強直性脊椎炎患者の急性前部ぶどう膜炎
とHLA-B27サブタイプおよびDR8



 はじめに強直性脊椎炎(Ankylosing spondylitis、AS)は脊椎や関節を中心に炎症性の障害をおこす原因不明の疾患で、HLA-B27と病因との関連が指摘されています。また、ASには急性前部ぶどう膜炎(Acute anterior uveitis、AAU)が約半数に合併することが知られています。この章ではAS患者におけるHLAとそれらの対立遺伝子(HLAを規定する遺伝子、サブタイプ)、およびAAUの合併とHLAとの関係について研究してきた結果を報告いたします。

 対象とした患者さんは日本人AS患者41名(男性36名、女性5名)で、AAUの合併があった患者は22名、なかった患者19名です。この他にASのないAAU単独の患者30 名を対象に加えて検討しました。HLA-B27は患者群41名に対し34名 (82.9%)にみられ、正常群の138名中1名(0.7%)と比べ著しく高頻度でした。
 次にHLA-B27の頻度をAAUの有無で分け表1に示しますと、AAUのあるAS患者では 22名のうち19名(86.4%)、AAUのないAS患者では19名のうち15名(78.9%)にみられ、この2群間には差はありませんでした。またAAU単独の患者群ではB27 が30名中4名(13.3%)にみられ、AAUのあるAS患者群と比較すると頻が少ないものの、正常群と比較すると多い傾向がみられました。B27対立遺伝子の頻度はAS患者群34名のうちB*2704は28名(82.4%)、B*2705は5名(14.7%)、その他のものが1名ありました。またその頻度はAAUの有無では特定の傾向はありませんでした。
 AAU単独の患者4名ではB*2704は1名、B*2705は3名でした。次にAS患者のHLAクラス (DR,DQ,DP)について検討したところ(表)、HLA-DR8が AAUがある患者群では22名中12名(54.5%)にみられ、ない患者の19名中1名 (5.3%)と比べ高頻度でした。この13名のHLA-DR8の対立遺伝子はDRB1*0803が12 例、DRB1*0802が1例で、この割合は正常群と同じでした。なお、AAUのみの患者群と正常群を比較したところ(表)、HLA-DR8に特定の傾向はなく、AAUは HLA-DR8だけで発症しているわけではないと推定されます。
 考察強直性脊椎炎はHLA-B27との相関が非常に強く、遺伝的発症要因として重要です。これまでにHLA-B27の対立遺伝子の種類はB*2701から2708までの8種類が報告されていますがその表現頻度に人種差があり、白人ではB*2705が約9割、タイ人ではB*2704が約8割、インド人ではB*2704とB*2705がそれぞれ4割、5割を占めています。
 今回対象とした日本人患者群ではB*2704が82.4%、B*2705が 14.7%とタイ人に近い結果が得られています。また、インド人患者において B27を持つ人でもそのサブタイプがB*2706であれば発症しにくいという報告もあります。まとめ AS患者群においてAAUの有無とHLA-B27対立遺伝子との関連はみられませんでした。しかし、AAUを持つAS患者群でHLA-DR8の頻度が高いという結果が得られました。このことから、HLA-DR8はASという特定の疾患のもとでのAAUの発症に関与していることが推定されます。なおAAUのないAS患者群でDR8を持つ患者1名については、ASの診断後の経過観察期間が4年と短いため、この結果をふまえると特に今後の経過観察が重要と考えられました。 AS患者におけるAAUの発症にHLA-DR8がどのように影響しているかはいまのところ不明ですが、 HLAを含めた遺伝的因子および細菌感染などの何らかの環境因子を含めた多因子によるものである可能性が高いと思われます。その機序に関しては現時点では不明な点が多く、今後の研究に一層の努力をしていきたいと思います。


強直性脊椎炎患者のAAUとHLA


AS患者群
AS患者群 AAU単独 正常群
AAUあり AAUなし
n=22 n=19 n=30 n=138
HLA-B27 19(86.4%) 15(78.9%) 4(13.3%)) 1(0.7%)
HLA-B27(B*2704) 15 13 1 1
HLA-B27(B*2705) 3 2 3 0
その他 1 0 0 0
HLA-B27なし 3 4 26 137
HLA-DR8 12(54.5%) 1(5.3%) 8(26.7%) 34(24.6%)
HLA-DR8 (DRB1*0803) 11 1 6 25
HLA-DR8 (DRB1*0802) 1 0 2 10

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