消毒副生成物 Disinfection bi-product
作成者  BON
更新日  2003/03/30

 消毒副生成物とは,塩素(などによる)消毒によって,非意図的に生成される物質のうち,人体その他に対して有害と考えられる性質を有する化学物質のことです。ここでは,消毒剤と消毒副生成物について取り扱います。

消毒副生成物とは
 消毒副生成物とは何かについて簡単に。
トリハロメタン類
 基準,毒性や障害,汚染源,対処法,検出法について。水道としての視点からとりまとめました。
MX
 MXに関する問い合わせ回答をベースに掲載。
塩素消毒
 塩素消毒,次亜塩素酸に関する情報。派生法としてクロラミン法もあります。

【参考】
2001/05/27 遊離塩素の定義を追加。


消毒副生成物とは

 消毒副生成物とは,消毒剤が水中の有機物その他の不純物と反応して非意図的に発生する物質ですが,特にこのうち毒性の疑いがあるものを扱います。消毒副生成物として有名なものには以下のようなものがあります。

 他にもいろいろ考えられます。英語のサイトですが,消毒副生成物について整理したページがありましたので紹介します。

DBP【Penn State Harrisburg】
 消毒副生成物のリストがあります。大学のサイトみたいなんですけど...

【備考】


トリハロメタン類

1)水質基準

 消毒副生成物とは,「消毒に伴って費意図的に生成される物質」のことで,その代表的なものはトリハロメタン類です。略してTHMと記述することがあります。WHOのガイドライン値と並べてまとめました。

【基準項目,健康に関連する項目】

ブロモホルム  0.09 mg/L WHO:0.1 mg/L
ブロモジクロロメタン 0.03 mg/L WHO:0.1 mg/L
ジブロモクロロメタン  0.1 mg/L WHO:0.06 mg/L
クロロホルム  0.06 mg/L WHO:0.2 mg/L
総トリハロメタン 0.1 mg/L WHO:ガイドライン値は設定しないが,意見は4物質の検出値と
それぞれのガイドライン値の比が1以下。

 トリハロメタン類におけるクロロホルムの割合を考えますと,WHOのガイドライン値は日本の水道水質基準よりも大枠として緩い基準値といえるでしょう。

 なお,測定は原則として浄水に対してのみ行われますが,感染症を防ぐために下水を消毒したり,水道や工場などで塩素を使用したりすることで発生したものが,表流水中に存在することもあります。このため,独自に原水に対して調査を行っている場合もあります。

2)毒性や障害

 うまく表現するのが難しいので,IARC(国際がん研究機関),USEPA(アメリカ環境保護庁)の2つの発ガン性の分類基準で評価してみましょう。

ブロモホルム  IARC 2B USEPA B2
ブロモジクロロメタン IARC 3 USEPA C
ジブロモクロロメタン  IARC 2B USEPA B2
クロロホルム  IARC 3 USEPA B2

 このように,発ガン性がある,もしくは発ガン性が疑われるというレベルです。

 また,クロロホルムには肝臓や腎臓の機能障害,麻酔剤としての効果があり,過剰投与により意識消失,昏睡,著しい場合に死亡まであります。もちろん環境水中に存在するレベルではこのような影響は出ません。(万一原液が流入しても味や臭いで分かりますし)

3)汚染原因

  1. 溶剤や各種薬剤の原材料
  2. 消毒副生成物として,塩素消毒などによる有機物との反応で生成。臭素の存在下で塩素の影響により次亜臭素酸が生成するなどして各種のトリハロメタンを発生する。

 原水中の有機物と塩素が反応すると様々な消毒副生成物(Disinfection Bi-product)を生成しますが,その中でもっとも有力なのがトリハロメタン類です。原水が良好で有機物が少なければ塩素が高くともトリハロメタンはほとんど発生しませんし,残留塩素も消費されません。この有機物のことを「トリハロメタン前駆物質」といいます。

 トリハロメタン前駆物質は,従来フミン質が主たるものであるとされていました。フミン質とは,植物体が分解されて発生する自然発生的な有機物で,セルロース(食物繊維)に近い組成のものが中心の混合物です。身近なところでは,紅茶の色が溶けだしているところをイメージしてもらうとほぼ近いでしょう。ただし,近年の研究にはこれに異を唱えるものもあるそうです。先日,この件についてO社M氏(ペンネーム希望)より情報提供をいただきましたので,紹介させていただきます。

