地表水源開発 Development of Resource
作成者  BON
更新日  2005/09/04

 水源の開発についての情報を整理するためのページです。ここでは地表水関係を扱います。

表流水水源の開発
 比較的小規模水道における水源選定時の手順などについて。
地下水水源の開発
 地下水水源の開発に関する情報。井戸の設計と併せてご参考ください。
海水淡水化
 海水の淡水化技術が近年注目されていますので,これを紹介。

【参考】
 地表水,地下水,海水を分離しました。


表流水水源の開発

 表流水水源の開発について。表流水に関する情報はこちらへどうぞ。

表流水性の水源
 表流水伏流水は表流水としての性質が強いのでとりまとめました。

(1)水利権

1)水利権とは

 水利権とは,「特定の主体が,河川のような公水を独占排他的に継続して引用しうる権利」のことです。

 水利権には大きくわけて,農業用など旧来の秩序を引き継いだ慣行水利権と,河川法23条に基づき河川管理者から水利用許可をうけることで発生する許可水利権があります。水道の水利権は通常このうち後者に該当します。これについては後述します。

 また,水利権は万人に等しく与えられるものではなく,先行者優先です。よって,水が豊富な場合にしか水利権が発効しない,暫定水利権や,暫定豊水水利権,なんてのも存在します。

2)取水対象と水利権

 表流水水源から取水する場合,水利権を有する,もしくは手に入れることが必要です。河川法2条の2には,「河川の流水は私権の目的となることはできない」と謳われておりますので,水利権を購入することはできません。このため,新たに取水をする場合,水利権の譲渡を受けるか,水利権を新たに創出することが必要になります。この場合でも,河川管理者の許可が必要で,水利権申請の手続きをとることになります。

河川法 第2条(河川管理等の原則等)

 河川は公共用物であって,その保全,利用その他の管理は,前条(第1条総則のこと)の目的が達成されるように適正に行わなければならない。

2 河川の流水は私権の目的となることはできない。

河川法 第23条(流水の占用の許可)

 河川の流水を占用しようとする者は,国土交通省令で定めるところにより,河川管理者の許可を受けなければならない。

 ただし,小規模なクリークの場合にはその管理者が町村長である場合があり,この場合には水利権の規定は厳密ではありません。

 また,地下水は水利権の対象にはなりませんが,伏流水の場合は河川水と明らかに交換があれば河川水を使用しているとして水利権の対象になります。どのみち科学的に定義を設けてこれらを分離することはナンセンスですので,伏流水は水利権がないと取水できない,と考えるくらい割り切ってしまった方がいいでしょう。

3)水利権の獲得

 さて,水利権は売買できず,また先行取得主義ですので,農業用水など,昔から使用されている水について優先で,かつ必要と宣言された量が配分されています。これを慣行水利権といいます。慣行水利権は,明治時代に旧河川法が制定される以前から権利ともいえる形で水利用の秩序が存在していたものを,旧河川法が制定されたときに許可を受けたものとみなして引き続き河川の水利用を認めたことに由来しています。実際,現在利水可能な水の多くは地域における先祖が営々と管理してきたものであって,その歴史的経緯に配慮しなければならないことも間違いないところです。が,我が国の稲作を中心とした農業用水利における水利は水位で把握されるため,水量についてはものすごく大雑把なのが現実です。

 対して,水道のように,その水系の水利権が確定した後から,水利権取得しようとすると,「河川において自由に使える新たな水量」をつくりださなければなりません。このためには,降雨などを貯留することで河川の流達を制御し,必要なときに必要な流量がある状態を新たに作る必要があります。これがダムを建設する理由です。このようにして得られる水利権を許可水利権と言います。流量調整の技術的説明によって,水利権の算定にはさまざまなパターンが存在します(暫定水利権やら季節水利権やら)。水道使用量に応じて水源税をかける動きが一時広がりましたが,特にダムを水源としている水道などでは,水源林の恩恵をうけられないからしかたなくダムなどによって水資源を創出しているわけで...合理性の問題があるのではないかと。

