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 今年初めての山釣りに興奮したのか、早くも朝3時に眼が覚めた。一人暗闇の中、焚き火を燃やし、夜明けを待った。これじゃまるで子供の遠足だと、熱いコーヒーを飲みながら思った。上の写真は、テン場に流れ込む夜明けの小沢の風景。
 斜面に残る残雪は、おびただしいほどの落ち葉に覆われている。ブナの落葉の凄さが一目でわかる。森閑とした渓と冷気が漂う早春の空間が、またたまらない。
 5時になっても仲間はテントの中で眠ったまま。暇を持て余し、一人釣りに出掛ける。昨日より、かなり水位は減っているものの、平水よりかなり多い。わずかなポイントに餌を入れると、ミチイトを伝わって竿を握る手に岩魚の鼓動がビンビン伝わってくる。久しぶりに餌釣りをやってみたが、餌に食らいつく岩魚の動きが手にとるように分かる。この感触は、テンカラやルアーでは決して味わえない魅力だ。さらに、本物の餌を使う釣りこそ、自然に最も優しい釣りであり、時季や天候に左右されない万能の釣りであることを再認識させられた。テンカラやルアーは、餌釣りにない魅力があることは確かだが、総合すれば餌釣りに回帰したい心境というのが正直なところだ。
 底まで見える清冽な流れに岩魚が飛び出す瞬間は、釣り人の心が舞い上がる瞬間でもある。残雪の渓を吹き抜ける冷たい風、身を切る流れに浸かりながら、久々に岩魚の感触と感激を味わった。30分ほどで良型の岩魚を3尾キープ。もう満足だった。後ろを振り向くと、仲間がテントから出て暖をとっている姿が見えた。ここであっさり納竿し、テン場に戻る。
 フキノトウと奥に残雪が見える。昨年より2週間以上は遅い春、といった感じだ。本日は曇天、いつになく増水した渓を源流まで遡行できるだろうか。峰を登り杣道を利用する案も出たが、沢通しに行ける所まで行こうと決定、6名全員沢伝いに上流へ向かった。
 光沢のある若葉に丸い水滴がたくさん点いて、瑞々しさを誘う。私のザックカバーは、何年も使っているせいか、防水性がゼロに近く、ベットリ濡れっぱなしだ。それに比べてこの若葉の水滴は見事だ。そろそろ新しいザックカバーを買わねば、と思い知らされる瞬間だった。
 エゾエンゴサク・・・朝露にしっとり濡れて一際美しい。白神では、イチゲやカタクリの群生地に混生している。本州の日本海側と北海道に分布。ほかのエンゴサク類には見られない大きな群落をつくる。ケシ科類の植物は一般に有毒であるが、北海道では山菜とされているというから驚きだ。ちょっと食べるには忍びない感じがするが・・・。
 曇天で笹濁り・・・こんな岩魚釣り日和も滅多にない。水温は低く、一般的に岩魚の活性は低いはずだが、釣り日和とあって活性度はクライマックスだった。上の写真は、赤い帽子の会長が釣り上げた岩魚を右に陣取る岩魚デポ班の柴ちゃんへ手渡すシーン。岩魚デポ班は、岩魚を素早く針から外し、タネモミ用の黄色の網に入れ、生かしたまま移動する。旬の岩魚を美味しくいただくには、キープした岩魚を生かしたまま移動するのがポイントだ。
 柴ちゃんが、白い毛鉤で釣り上げた岩魚。早春の増水した渓で、毛鉤は無理だろう、と思ったが、実はそのとおりだった。その種明かしが下の写真だ。
 「毛鉤虫」と名付けた仕掛け。何と白い毛鉤にミミズが・・・。これには参った。確かに水中では、ミミズの臭いに白い毛鉤の誘惑が加わるわけだから、釣れないわけがない。こんな自己流、勝手流の仕掛けで釣るのもオモシロイ。ぜひ試してみてはいかがだろうか。
 大きなポイントは、二人で楽しむ。そのどちらにも釣れるのだから、岩魚の警戒心はゼロに近い状態だった。曇天、増水した笹濁りの渓は、岩魚を狂わせるのだろうか。
 滝を大きく高巻いた上流部。灰色の森と渓、右手に残雪・・・白く泡立つ流れから岩魚が飛び出した瞬間を撮る。写真が小さく不鮮明で恐縮だが、竿の下に岩魚が見えるのがお分かりだろうか。
 尺岩魚を手に満面の笑顔を浮かべた章カメラマン。今回カメラは一切出さず、竿ばかり出していた。そろそろカメラマンの称号を剥奪するべき時か・・・。かく言う私は、朝一番に3尾を釣り上げたのみで、一切竿を出さず、カメラモードに突入していた。
