サラゾピリン(SASP)、ペンタサ(5-ASA)の薬効と作用機序
〜抗炎症療法の側面から〜


サラゾピリン(成分名:サラゾスルファピリジン、SASP)は、RA(慢性関節リウマチ)の薬としてスウェーデンで開発されたものです。その後、IBD(炎症性腸疾患疾患)に効いたので、今ではそちらが主流となってしまいましたが、近年、やっと日本でもリウマチの治療薬として認めら始めてきました。 何故、サラゾピリンがIBDやRAなどの炎症性疾患に効くのか、作用機序に関して色々な報告がありますが、結論は出ていません。 下記のようにいくつかの有力な仮説がありますのでご紹介します。

抗菌作用:関節炎の原因となる細菌をを減少させる。(仮説)
抗炎症作用:サラゾピリンも非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)と似通った作用機序より臨床効果を示している。
一方でNSEAIDsは即効的であるがサラゾピリンは効果発現に最低数週間を要する点などから、サラゾピリンとNSEAIDsの作用機序の異なる部分も考えられています。
免疫抑制作用:T細胞増殖抑制、NK細胞活性抑制、B細胞活性抑制、サイトカイン産生抑制、TNF受容体拮抗など。
上記のように抗菌作用、抗炎症作用、免疫抑制作用の相加的、相乗的効果により臨床的効果を示していると考えられています。

サラゾピリン(サラゾスルファピリジン)は、大腸細菌により、SP(スルファピリジン)と5-ASAの二つの成分に分解されますが、分解前、分解後のどの段階で臨床効果が発現されているのか、その作用機序は十分に解明されていません。 (図@参照)




サラゾピリン(SASP)とペンタサ(5-ASA)の比較


サラゾピリンからSPを取り除いたペンタサ(主成分5-ASA)は、副作用が少ないという点から、IBD治療薬としてより発展した薬として注目されています。我が国でも1996年の夏以降から、IBDの治療に5-ASAのみの薬(ペンタサ)が認可され、サラゾピリンに代わって使われるようになって来ています。
英国の研究者グループが5-ASAとサラゾピリンの治療効果を比較したところ炎症性腸疾患(IBD)においての臨床効果は、ほとんど変わらないという報告が出されました。サラゾピリンの一成分である5-ASAが抗炎症効果の中心であり、他の成分(SP)は、5-ASAを腸に運ぶためのキャリアであるとの考え方が現在主流となっています(サラゾピリンにおける副作用の多くは、SP成分からのものが多く、5-ASA単体では少ないと考えられている)。
しかし、その一方で、サラゾピリンからペンタサに移行した患者さんの中で(特に潰瘍性大腸炎)症状が悪化したという例もあり、この事から5-ASAの効果以外にもプラスαの臨床効果が認められるというような報告もされています。
最近になって、SASP未変化体自体が血管内皮細胞に作用し、そこで産出されるアデノシンが抗炎症作用を発揮しており、このような作用は5-ASA単体ではみられないとの新しい報告が出されています。この説はサラゾピリン(SASP)とペンタサ(5-ASA)の臨床的効果に、違いのあることの一つの裏付けとして考えられています。


サラゾピリン、ペンタサの比較


サラゾスルファピリジン
(製品名サラゾピリン)

    メサラジン
   (製品名ペンタサ)
成分
   サラゾスルファピリジン
      SPSA
5-ASA
(5アミノサリチル酸)
経過 大腸で二つに分解される
スルファピリジン(SASP)
 +
5-ASA
5-ASA単体が胃酸の影響を受けずに腸まで運ばれる
体内吸収率  SPSAとして上部小腸から約10%程度、
その後大腸で分解される。
 分解後、SPの吸収率は比較的高いと
されているが 5-ASAは吸収率は低
く、主に腸管に直接働く。
5-ASAの吸収率は低く、ほとんどは腸管に直接働く。
臨床効果
免疫的効果
抗リウマチ薬
IBDの治療薬
IBDの治療薬
特に小腸型クローン病に有効
一部抗リウマチ効果?
副作用
    頭痛、胃炎、精子減少
  

膨満感、発疹
※サラゾピリンと
比べて副作用が
少ないとされている

抗リウマチ薬としてのサラゾピリン(SASP)

リウマチ性の疾患に対する臨床効果を示す活性物質がSASPであるか、それとも分解後の成分(SPと5-ASA)であるかは結論は出ていません。しかしながら、SPと5-ASAの免疫調節作用はごく弱いためSASP自身が活性物質である可能性が高いのではなかと考えられています。 SASPが関節の炎症部分に直接作用しているのか、免疫調節作用により臨床効果を示しているのかは明らかではありませんが、SASPには即効的な効果がありませんので、炎症部分への直接的な作用ではなく、全身への作用(免疫調整作用)の可能性が高いのではないかという推測がされています。

IBD治療薬と抗リウマチ薬としてのSASPにおける作用機序

一般的にはIBDとリウマチ疾患に対するサラゾピリンの作用機序は異なっていると考えられていますが、IBD、リウマチ性疾患ともに同じような自己免疫疾患であることから、一部作用機序が共通している可能性もあるようです。 特に強直性脊椎炎、乾癬、ライター症候群などの血清反応陰性脊椎関節症においては、腸炎の合併も高頻度であり、逆にIBDにも脊椎関節炎の合併がみられることから、SASPの免疫調整機能や抗炎症作用が、同時に、腸炎や脊椎関節炎への共通の効果を発揮しているのではないかと考えられています。

抗リウマチ薬としてのペンタサ(5-ASA)

最近では、5-ASA単体でも抗炎症作用があり、抗リウマチ薬としての臨床効果も報告もされていますが、5-ASAのほとんどが体内に吸収されずに腸壁に直接働いていることから、慢性関節リウマチや血清反応陰性脊椎関節炎に伴う(自覚症状のない腸炎を含めた)腸疾患の炎症部分に直接作用することにより、同時に脊椎関節の炎症をも抑制するのではないかという推測もあり、今後、ペンタサの抗炎症作用にも期待されています。

サラゾピリン、ペンタサの今後の展望(まとめ)
〜抗炎症療法としての側面から〜

サラゾピリンやペンタサなどを単なる炎症性腸疾患の治療薬としてとらえるのではなく、これらの薬剤が広い意味での抗炎症療法として、IBD(炎症性腸疾患)やリウマチ性疾患以外の様々な炎症性疾患おいての有効性が期待されています。

例えば、IBD、RA、AS、乾癬、ライター症候群などの疾患に共通して合併するぶどう膜炎(眼症状)などの治療において、サラゾピリンを抗炎症療法の薬剤として使用することにより炎症を抑制するというような可能性が考えられています。更に色々な炎症疾患に対して、サラゾピリンの他にも免疫抑制剤、抗サイトカイン療法などの抗炎症療法が試されていますので今後が
注目されます。
IBD(炎症性腸疾患)、リウマチ性疾患、ぶどう膜炎などは、基本的には別の病気ではありますが、炎症性疾患という観点からとらえて、共通点や相違点を考えて行くことにより抗炎症療法のこれからの展望が見えてくるのではないでしょうか。


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