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」■「主権者のための社会科教科書」
1 はじめに
(1)編集方針
ここで紹介する「主権者のための社会科教科書」は、私が考案した(そして実際の授業でも一部使用したことがある)高校「現代社会」用の“教科書”です(もちろん現時点では単なる私製プリント集にすぎませんが)。実際に学校現場で使われている文科省検定済の高校「現代社会」用の教科書は、学習指導要領に基づいて青年期・政治・経済・国際の4分野に分割された構成になっていますが、ここで紹介する「主権者のための社会科教科書」は、
<日本国憲法を通して現代社会を学習する>というコンセプト(基本理念)に基づき、現代社会における諸問題を一貫して日本国憲法の体系に位置づけるユニークな構成になっています。
(詳しい編集方針については、別項を参照してください。)
>>ここで構想されている「教科書」の編集方針
(2)2つの理念
「主権者のための社会科教科書」の構想に対しては、「学習指導要領を無視した教科書づくりなんて理想に過ぎない」と冷ややかに言われます。しかしこれは“理想”だけにとどまらない実際的な事柄を含んでいます。「主権者のための社会科教科書」の基礎にあるのは、授業のあり方に対する2つの理念です。実際に重要なのはその2つの理念のほうかも知れません。その理念の一つは<「現代社会」の授業全体を日本国憲法を軸に学習する>ということです。これは既存の教科書を使いながらでも、やろうと思えばできないことはありません。しかしそのためにもっとも適した教科書を考えていった結果、「主権者のための社会科教科書」が生まれたのです。2つめの理念は、<授業全体を通して教科書をしっかり読む>ということです。知識の断片化を防ぎ、言葉でものを考える姿勢を少しでも養うことができる授業はどうあるべきかを考えていった結果、「主権者のための社会科教科書」が生まれたのです。(教科書をしっかり読む授業について私の考えの詳細は、別項を参照してください。)
>>「教科書を教える」授業は駄目なのか?
(3)誕生の経緯
<「現代社会」の授業全体を日本国憲法を軸に学習する>という理念は、十数年前に私が高校教員として働き始めた頃から持ち合わせていましたが、
実際に「主権者のための社会科教科書」の執筆に取りかかったのはN養護学校(病弱養護学校)に勤務していた時代(2002〜2008年度)です。N養護学校高等部には通常の高校の教育課程に準ずる課程があり、この課程に属する生徒を対象として
教科書をしっかり読む授業をするようになったことが契機となって、「主権者のための社会科教科書」が誕生したのです。
(その経緯について詳しくは、別項を参照してください。)
>>ここで構想されている「教科書」誕生の経緯
2 「主権者のための社会科教科書」の具体的な中身
すべてのページ(第0章〜第9章)を一括ダウンロード(約1.8MB)
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:試作品(実際に授業で使用したものを含む) 小見出し(試作品を準備中のものを含む) (空欄になっている部分は
素描段階)
←このマークをクリックすると各ページの案が表示されます。既存教科書からの引用箇所には典拠の表示が付いています。 |
基礎編(原則1ページ) |
標準編(原則2ページ) |
発展編(原則1ページ) |
第0章 プロローグ |
0−1 文章の解析力をつけよう |
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読解力こそ大切、文章の解析 |
日本国憲法前文の構造 |
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第1章 現代社会の成立 第1章を一括ダウンロード |
1−1 近代社会の誕生と民主主義の原理 |
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前近代と王権神授説、市民革命と社会契約説、3つのRと産業革命 |
社会契約説、民主政治の基本原理
、世界人権宣言 |
支配の正当性根拠、正義をめぐる議論 |
1−2 基本的人権の概要 |
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基本的人権と憲法、基本的人権の背景 |
自他を愛する心、基本的人権と青年期、人間の尊厳
、基本的人権と競争社会 |
青年期の特質と課題、アイデンティティの確立、葛藤を乗り越え希望に生きる |
1−3 民主政治のしくみと現状 |
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政治と法、直接民主制と間接民主制、議院内閣制と大統領制 |
憲法を補うルール、
政党と政党政治、少数派を守るしくみ |
自由主義体制、社会主義体制(民主集中制)、発展途上国の体制(開発独裁) |
1−4 資本主義経済の発展と民主主義の展開 |
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資本主義経済とは、資本主義経済の修正 |
資本主義の歴史的背景、階層格差の拡大、帝国主義と世界大戦、社会主義の成立、資本主義経済の修正 |
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神、20世紀の市場原理主義 |
1−5 国際社会の成り立ち |