 農業用や漁業用として確保されている慣行水利権は許可水利権に移行することになっているはずなのですが,一種の既得権益ですので,この作業は十分には進んでいないようです。水利権分の精査は水道界の悲願ですが,日本は「農業立国」ですから,どうにもこうにも動きがとれませんでした。しかし,水系全体を見直す機運は高まっており,今後は動きがあるかもしれません。

 ちなみに,水利権の体系は国によってもかなり違います。基本的には先行取得者優先である点はほぼ一緒なのですが,水資源のひっ迫度や法体系,文化などによってアレンジがいろいろ。日本は行政認可の制度であるのに対し,水資源がひっ迫している中国は国家所有,米国では市場経済化しているなど。回教圏では,水不足時に権利の形態が変化する,という柔軟なシステムになっているんだとか。

 あと,余談ですが,水利権が売買できないことは,利潤を前提とする民営水道が水利権を確保できないことにつながる可能性があり,制度設計上の検討が必要ではないかとの指摘もあります。市町村が水道用として水利権を取得し,水道用に限定して提供するような形になるんでしょうか...いずれにせよ,隔靴掻痒のそしりは免れませんね。

4)水資源開発関連のサイト

 水資源開発に関係するサイトを紹介します。

国土交通省河川局【国土交通省】
 河川に関するさまざまな行政的取り組みについて掲載。
【水資源機構】
 全国の水資源開発を手がける公益法人,水資源開発公団が独立行政法人化。ネット告知では大きく先行。
ダム,堰
 ダム関係サイトを集める場所として作成。

【備考】
 関連資料:水利権実務一問一答(建設省河川局水政課水利調整室編著)


(2)水資源開発

1)利水を目的とした流域の管理

 河川行政は治水防災を最優先事項に主眼に組み立てられているので,利水については個別の河川単位で河川管理者の裁量にゆだねられるわけですが,地域の発展等によって広域的な用水の確保を喫緊に実施する必要がある水系は,水資源開発促進法第4条に基づいて水資源開発水系に指定され,水資源の開発と利用の合理化の基本的施策を水資源開発基本計画(フルプラン)として内閣総理大臣が決定することになっています。

 2005年時点で利根川,荒川,豊川,木曽川,淀川,吉野川,筑後川,の7水系が指定されているとのことです。

 余談ですが,外国では,流域や地下水等水資源全般を対象とし,治水,利水,環境など,水に関する基本的な取り決めを「水法」という法体系で管理している例が多いようですが,我が国の水管理は治水偏重で利水についての統一的な網がかかっておらず,利水のいびつさや地下水の管理不十分などの問題が放置されているとの意見があります。

2)水資源賦存量

 水資源賦存量(net annual precipitation)とは,ある地域の範囲における水利用可能量の理論的上限値で,対象地域における降雨量から蒸発散量を差し引き,これに面積を乗じて評価する値です。国土交通省の試算によると,我が国の2000年までの30年間における平均の水資源賦存量は4,200億m3で,このうち取水水量は2000年ベースで870億m3と計算されているそうです。(日本の水資源より)

 非常に概念的な値で実務上は使いにくいのですが,長期的な傾向や地域的な水資源の偏在を評価するのには有効なデータでしょう。

 渇水年における水資源賦存量は減少傾向で,多雨の年と渇水の年の差も大きくなってきています。現在整備済みの水源施設の多くが昭和30〜50年頃のデータに基づいて建設されていることもあわせて考えれば,利水安全度(後述)の低下は明らかといえそうです。

 また,地域偏在としては,関東臨海部,関西臨海部,北部九州,沖縄などで低い値となっているそうです。

3)開発水源の水量見積り

 水源水量の把握は,水源を選定する上で最も重要と考えられます。水質は浄水処理によって対応できる可能性がありますが,水量についてはその不足をカバーすることはできないからです。

 表流水の場合は,水利権の設定分が水源能力になります。トーマスプロットだとかの統計処理を行うのですが,私は学生時代にやったっきりで,実務ではやったことないので割愛します。だれか投稿してください。(^o^)