 本流中間部魚止めの滝・・・左岸の岩場の上に陣取り、滝下の淵を眺めていた長谷川副会長が「大きいやつが右岸の淵にいる。岩魚がウヨウヨいるのが見える。」と叫んだ。下にいた中村会長と章が次々と岩魚を釣り上げる。釣り上げた岩魚は、生かしたまま岸辺の生簀に入れる。結局、同じ淵で6匹も釣れた。しかも大きい順ではなく、ランダムに釣れてきた。ということは、異常な増水で大淵に大挙非難した岩魚たちに間違いないだろう。狂ったように餌を追う岩魚を見ていると、こうした釣りに仕掛けや釣りの技術なんて関係ない・・・と言いたくなってしまう。釣っている本人には悪いけど・・・。
 岩魚の特徴と言えば、白い斑点と頭部の虫食い状の斑紋が鮮明な点だ。深場でじっと動かず、仮死状態で越冬した岩魚は黒くサビついているはずだが、どの魚体も雪代にすっかり洗われていた。さしずめ「白神美人」とでも命名したいほど、惚れ惚れする岩魚たちだった。
 圧縮されたゴルジュは、簡単に巻くことができず、高巻きに難渋した。上の写真は、屹立する岩場を登り終え、やっと木々が生い茂る安全な斜面に出て下っているところ。かつては、木の枝を頼りに際どく巻けた場所だが、長年の雪崩で掴む木の枝がなくなっていた。やむなく、壁を直登するカモシカルートしか選択の余地がなかった。登ってみると、次第に壁の傾斜がきつくなり、おまけにオーバーハングになっている場所で掴む木がなかったり、足場が不安定な場所が連続し、危険極まりなかった。数回ザイルを取り出し、全員無事に突破した。この難所は疲れました。
 高巻き途中の斜面に群生していたイワウチワ。左奥下の残雪を見下ろすように咲いており、早春を彩る草花の一つであることが分かる。
 イワウチワのアップ・・・ブナの森では、この花が終わらないと山菜の最盛期には程遠い。乾いたブナの斜面に群生し、花も比較的大きく、淡いピンクが美しい。4月下旬ともなれば、久しく姿を見ることができなかっただけに、妙に懐かしさを感じる草花だった。
 1時間余に及ぶ高巻きを終えて一息。雪代で逆巻く時季は、ゴルジュや滝が連続する区間は気が抜けない。激流は3人づつスクラムを組んで渡渉したり、屹立する壁はお互いにザイルで確保しながら登った。一人じゃ、とても突破できない難所も、皆の力を合わせれば、突破できることを改めて実感する遡行だった。
 高巻きを終えて、早速竿を出す会長。意に反し、小物の岩魚が釣れてきた。
 ややサビついた岩魚。生きたまま岩魚を撮影するには、雪の上に置くと良い。というのも、岩魚は雪のない岸辺では、逃げ惑う動きが早く、生きた写真など撮れるはずもない。ところが、雪の上に置くと、冷たいせいか、動きがピタリと止まる。それを狙って撮影したのが上の写真だ。
 サワグルミやカツラの巨木が林立する源流部。所々に残雪が見え、上流から吹き降ろす風は、殊の外冷たく感じた。山野草も山菜も、未だ芽を出していなかった。
 苔生す源流を釣る柴ちゃん。上のポイントで毛鉤虫の仕掛けに岩魚を掛けた。
 尺近い岩魚だが、ご覧のとおり頭だけデカク、極端に痩せた幽霊岩魚。食べて美味しいはずもなく、可哀想なのでリリースした。尾ビレの上まで真っ赤に染まった岩魚で、写真で見れば、それなりに美しく見えるが・・・。
 次第に高度が増すと、ご覧のとおり、SBの連続となる。まだ時間はたっぷりあったが、ここであっさり納竿した。
 雪代で逆巻く渓。帰路、峰を降りてきたサルの一団に遭遇した。どうも右岸から左岸に渡るようだ。この激流をどうやって渡渉するのか、じっと観察していると、あっという間に対岸に渡った。渓に張り出した枝を伝わって、一気に対岸に飛び跳ねたのだ。さすが野生のサルだ。それに比べると、人間は情けない。やっぱり山に入ると、人間なんて落ちこぼれなんだ。
 今夜は、初めて真っ暗な夜空に星が眩しいほどに輝いていた。濡れた衣服の着替えを済ませ、6名が全員が焚き火を囲み宴会モードへ突入。岩魚の刺身、塩焼き、空揚げ、アイコ、シドケのおひたし、コゴミのゴマ味噌和え、ミズの塩昆布漬け、激辛のヤマワサビ・・・
 下界では、朝飯も義務的に食べるか、朝食抜きの日もある。昼も食欲がなく、ただただ無理やり胃袋に押し込むような毎日が続いていた。山に入ると、一転、三度の飯が殊の外美味く、食欲は俄然増す。これはどういうことなのだろうか。本来の自分を取り戻すには、こうした本物の自然の中に回帰する以外にないような気がする。人間も熊やサルと同じ動物なんだから、当然のことかもしれない。最後の締めは、飯にカレーをかけて食べる。それにしても食った、食った、飲んだ。200%満足したところで、急激に睡魔が襲ってきた。

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