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主権国家、国際法 |
主権国家の歴史的背景、国際法の歴史的背景、外交のしくみ、条約締結のしくみ |
国際化と文化的アイデンティティ、自民族中心主義との闘い |
1−6 世界経済のしくみと現状 |
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自由貿易と保護貿易、外国為替と国際通貨 |
金本位制と管理通貨制度、世界恐慌と第二次世界大戦、戦後の国際経済の発展 |
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第2章 日本国憲法の成立 第2章を一括ダウンロード |
2−1 明治憲法の時代 |
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明治憲法の特徴、富国強兵と対外膨張 |
植木枝盛の憲法案、天皇への絶対服従、軍の暴走、命がけで抵抗した人々 |
内村鑑三と『後世への最大遺物』、田中正造、☆映像で学ぶ(草の乱、白バラは散らず) |
2−2 戦争中の被害と加害 |
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日本国民の被害、日本による加害 |
治安維持法と特高警察、都市空爆と原爆投下、沖縄における地上戦、南京大虐殺、慰安婦と強制連行、
細菌兵器と毒ガス砲弾 |
☆映像で学ぶ(シンドラーのリスト、母べえ、GAMA月桃の花、蟻の兵隊) |
2−3 日本国憲法の成立と、基本原理 |
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日本国憲法の成立過程、日本国憲法の三大原理 |
GHQからの改憲指示、民間草案と女性の意見、象徴としての天皇 |
帝国議会の審議と修正、☆映像で学ぶ(日本の青空) |
2−4 謝罪と補償、責任者の処罰 |
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戦争責任者の処罰、被害者への謝罪と補償 |
東京裁判の評価、被害国への謝罪と補償、被害国民への対応、日本国民への対応、国際刑事裁判所の設置 |
☆映像で学ぶ(ミュージックボックス、東京裁判、苦い涙の大地から)、拉致問題 |
第3章 平和主義 第3章を一括ダウンロード |
3−1 国際紛争を避けるしくみ |
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集団安全保障のしくみ、国際連盟と国際連合 |
国際連合のしくみ、国際連合の役割、国際連合の課題 |
「神の平和」 |
3−2 東西対立と民族紛争 |
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冷たい戦争、デタントから多極化へ、冷戦終結と民族紛争 |
民族と国家、増大する民族紛争、難民問題、人権の抑圧、抑圧的な政府 |
パレスチナ問題、イラン・イラク問題、北朝鮮の問題、インド・パキスタン問題 |
3−3 日本国憲法の平和主義 |
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あたらしい憲法の話 |
国際協調主義、平和思想の結実、戦争・軍隊を放棄した国 |
9条の思想的背景 |
3−4 憲法9条と自衛隊・日米同盟 |
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憲法9条と自衛隊、サ条約と日米安保条約、湾岸戦争後の日米関係 |
憲法9条と自衛隊、地位協定と米軍基地、有事関連法の整備、あるべき安全保障政策 |
9条に対する歴代内閣の姿勢、9・11テロと日本 |
3−5 軍縮と貧困撲滅のための国際貢献 |
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軍縮をなくす努力、貧困をなくす努力、近隣諸国の信頼を得る |
軍備をなくす努力、軍縮を阻む動き、信頼感を育てる、軍縮における指導性、貧困克服における指導性 |
なぜ世界の半分が飢えるのか、世界が100人の村だったら |
第4章 基本的人権の一般原理 第4章を一括ダウンロード |
4−1 個人の尊重と、幸福追求権の概要 |
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基本的人権の分類 |
個人としての尊重、公共の福祉による制限、公共の福祉の維持、
家族と暮らす権利、尊厳死 |
子どもの権利条約・国際人権規約から見た日本の現状、防犯と警察権力 |
4−2 平等権
と、関連の問題 |
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法の下の平等、平等を実現する諸制度、今も残る差別や不平等 |
外国人や異民族の差別
、信条による差別、女性に対する差別、子どもに対する差別、社会的地位による差別、障害者に対する差別、その他の差別 |
差別の心理的背景、権威主義的性格、夫婦別姓 |
4−3 プライバシー権と、関連の問題 |
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プライバシー権 |
平穏な生活の混乱、犯罪報道の問題点、犯罪歴の公開、差別の助長、自由の侵害、名誉毀損の罪 |
住基システム、国勢調査、Nシステム、Googleストリートビュー |
第5章 精神的権利 第5章を一括ダウンロード |