「湖沼において増大する難分解性有機物の発生原因と影響評価に関する研究」(平成9〜11年度) 【国立環境研究所】
 今井 章雄先生のレポート。「THM前駆物質は,フミン質がほとんどと考えられていたが間違いで,アミノ酸(?),脂肪酸,糖酸などである。親水性酸は通常の浄水処理(高度処理;オゾン+活性炭でも?)では,ほとんど除去できない。」とのことです。

 トリハロメタン前駆物質の濃度(C)が高いほど,接触時間(T)が長いほど,温度が高いほど生成速度は速くなります。接触時間と濃度の積,すなわちCT値での検討を行うのは,このような性質があるためです。反応速度に関する関係式など現在でもはさまざま研究されており,条件によってかなり異なるので,必要に応じて「THM生成能」を測定する試験により実測されています。

4)処理方法

 トリハロメタン類を水から除去するためには以下のような方法が考えられます。

  1. ストリッピング(空気中へ揮散させる処理)
  2. 活性炭処理。ただし破過が早く非効率です。

 ただし,消毒副生成物については,その生成を抑制するのが王道といえます。このためには,原水中の有機物の低減(水源の変更や生物処理/活性炭処理などによる有機物除去),塩素接触時間の短縮(塩素注入方法の工夫や送配水流達時間の短縮)などの方法が有力です。耳学ですが,通常の凝集沈殿処理の沈殿池で30〜40%,オゾンACで30〜40%程度,それぞれトリハロメタン生成能を低減できた,と聞いていますが,これは,コロイドとして存在する有機物が凝集沈殿などのプロセスで低減された結果でしょう。

 なお,トリハロメタン類の生分解性(微生物などにより自然分解される度合い)は比較的低いとのことです。また,TOX(有機塩素系化合物)が水に含まれれば,これの加水分解により,THMが生成する場合があります。ちなみにClよりBrのほうが速く反応しますが,臭化メチル(CH3Br)はTHM-FPにはならないそうです。

5)検出方法

 トリハロメタンの測定はGC-MS法によります。ただ,トリハロメタンは塩素との接触によって生成するので,原水などでトリハロメタンを評価するためには,その水のもつトリハロメタンの生成能力(トリハロメタン生成能)を測ることが必要です。

【備考】
 水道水質ハンドブック上水試験法など。


MX

 MX(Mutagenecity X)とは,変異原性のある特定されないハロゲン化合物(だからX)の意味とのことです。特に新しく見つかった物質ではありません。トリハロメタンと同じく有機物と遊離塩素が反応して発生する消毒副生成物の一種で,その後,パルプ工場の塩素処理排水から単離され,その成分はC53Cl33[ 3−クロロ−4(ジクロロメチル)−5ヒドロキシ−2(5H)−フラノン ]とされています。

1)水質基準

 水質基準項目にはとりれられていませんが,これは少なくともこれまでの情報では水道水中の含有量が十分に低いと見られるためと推定されます。水道水での検出例は,フィンランドで最大67ng/L,日本では最大で9ng/L程度の検出事例があり,仮にフィンランドの事例を切り上げて100ng/Lとみなしても0.0001mg/Lに相当しか相当しません。

2)毒性や障害

 マウスでのLD50(50%のマウスが致死する濃度)は,128mg/kg/日(体重1キロあたり,毎日128mgを摂取する量。体重70キロの人で毎日約9000mg。)と推定されています。また,MXはきわめて強い変異原性(遺伝子を改変する能力)をもっていますが,消毒塩素や体内にある物質などと容易に反応して変異原性の弱い別の物質に変化することが分かっているとのことです。

3)汚染原因

 有機物と塩素が反応して生成する消毒副生成物の一種です。有機物汚染の進んだ原水を浄水処理した場合に検出されることがあります。水道水自体の変異原性(もちろん何万倍にも濃縮して検査するのですが)との相関が高いという研究結果もあります。

4)処理方法

 処理方法や検出方法については,他の有機塩素系化学物質に類似すると考えられますが,深刻な影響がでていないと考えられるために,これといった文献は見つけていません。

【参考文献】
 水道水質ハンドブック,2000年京衛研など。


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