ここが地獄の一丁目

 

森本 優

2018/2/8


 先日、パルシステム山梨主催の「種子法学習会」(講師は印鑰智也氏)に出席した。

 話の大まかな筋は、モンサントを初めとした多国籍化学企業が、全世界で、知的所有権が与えられた種子と農薬・化学肥料とが抱き合わされた大規模企業型農業を育てており、生産から流通まで食料を支配し始め、日本にもその触手を伸ばしてきているというもの。

 特に日本では、その企業型農業推進の一環として、資源を企業に集中するために、TPP締結・種子法廃止・農地法改正・市場法廃止等々を行い、また、グリホサートやネオニコチノイド系等の成分残留許容量を大幅に緩和したり、遺伝子組換え種子・作物を他のどの国よりも多く承認したりしている。さらに、遺伝子組換え作物であることの表示義務も非関税障壁として撤廃される方向にある。当然この企業型農業推進政策の裏では、個人・家族農業や地産地消を前面に出している直売所は、やがて切り捨ての対象にならざるを得ない。

 

 しかし、考えるに、このような利益追求が第一目的となっている企業型農業では、消費者の健康は害され、また地球そのものの環境も破壊されかねない。

 つまり、遺伝子組換え作物が作り出すBt毒素や、併用される農薬・化学肥料により、人間の腸内細菌叢はその調和を破壊されて様々な病気が引き起こされ、場合によっては死に至ることにもなる。特に、遺伝子組換え技術で作られた作物や微生物が世界一大量に食卓に上る日本という国は、放射能の場合と同じく、その影響に関しても、世界の実験台にされているとも言えそうだ。

 同じく、地球上の農地の微生物叢も破壊されて種類・量ともに激減するため、土壌の流出と砂漠化が進む。そして限られた遺伝子組換え作物のみが席巻するため、生物の多様性も失われることになる。

 そのような懸念もあって、モンサントの社内食堂では、社員の健康を守るために遺伝子組換え作物を料理に使うことはなく有機農産物を使っているらしい、との情報が拡散されている。

 またモンサント等の多国籍企業に出資している大資本家たちは、ノルウェーの氷室に世界各地から集めた多様な在来種・固定種を保存している。これは、それまで使用してきた遺伝子組換えの種子では対応できないような病気や気候変動等が生じてきた場合、その保存してきた多様性に満ちた種子の中から対応可能な遺伝子を探し出すために必要となるため。

 そして、そのような非常事態に至って初めて、種子を独占的に保存し利用できる大資本家たちによって人類の生殺与奪の権が握られてしまっていることに、多くの人々が気づくことになるのだろう。

 

 ところで、それらの農業分野に進出してきたある多国籍化学企業は、軍需産業にも関わっていた。モンサントはベトナム戦争の時に枯葉剤を製造して軍に供給し、デュポンは原子爆弾を製造していた。

 このように殺戮兵器を商売としていることを以て「死の商人」と言われているのだが、今の農業の分野に進出してきている多国籍化学企業群も、儲けのためには地球上の生命を犠牲にしても良いとする姿勢が強く、殺戮兵器を扱う企業と何ら変わらない。その点からも「死の商人」以外の何ものでもないと言えば言えるのだ。

 

 さて、軍部と大企業群(主な大資本家の顔ぶれは、上記の多国籍化学企業のそれとほぼ重なりあっている)が癒着し、儲けのために次々と戦争を仕掛け続けているのが今の米国の姿なのだが、日本でも、米国や財界の一部の要望もあってか、経済活性化の一環として、日本版軍官産学複合体を育てようとしているらしい。武器輸出を原則認める「防衛装備移転三原則」が閣議決定され、防衛装備庁が設置されたことは記憶に新しい。