5−1 精神的権利の概要 |
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精神的権利とは、精神的活動と個性 |
精神的権利の必要性、「魂」への配慮、理性の重視 |
批判的精神とは何か |
5−2 世界の諸宗教 |
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宗教とは何か、世界の三大宗教 |
宗教の分類、キリスト教、イスラム教、仏教 |
日本の伝統思想(神道・陰陽道・儒学・国学など)、 |
5−3 内心の自由と、関連の問題 |
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信教の自由の意義、内心の自由と憲法 |
剣道実技拒否事件、自衛官合祀問題、靖国神社参拝問題、麹町中学校内申書事件、自衛隊による思想調査、学問の自由 |
学問の自由の限界、政教分離の判断基準と憲法改正 |
5−4 表現の自由と、関連の問題 |
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表現の自由の意義、表現の自由と憲法 |
公共施設の利用、反戦ビラ等の配布、「日の丸・君が代」問題、
公務員の政治的行為、出版物の事前差し止め、通信傍受の危険 |
取材・報道の自由、法廷でのメモの可否、表現の自由の制限 |
5−5 教育を受ける権利と、関連の問題 |
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憲法と教育基本法、学校教育と社会教育、文科省と教育委員会 |
教育の有償の問題、自由競争化の問題、教科書検定の問題、その他の問題 |
新教育基本法の思想、教員の地位に関する国連勧告、進学競争 |
5−6 知る権利
と、関連の問題 |
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知る権利と情報公開、反論権(アクセス権) |
公文書の保存と閲覧、放送内容への期待権、IT革命と情報格差、情報化社会の功罪 |
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第6章 身体的権利 第6章を一括ダウンロード |
6−1 身体的権利の概要 |
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身体的権利の意義、憲法が保障する権利 |
罪刑法定主義、法定手続きの保障、刑事裁判のしくみ、検察審査会、被害者の裁判
への参加、裁判員制度 |
刑法入門、実刑判決と執行猶予、拘置所と刑務所、死刑の執行 |
6−2 身体的権利の関連問題 |
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冤罪の悲劇、冤罪はなぜ起きるか |
推定無罪の原則、自白の強要、
証拠の捏造と不提出、鑑定の問題、死刑の是非、犯罪被害者の保護 |
死刑は存続すべきか廃止すべきか? |
第7章 経済的権利 第7章を一括ダウンロード |
7−1 経済的権利の概要 |
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自由権としての権利、社会権としての権利、新しい人権たる権利 |
過密化と過疎化、旅券とビザ、国籍と帰化、職業選択に対する規制、国際化する現代社会 |
民法入門、司法試験改革と法科大学院の設置 |
7−2 財産権と、関連の問題 |
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いろいろな財産権 |
財産権の意義と制限、財産に対する課税、財産権への制限・例外
(土地収用、利息制限、著作権の例外、商標権)、公共の福祉との均衡 |
貧富格差の解消、破産手続き |
7−3 生活物資の確保と消費者保護 |
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社会権としての財産権、
安全な水と食料の確保、安全な建物の確保、エネルギー源の確保、事故を防ぐ努力 |
消費者主権、消費者問題の発生、悪徳商法と詐欺、安全の確保、資源・エネルギーの確保 |
レアメタル、防災対策、振り込め詐欺、自動車や自転車のシェアリング
、遺伝子組み換え作物、原子力発電、失敗学 |
7−4 生存権と社会保障 |
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社会保障の意義、日本の社会保障制度 |
社会保険、公的扶助、社会福祉、公衆衛生と医療 |
ベーシックインカム
は是か非か? |
7−5 労働基本権
と労働問題 |
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労働者の権利の必要性、労働基本権と労働三法 |
労働基本権と労働三法、労働組合の結成と発展、労働基本権の制限、今日の労働問題、労働組合の現状、社会参加への道をひらく |
日経連「新時代の日本的経営」と非正規労働の拡大、名ばかり管理職、過労死・過労自殺、警察官のストライキ権 |
7−6 環境権 |
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環境権の背景と意義、環境権の発展、環境権の国際化 |
公害対策、塵肺問題、アスベスト問題、良好な生活環境の保全、オゾン層の破壊、森林消失と砂漠化、国際的な協力の必要性 |
