたい」

棒高跳び、セルゲイ・ブブカ(ウクライナ)「あすは調整とか様子を見るとかではなく、今季ベストで飛ばねばならない。そういう意味でプレッシャーに勝ちたい」

100m障害、アレン・ジョンソン(米国)「怪我を克服してここまで来られた。非常にいい状態なので、大会ではいいパフォーマンスをしたい。五輪で連続金メダルを取るためにも」


女子柔道48kg級・田村亮子らがシドニーに向け出発
(成田空港)

「3度目のオリンピックへ」

 柔道48キロ級の田村亮子(トヨタ)がこの日、選手団とともに出発した。
 成田空港では、会社の見送りで早くも花束を受け、空港ロビーは田村をひと目見ようという乗客でパニック状態となった。写真撮影から握手と、ファンにもみくちゃにされながらも田村は平然と笑顔で要求にこたえ、ロビー中から歓声や拍手が湧き起こった。
 誰もが「何を」期待しているのか、田村には十分過ぎるほどわかっているのだろう。レストランでも2重3重に人垣ができる中で食事を取る様子は不思議な光景だが、それでも落ち着き払っていた。
 彼女にとってこれは3度目の光景なのだ。
「やるべきことはすべてやれたと思う。あとは現地で気持ちを高め、怪我などないようにしたい」
 5月の下見では、朝焼けのシドニーに下りるときに見た海と空の透明感に魅了されたと話していた。その光景を見て、ここが自分の夢をかなえる場所だ、と心から力強く湧き上がってくるものを感じた、とも言った。成田を飛び立って9時間あまり、上空で田村が目にするものが、どうか「あの景色」であるように。どうか、夢がかなうように。

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