取水施設 Surface Water Intake
作成者  BON
更新日  2007/01/22

 取水施設とは,表流水伏流水を確実に取水するための施設のことです。結構ユニークなのもありますが,まずは常識的なやつからご紹介します。

取水施設の種類
 水道で使用する表流水用の取水設備について紹介。とりあえずは直接取水堰取水取水塔を。最低でも集水埋管くらいは掲載しないとバランスが...
深井戸
 地下水の取水は井戸により行います。別ページをご参考ください。

【参考】
 以前はスクリーンを製品のページにおいてあったんですがこれを改めてこちらにまとめました。


取水施設の種類

(1)直接取水,取水口による取水

 比較的流況の安定した大規模な河川や湖沼からの直接取水を行う場合には,堰などにより水位を安定させ,取水口や取水枠から取水するのが普通です。ただ,取水口では流芥物の侵入があり,取水枠では逆に沈降物による閉塞という問題がありました。水中では掃除もままなりません。このようなニーズを踏まえ,現在も取水設備と流会阻止装置の研究は,さまざまに行われております。

イタリアのアンコネラ浄水場取水口

 ここでは堰はかなり離れた下流にあります。川の中に流芥防止用の浮上柵が設置されていました。これなら効果的に動作するでしょうねぇ...日本では河川管理者の権限が強く,オイルフェンスなど緊急時を除いてこのような方法は許可してもらえません。

 さて,直接取水の場合は取水口の設計にいろいろ工夫が必要になります。

 まず,取水口の形状寸法は,計画取水量をベースに取水口流入速度から決定しますが,その取水口流入速度は早すぎても遅すぎてもいけません。遅すぎると導入部で砂の堆積が起こりますし,早過ぎると魚,特に稚魚が逃げ出すことが出来なくなってしまいます。一例ですが,流入部の流速は0.4〜0.8 m/秒程度,沈砂池内の流速は0.02〜0.07 m/秒を設計仕様とした例があります。

【備考】


(2)取水堰による取水

 取水堰を設置し,これに取水のための設備を組み込む方法です。取水の方法としては直接取水とする方法,集水埋管を利用する方法,ストレーナ装置を利用する方法などがあります。

 直接取水は設備が簡単に構築でき,河川内の構造物を少なくできるメリットがありますが,流況によっては砂や流芥の侵入が激しく,清掃の頻度が高くなるケースがあります。また,このような事情から沈砂池を併設することが基本条件になろうかと思われます。

岩手県S町某簡易水道の取水堰

 集水埋管による方法の事例です。写真ではかなり分かりにくいですが,堰の上流側に集水埋管を設けてあり,ここからすぐそばの浄水場に導水しています。下流側の石は堰の押さえのようです。

 ストレーナ方式としては,河川自流を利用して流芥物を押し流す機能を備えている製品なども開発されていて,特に,落ち葉などの混入が多い,山間部の簡易水道の取水口などで,非常に優れた効果を示すそうです(実際に導入した事業体さんのお話)ので,お勧めしていいのではないかと思います。

クリークからの直接取水施設

 F県T町の小規模取水施設の事例。壁沿いのクリークや湧水を側溝や小型の堰で集めて取水しております。落葉の進入を防ぐためのカバーが特徴。

【備考】
 昔係わった懐かしい取水場の近くを通りかかったので道路から撮影しました...


