深井戸 Resource Well
作成者  BON
更新日  2005/04/27

 井戸水源の計画設計上の注意点について整理します。井戸の設計についてはいずれ整理します。井戸関連は重要なので,資料はたくさんもってるんですけどね。

 重要なポイントとして,井戸には深井戸と浅井戸があります。ここで掲載する情報は主として深井戸についてです。浅井戸のなかで小規模なものについては構造的に深井戸と同等なものもありますが,浅井戸の方が構造にはバリエーションがあります。

井戸の新設
 新規に井戸(主として深井戸)をさく井する場合の設計条件等についてとりまとめました。
井戸の寿命と更生
 井戸の寿命の判断について。

【参考】
 当初は業務別のカテゴリーに分類していました。


井戸の新設

 ここでは新規に深井戸(極小口径の浅井戸についても構造に関する情報は流用可能)をさく井する場合の計画上の注意点を整理します。

イタリア,ポレッジ浄水場水源井戸

 被圧地下水を取水している井戸(右側の箱型の建物)で,上屋と浄水場のデザインを統一してあります。

 安全確保の必要性や,井戸を稼動させる受電・制御盤などを水濡れから守るために,特に理由がなければこのような簡単な建屋に納めるのが普通です。

(1)基本的な井戸の仕様

1)計画取水量

 計画取水量は,なるべく取水試験時の50%とすること。設計指針(1990)には70%としていますが,これについて筆者は比較的大規模な井戸の場合と考えています。井戸の取水可能量は,維持管理上の問題がなくてもじょじょに減退しますし,実際の揚水が始まってみないと判断できない不確定要素が多いので,十分に余裕をとりましょう。

2)井戸の影響範囲

 となりあった井戸がそれぞれに取水したとき,相手の井戸に影響が出ると判断される範囲を影響範囲と言います。実際のところ,影響範囲は当然その地域の地下水の賦存状況や透水係数の影響を受けますし,それ以上に,どの程度の水位低下があったら影響範囲とするのか,も悩ましいところです。

 実務上は,大体1mmの水位低下がある場合に影響があると見なし,影響のある井戸の間隔は概ね100〜300m程度と言われています。ただし,被圧地下水の場合などはこれより広くなります。また,影響範囲内に複数の井戸がある場合は群井の検討を行います。

3)井戸の口径

 浅井戸の場合は特に規定はありません。深井戸の場合,取水量に応じて以下のような目安があります。

 これはあくまでも目安ですので,ポンプの能力を決めてからその大きさで決めたり,試掘時の口径をベースにしたりすることもあります。誤解されやすいことですが,井戸の取水可能水量と井戸の口径にはあまり関係なく,大きな井戸を掘ったからといって取水可能水量はあまり変わりません。これは,スクリーンの閉塞を防ぐ意味で面積を大きくする効果は多少ありますが,井戸を多少大きくしたところで帯水層からの取水能力はあまり変わらないためです。

【参考】
 井戸に関する情報は設計指針(1990),さく井ハンドブックなどを参考にしました。また,昔,水道協会雑誌の特集記事で勉強した情報をベースにしております。


(2)群井の設計

 影響し合う範囲に複数の井戸を設置する場合,これらの井戸群を群井といいます。群井方式を用いる場合は,単独の井戸と異なり,その配置についての配慮が必要です。

1)群井の配置方法

 群井の配置に関する注意事項は以下のとおりです。

  1. 試掘井のデータを有効に活用できること。試掘井は通常群井の数よりも少なくさく井しますので,基礎調査の試掘井の有効活用を図るべきです。
  2. 行政区域,都市計画上の条件,用地制限を満たすこと。多数の井戸を配置するということは取水範囲が広がることで,通常の井戸水源であまり関係しない条件を意外に忘れがちです。
  3. 井戸の基盤面がなるべく一定であること。少しないものねだりかもしれませんが,取水条件が均等化できることが理想的です。
  4. 互いの連絡が容易であること。導水管の効率や,維持管理の容易に配慮しましょう。

2)揚水による影響の算定

 多井系での水位降下量を算定する方法としては,タイス(Theis)の方法がよく知られています。これは,「不透水性の基盤層の上に乗った十分に広い均質等方向性の自由水面層を地下水利とする場合,帯水層に完全貫入した井戸から定量揚水した場合の水位降下量を算定する」方法です。あまり詳しいことはわすれましたので自分で勉強してください。(^o^)

3)地質想定断面図

 特に複数の井戸をさく井する場合,滞水層の分布状況と地下水水位を示すため,さく井予定個所を含む想定地質断面図を作成すると親切です。

【参考】


(3)揚水水位,水位降下量の想定

 基礎調査時の調査結果をもとに,地域に設置する水源井の最低地下水位を算定し,井戸構造及び取水ポンプの能力の算定の基礎資料とします。最低地下水位は,自然水位に対し,

  1. 取水による水位低下
  2. 自然水位の変動

が生じても,取水に影響がないよう算定しなければならなりません。

1)取水による水位低下

 段階揚水試験とは,一定幅で揚水量を段階的にふやしてゆき,そのときどきの地下水位の低下量を測定,これを揚水量−水位降下曲線図(S-Q図)にプロットして変曲点(急に揚水量が減ってしまう限界点)を読み取ることで,限界点を得る方法です。取水による水位低下量は,段階揚水試験によってのみ得られるものと考えたほうがいいでしょう。便法はいろいろありますが,その結果の信頼性は他の方法とは比較になりません。