 米国としても、日本の軍事用の技術等を積極的に利用したいはず。すなわち、国力に衰えが見え始めた米国としては、属国としての日本から知的・人的・物的資源(技術・兵士・基地・金・物資等々)を最大限引き出したいはずで、そのため日本政府は、戦争に関連する諸法案を強引に通し、その上、憲法改悪さえ図ろうとしている。この動きは、たとえ野党が政権を取ったとしても、主権を回復できず実質的に属国のままであり続ける限り、何ら変わらないはず。

 

 ところで、最近リニア中央新幹線で談合の問題が浮上してきた。

 政権周辺で織りなされている政官財の癒着の構造が、ここでも問題視されている。JR東海に情報の開示を求めても、「民間事業」を盾に真相は闇の中のままだ。

 このリニアにおいても、「死の商人」の影がちらつく。

 リニアの民生用技術を軍事用に利用する狙いもあるのではないか。

 以前からリニアの運行だけでは赤字になると言われており、社内でもそのことは強く自覚していたはずだったが、敢えてリニアの建設を強行するに至ったのは、JR東海名誉会長の個人的な「夢」だけではなく、リニアのインフラの海外輸出と同時に、軍事転用可能な技術開発のための基礎研究と十数年程先の武器輸出が絡んでいるのかもしれない。

 因みに、2016年、日本政府は米軍などが開発を進めている兵器「レールガン」を開発する方針を示した。米軍との技術協力を進めると共に、日本独自でも研究を始めたらしい。

 

 ところで、米国のように、戦争を中心に回る経済システムを日本でも根付かせるためには、今の平和憲法の存在が大きな障害になっている。

 今まで解釈で憲法の理念を捻じ曲げてきたが、いよいよ「憲法改正」に踏み込む事態になった。

 問題は国民投票である。

 そこで国民の意識はどこを向いているのか心配になる。

 利益誘導型の選挙が当たり前になっているが、大企業・多国籍企業群に多くの国民がぶら下がり、それらから経済的利益を受けているのが現状であってみれば、それらの意向に従う国民も多いのではないか。実際のところ、日本青年会議所・日本商工会議所・経済連等の経済関連団体は、既に「憲法改正」を支持している。

 特に若い層では、何年後に成るかわからない徴兵制度より、目の前の自身の就職・雇用・生活に意識が向けられている。武器やその関連装備を作って輸出し、そのため他国での戦争に使われるとしても、生活のためには仕方がないと考える若者も案外と少なくはないのではないか。

 そして「死の商人」に依存する割合が高まれば高まるほど、その傾向は顕著になるだろう。当然マスコミも営利企業なので、スポンサーである「死の商人」を表立って批判することはできず、自由が封殺されるこのような準戦時体制を擁護せざるを得なくなる。

 経済的徴兵制・徴用制等にも見られるように、差別・格差を作り出して国民を分断し、それを利用して支配体制を強化することは権力の常套手段だが、「死の商人」の後ろ盾で独裁政権が誕生するなら、日本は、保身と忖度が支配する自由が封殺された収容所列島となるだろう。そこでは事実上、人権は大幅に制約され、一般国民はあらゆる命を殺戮し搾取する経済システムの一消耗品、すなわちケージ飼いのブロイラーとしてしか見做されなくなる。

 

 正に、今ここが地獄の一丁目。

 

「おらんとうはエテ公?それともブロイラー?人間ちゅう選択肢はねえのけ?」参照

http://www.asahi-net.or.jp/~jh4m-mrmt/D.new/d-44.html

 

 このような「死の商人」(大資本家群)が主導する破滅的世界から、今私たちは脱出せねばならない秋に来ている。

 戦争など、命を殺戮し搾取する経済システムに頼らない地域分散型の持続可能な社会(シェルター)を、如何に世界各地に同時に創ってゆくことができるのか、今人類の叡智と勇気が問われている。

 

「西暦2010年の年頭に当たり地域・国家・世界・宇宙の各ビジョンを語る」参照

 http://www.asahi-net.or.jp/~jh4m-mrmt/D.new/d-33.html

「2015年の初頭において思うこと」参照

 http://www.asahi-net.or.jp/~jh4m-mrmt/D.new/d-46.html


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