 ただ,我が国では,ダム等の水資源開発時における利水量の設計条件として,10年に1回程度の規模の渇水を想定することが多く,この考え方を利水安全度で1/10と表記します。利水安全度とは,河川水等を利用する利水者において取水の確実性や安定性の目安として使用される指標で,安定的に取水可能な水量に対してその水量を下回る渇水が発生する頻度を確率年を単位として示すものです。ある意味,10年に一回程度の渇水は許容範囲としているので,現在でも毎年のようにどこかで渇水騒ぎになります。しかし,近年の地球温暖化傾向は降雨の不安定化や少雨化をもたらし,渇水の発生頻度の上昇となって現れ,既設の水資源関連施設の利水安全度は設計時よりも低下する傾向にあります。

もっとも,渇水確率年をたとえば20年にすると,このことによってダムに対する利水者の負担が増えてしまうので,ロジックとしてはこの点を認識したうえで,10年確率のままで行っているようなんですが...このように,平均の需要が低下傾向であるから水源開発が不要というのは少し短絡的な場合もあるようです。

 ちなみに,海外ではこのあたりはかなり融通が効くようです。たとえば,アメリカ,カリフォルニア州では,降水量が非常に少なくかつ偏っているのですが,水源地域と水需要地域は非常に離れているものの,農業用を中心とした巨大な導水路を構築し,需要域でも貯水出来る所では極力貯水する,といった工夫がなされています。特に我が国と異なる点は,豊水期水量の取水や貯留などの積極的な水確保オープンな合意形成方法などとのことです。(福岡市調査団の報告などより)

 また,長期的な降水量の減少傾向も気になる問題です...この辺は以下のサイトに非常に詳細な情報が載ってますので是非ご訪問をば。

日本の水資源【国土交通省】
 日本の水資源の現状などについて完全網羅。

 要は,計画水量や現在水量と比較して水資源容量が大きいからといって,それがただちにムダとは言えない,ということです。長期的な降雨の不安定化の結果,は利水安全度の低下傾向にあることが指摘されています。さらに例えれば,我が国の原油量は170日と約半年分あります。じゃ,ダムの容量が日最大の1.5倍あったとして,それが過大といえるでしょうかってことですな。まあ,のべつまくなし作りまくってるような状態もちょっと変なので,じっくりと腰を据えて検討してみることが必要でしょう。

4)河川水位

 基本的な事項ですが,河川水の取水を行う場合は,その河川の水位に関する情報が必要となります。必要に応じて水位−流量曲線を作成する,などの指針では規定されていますが,近年では,大きな河川から水道屋が取水可能量を計算するなんてケースはまずありません。というのも,水利権がフリーで得られる河川なんてあり得ないですから...

 また,取水の検討ですから本来は渇水,豊水などを河川の流量で比較検討したいところですが,河川の形状は複雑ですから流量の計測は容易ではありません。よって,河川流量の定義の仕方は,全て,水位による中央値的な考え方で決まっています。

 以上は年間での観測値ですが,さらに計画では,以下のような情報も併せて収集します。順に説明します。

 これまでの記録での最大,最小の値ですね。わかりやすくていいです。このうち,最大渇水流量を取水施設の設計条件とすることが一般的です。

 水利権使用許可時に基準とされる水量,水位で,従来は過去10年間における最大渇水流量と水位でしたが,近年の降雨の変化から,20年2位,あるいは30年3位などで検討する動きもあることは前出のとおり。一般に条件は厳しくなるそうです。

 治水計画において最大としている水位,水量です。施設の設計上条件のうち,特に浸水対策の設計条件となります。河川管理者に教えてもらいましょう。

5)水源開発からの撤退

 表流水による水資源開発は水源地における大きな犠牲の上になりたつ宿命を抱えております。このために,民主的な手法による事業の進行は,宿命的に非常に時間がかかります。この結果,工事費用の増嵩,補償費の加速度的増大など,経済的にも大きなひずみをもたらしました。