(3)取水塔

 取水塔とは,貯水池などの水面・水深の安定した水源から大規模に取水するときに採用される形式です。構造物が大きくなる欠点はあるものの,選択取水が可能な利点があります。

東京都水道局山口調整池の取水塔

 右の写真は東京都水道局山口調整池の取水塔です。0104 現在,山口調整池の工事に伴い取水塔の改修工事を行っていますので,その現場を見学したときの写真です。

 戦前に建設された,歴史ある取水塔です。外面はレンガ張り。写真では改修工事中のものですので,制水扉が外されています。取水口がたくさん設けられているのは選択取水,すなわちそのときそのときに最もいい水を取水するための工夫です。互い違いに取水口が設けられている理由はよくわからないのですが,構造的な理由ではないかとのことでした。

 訪問時は基礎工事をやってました。現場で聞いたときはフーチングの下はべた基礎らしいとのことでしたが,設計指針2000の76ページに杭基礎である旨の図が掲載されてました。お詫びして訂正させていただきます。

 ここの場合やダムサイトなど,人工の池の場合は地盤はあまり問題にならないようですが,自然の湖などで取水塔を設置しようとすると,地盤が軟弱なうえ水の締切工事が大変なので,基礎工事を中心として結構な難工事になるようです。

千葉県水道局の取水塔

 右の写真は利根川からの取水施設です。河川からの取水の場合,堰堤をハネて設置するために,取水搭はどうしても川の中に設置されることになります。よって,取水搭へ向かうための橋を設けます。災い転じてなんとやらですが,このために,取水搭は外部からの侵入がしにくく,今般高まってきているセキュリティの点からは多分優れていると思います。

 また,取水の最大の敵,流芥が流入してきにくい,もしくはそれらのゴミがそのまま下流に流れていく,というメリットも,実は見逃せなかったりします。

香川県某市の取水塔

 貯水池からの取水施設の例。スタンダードな形式ですね。

【備考】
 現場見学時の聞きとりと撮影写真より。


(4)浅井戸や集水埋管

1)構造

 浅井戸とは不圧地下水を取水するための井戸で,大体は10m程度の深さのものが多いのですが,時には40m近くの深さに至っているものもあります。

 集水埋管とは,浅井戸を下方向ではなく横方向にはわせたような構造をもつ,管もしくは渠構造の取水施設で,その基本的な構造は右図のようになっています。

 ちなみに,浅井戸の途中から周囲に集水埋管の小さいものを伸ばしたような,双方を組み合わせたようなものもありまして,これは満州井戸などと呼ばれています。

 取水水質は基本的に表流水と同等程度です。ただし,保護材や川床から埋管までの浸透距離や条件によっては,浸透にかかる時間が長くなるために,水質変化が抑制されたり,若干の水質改善が期待できる場合もあります。

 なお,表流水取水を前提としながら土壌をろ過して取水することにより水質の改善を期待する取水方法もあり,浅井戸と同等の構造を持っているものはバンクフィルトレーション(土手によるろ過),もうすこしクローズドな構造を持っているものは土壌浸透処理や珪藻土ろ過などと呼ばれています。土壌を浸透させる分,濁度変化等はかなり抑制されますが,取水可能量もまた低下します。その他の水質項目については一概には言えませんで,滞留時間や空気,栄養塩などのバランスが安定する場合に一定の生物処理と同等の効果が発揮される場合もありますし,汚染の進んだ原水では逆に水中の空気を使い切って腐敗してしまう懸念もあります。通常はそれほどの効果を期待しているわけではなく,取水時条件でそうなってしまう,といった程度ですが,積極的に安定した処理性を発揮させることを日本のように流況や季節が大きく変化する環境で期待するなら,相当な技術力か運が必要でしょう。

 なお,浅井戸が小規模だったり深かったりする場合,深井戸と同じ構造を持つ場合もあります。このようなケースは深井戸を参考にしてください。

深井戸
 地下水の取水は井戸により行います。別ページには主として深井戸に関する技術情報を掲載しています。

2)長所と短所

 浅井戸,集水埋管からの取水のメリットを以下に示します。

 デメリットとしては以下のようなものがあげられます。いずれも,主として設置時,メンテナンス上の問題です。

 このように,普段使うにはメリットの大きい取水方式ですが,維持管理や,何より河川管理者との調整が大変なのがこの方式の難点です。

【備考】
 諸般の事情により,集水埋管に関する情報を追記する必要性が生じましたので作成しました。


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