 複数の井戸の同時揚水がある場合は,Theis式によって群井の干渉を考慮し,個別井戸の地下水位の低下量を加算することになります。

2)自然水位の変動量

 忘れがちなのが自然水位の変動量です。地下水観測井の継続観測によって,年間を通じた水位の変化や天候や降雨による短期的水位変動について推測します。比較的小規模な井戸であれば誤差の範囲ですが,大規模な井戸では数メートルの想定水位の変化によってポンプの口径がワンランクアップしたりするので気をつけましょう。

【参考】


(4)さく井深とストレーナ,ポンプの位置関係

 井戸内のスクリーン位置や水面,井戸底面,ポンプの吸込口などは,取水による影響を井戸自体や周辺地域に与えないように,一定の間隔をもって設置する必要があります。とくに,局部的に流速の大きい部位があると,ここから土粒子が吸い出されることがあり,この結果,井戸の閉塞,砂たまり,ポンプの損傷,そして最悪の場合では陥没事故にまで発展する危険性があります。

1)井戸条件

 井戸の設計にあたっては,まずボーリングによって地下の構造を知る必要があります。地下構造の調査によって得られる井戸の設計条件は以下のとおりです。

  項目 算定方法               
地表面標高  測量データ(条件)
自由地下水面  観測データ(条件)
取水地下水面  揚水試験結果
基盤面  観測データ(条件)
  滞水層厚さ  3−4

2)スクリーンの設計

として,スクリーン1mあたりの取水可能量を以下のように算定できます。

0.425 m2/m ×0.010 m/秒 ×(1−0.6)×0.8×86400 = 117.5 m3/m/日

必要な取水量をこの値で除すると,最低必要なスクリーン長さが得られます。

3)スクリーン上に井戸を設置する場合(推奨)

 ポンプとスクリーンの位置関係としては,最も望ましい配置です。ポンプのストレーナは,取水最低水面より 2.75m(揚水管1本分)以上下の位置に設置します。また,ポンプのストレーナから井戸のスクリーンまで,3m の確保します。

ポンプストレーナ位置 取水地下水面より 2.75m下
スクリーン上面 ポンプストレーナより 3m下
スクリーン下面 スクリーン上面よりスクリーン長分下,帯水層下面
井戸底面 スクリーン下面より 5m以上下。
  さく井深さ 地表面から基盤面までの深度

4)スクリーンの下に取水ポンプを設置する場合

 スクリーンの上に設置できない場合(自由水面が低く,ストレーナ上に十分なスペースが確保できないなど)の次善の策です。取水管が長くなる分取水効率が落ち,井戸が深くなる分建設費用が上昇するのが欠点です。

 井戸スクリーンから取水ポンプのストレーナまでには 5mの余裕をとります。また,ポンプの底面から井戸の底までの間は,砂たまりとして 10mの間隔を確保します。

スクリーン上面 (取水地下水面から 6m以上ある場合は上に設置)
スクリーン下面 スクリーン上面よりスクリーン長分下,帯水層下面
ポンプストレーナ位置 スクリーン下面より 5m下
井戸底面 ストレーナより 10m以上下。
  さく井深さ 地表面から井戸底面までの深度

【備考】
 2001/02/12 追加。


(5)井戸の運転制御

 井戸からの取水は,通常,井戸水位と着水井の2点における水位検知でON/OFF制御します。ポンプは通常は常時常時一定量取水,流量一定制御で十分です。

 近隣井戸との権利関係から取水水量の協定が厳しい場合に想定以上の取水を抑制するため,地上で流量調整弁(電動/手動)で流量を調整したケースがありますが,これは例外でしょう。このケースでは,流量計や井戸水位を外から確認できるようにするなど,かなり特殊な要求が数多く提示されました...

 井戸に設置する計装は,井戸水位計(付属のものでよい,最近は電極でなく水圧検知式のものも),水圧計(井戸短管に付属のものでよい),流量計(流量計室もしくは筐体が必要)などです。また,付属の装備として,空気弁,逆止弁が必要です。

【参考】


井戸の寿命と更生

1)井戸の寿命

 井戸水源は,水脈の枯渇や移動などにより減退する他,常時使用によりスクリーン部が除々に閉塞するなどして,いずれは十分な取水ができなくなり,水源としての役目を終えるのが普通であるとされており,その期間は,管理状態が良好でも数十年程度と言われています。

 井戸の能力が減退しているかの判断は,本来は,揚水試験によって調査しなければ判断できません。

 しかし,このような手段が使えない場合で,どうしても井戸水源の将来活用の可能性を判断しなければならないような場合においては,便法として,取水状態を経時的に分析することによって傾向を把握し,おおよその判断をすることになります。このとき,データのはっきりした近傍の施設や,現場担当者の実感など,付帯的情報を極力収集することが重要です。

●井戸水源水量 判断基準の例

取水量が減退する傾向はみられず,十分な取水が可能とみられ,このことがデータにより確認できる。
経験的に減退する傾向はみられないが,不安定であったり,データがない。
若干減退の傾向が見られるが将来にわたって取水は可能と見られる。
明らかに減退の傾向が見られ,水源能力の半減もあり得る。
休廃止しているか,もしくは休廃止することが相当と考えられる。
 
2)井戸の更生

 井戸の減退の原因がスクリーンの目詰まりであれば,井戸に逆に水を送り込んで目詰まりを取り除いたり,薬品によりスクリーンに付着した目詰まりを溶解するなどして,井戸の能力を回復したり,同じ敷地内に新たに井戸をさく井するなどして井戸能力の回復を図ることができます。

 これを井戸の更生といい,さまざまに工法が開発されています。

【参考】


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