 ところが,現代社会の方は,その構造が激しく変革する時代に突入しました。高度成長期には重厚長大型産業による成長お著しい足かせとなった水資源でしたが,現代における産業構造は水資源依存度が低下しており,水の回収再利用に対するインセンティブも相俟って,水需要としての水源開発は見直しを余儀なくされる例が多数でてきています。

 そして,ついには,総務省行政局により平成13年7月6日,地域水資源利用の合理化に関する勧告がなされるにいたりました。

水資源に関する行政評価・監視結果に基づく勧告【総務省】
 総務省による水資源計画の監査結果。

 これにより,全国各地で水資源開発の見直し,需要の精査,用途間の転用などが推進されるようになってきました。

事業計画見直しの事例
 当サイトの事業計画見直し事例集へ。

 さて,ここで問題となるのは,主として多目的ダム(利水と治水の双方を目的としているケース)に参画していた場合の撤退による費用負担の再配分のルールです。この,いわゆる「撤退ルール」は,平成15年10月付けの水資源公団改め,水資源機構の設立時に定められたものが合理的であるとして準用されることになっています。いくつかの類型にわかれていて詳しい解説は資料を調べてみてください。

 基本的には,利水者の都合による場合は,当初より参加しなかった場合の仮想的な費用を算出し,これと撤退前の費用の差分が撤退を申し出た利水者の負担になる,というのが基本ルールのようです。対して,治水上の理由によりダム全体を中止する場合は,治水側=国の全額負担,ということのようです。詳しい判断基準は以下のサイトなどが参考になります。

【(財)河川情報センター】
 くわしい図入りでPDFになっていました。

【備考】
 平成16年度水道担当者会議資料等。


(3)原水水質の把握

 水源水質の想定においてもっとも重要なのは,「原水水質の良好な水源を得ること」に尽きます。何を当たり前のことを,と思われるかもしれませんが,あえてこう言うのは,「水質の測定/処理技術には常に限界がある」からです。原水の悪化が浄水に予測しがたい影響を及す可能性がある,高度浄水処理などコストのかかる処理を導入する必要が発生しうる,など,良好でない原水を使用する場合のデメリットは無視できないものがあります。「ローマの水道」がそうであったように,なるべく水質の良好な上流側からの取水を心がけるべきでしょう。(水利権がそれを許さないケースは枚挙に暇がありませんが)

 また,水源水質を測定するときは,その水源のそのときの水質を測定しているに過ぎないことをよく理解しておく必要があります。しかし,水源を選定する場合など,十分に測定回数をとれない場合もあります。このような場合に水源水質情報を補足するために,いくつかの工夫の余地があります。計画時点における水源水質の把握についてとりまとめます。

1)水質試験の実施

 当然,水質調査の実施がもっとも重要です。長期的にその水源の水質を把握するためには,継続的に複数回の水質測定を繰り返し,その傾向をよく分析しなくてはなりません。

 3年程度のデータがあれば理想ですが,最低でも地下水で1〜2回,表流水で4季に各1回の計4回程度の採水と46項目試験を,また上流の状況によっては1回以上の監視項目試験を行うようにしてください。

2)聞きこみ

 水道推進委員の方などに,予定水源の状況を聞くことで,渇水時の変化の状況などに関する貴重な情報が得られることがあります。また,上流集水域の現状などは,当然十分調査しなければなりません。水利権など権利関係の交渉の際,このような情報も併せて収集しておくべきでしょう。

3)生物相の観察

 生物が環境状態にどの程度敏感であるかについては一定の知見があるため,原水の生物相を観察することにより,水の長期的な清浄度を把握することができます。また,急性毒性物質が水源に混入した場合などは,原水に生息していた生物の大量死滅が発生することがあり,比較的容易に発見できます。このような場合は水源域に汚染源がないかどうか,よく確かめましょう。

4)地名の確認

 地名に注目することでヒントが得られるケースがあります。

【備考】


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