京都議定書と将来構想 |
7−7 日本経済のしくみと現状@ |
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3つの経済主体、自由競争に対する規制、企業の社会的責任 |
株式会社のしくみ、市場価格、市場経済の限界、独占的な市場支配、市場原理主義 |
商法入門、フランチャイズ方式 |
7−8 日本経済のしくみと現状A |
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金融とは何か
、日本銀行の役割、財政の役割 |
景気変動と景気対策、戦後の日本経済の歩み、多国籍企業とファンド、国際貿易の変化 先物取引、企業買収 |
官有物払下とバルクセール |
第8章 政治的権利 第8章を一括ダウンロード |
8−1 政治的権利の概要 |
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参政権と請求権 |
世論形成とマスメディア、利益集団と政治参加、政治資金の問題、「天下り」と「渡り」、国民の政治意識 |
行政法入門、世襲議員の問題 |
8−2 参政権と、関連の問題 |
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選挙権と選挙制度
、最高裁判事国民審査権、憲法改正の国民投票 |
国会議員の選挙制度、一票の格差、最高裁判事の国民審査、憲法改正の国民投票 |
電子投票の問題点、選挙運動のあり方 |
8−3 参政権・請求権と、関連の問題 |
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請願権、裁判を受ける権利 |
署名運動、民事訴訟のしくみ、国家賠償と準起訴手続、法律専門家の不足 |
市民運動とボランティア活動 |
8−4 日本政治のしくみと現状@ |
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三権分立、国会、内閣、天皇、裁判所 |
国会の働き、衆議院の優越、内閣の働き、内閣不信任、裁判所の働き、司法権の独立 |
国会中心立法と国会単独立法、独立行政委員会、租税制度の現状と課題 |
8−5 日本政治のしくみと現状A |
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地方自治 |
地方自治と中央政治、地域社会の現状と住民運動 |
地方財政をめぐる問題点 |
第9章 エピローグ 第9章を一括ダウンロード |
9−1 私たちの課題 |
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主権者としての国民、積極的な政治参加を |
ファシズム、国境を越える秩序作り、日本の役割、国際的批判に応える、競争の功罪、組織の論理 |
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巻末資料:日本国憲法と世界人権宣言の比較(表)
3 おわりに
当然のことながら、この企画はまだ道半ばです。現在も執筆・加除訂正の作業を続けており、完成時期は未定です
。しかし「遠い将来には出版し、日本がまともな国になった暁には正式の教科書としても使えるようなものにしたい」という夢を抱きながら、コツコツと書き進めています。これからもさらに研究を重ねて、より良いものにしていきたいと考えて
おりますので、先学諸賢の先生方のご意見・ご感想・ご批判・ご教示を仰ぎます。
<追記> 勤務校が変わり担当授業の準備に専念していたこともあって、しばらく執筆から遠ざかっていました。東日本大震災が起きる以前から内容不十分であることは自覚していましたが、震災から1年を経て改めて読み直してみると、最初の構想にはほど遠く、まだまだ日本国憲法の精神から日本の社会や日本人としての生き方を描ききれていないと痛感します。とりあえず各章および全編の一括ダウンロードを設定しました。今後もゆっくりですが、諦めることなく、さらに修正と追加を続けていきたいと思っています。(2012/2/25記)
2008/12/24 初出(基礎編全部(1-6_1stを除く)&若干の標準編)
2009/1/6増補(1-6基礎編)
2009/1/31増補(1-1〜1-5の標準編)
2009/2/28増補(2-1〜2-4の標準編)
2009/4/12増補(3-1,2,4,5,4-1の標準編)&改訂(4-2の基礎編と標準編)
2009/4/19改訂(6-2の基礎編と標準編)
2009/4/22改訂(6-2標準編)
2009/5/5改訂&増補(2-3標準編、4-1,2標準編、5-1〜5-5の標準編、7-1標準編)
2009/5/8増補(2-4標準編)
2009/5/17改訂(1-5,7-1,8-3基礎編の差し替え)&増補(7-2,3,5,6,8-1,4標準編)
2009/5/22改訂(4-1,2,6-1,2,8-1標準編の差し替え)&増補(9-1標準編)
2009/8/15改訂(4-3標準編の差し替え)
2009/8/16日本国憲法と世界人権宣言の比較表を追加
2009/8/26増補(6-2発展編)
2009/8/27増補(7-4発展編)
2009/12/29 冒頭「はじめに」&「誕生の経緯」へのリンクを追加
2010/2/14 冒頭「はじめに」加筆
2012/2/25 各章および全編の一括ダウンロードを設定
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