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 小沢を詰め、魔の笹藪を泳ぐように登った後、お花畑が広がる高層湿原に出た時は、この世の別天地、まさに夢心地の気分になる。重い荷を下ろし一服。湿原の湧水で喉を潤し、美しい花たちにカメラを向ける。美しく咲き乱れる花たちにエネルギーをもらい、また魔の笹藪に飛び込み、源頭をめざす。
 秋田では、低山帯がブナ・ミズナラ林、亜高山帯になるとアオモリトドマツ(オオシラビソ)、高山帯になるとハイマツの群落となる。写真は、玉川源流の仮戸沢を登り詰め、猛烈な笹薮を抜けた八幡平稜線近くのアオモリトドマツの樹林。高さ20〜25m。深い霧が静かに流れ、神秘的な景観を醸し出している。
 アオモリトドマツは、森林限界を超えると低木となる。亜高山帯の花は、ミヤマキンバイ、キヌガサソウ、ツバメオモト、サンカヨウ、ニッコウキスゲ、コバイケイソウ、ハクサンチドリ、イワイチョウ、ウラジロヨウラク、トウウチソウ、トガクシショウマ、オヤマリンドウなど、種類がやたら多い。しかし、山釣りでは、こうしたお花畑の登山道を主に歩いているわけではないので、出会う花の種類はかなり限られてくるだろう。
キヌガサソウ
 八幡平の山越えで見つけた花だが、とにかく花の大きさが目を引く。車輪状に大きな葉を広げ、中心に純白の花を8枚から9枚つける。この花が咲く付近は、なぜかいつも熊の痕跡が多い。それだけに、ちょっと気になる花でもある。
サンカヨウ
 丸い大きな葉の割には、花が小さく可憐な印象を与える。近付くと、透き通るような白さが際立っている。それにしても一株から10個もの白花をつけるとは・・・。花弁は6個。花が散ると青紫色の実をつける。
 光沢のある大きな葉、上部に可憐な白花を咲かせる。白色の花をツバメが飛ぶ姿に例え、オモトに似た葉をもつことからツバメオモトと名づけられた。大きな葉を維持するには、完全に密閉された針葉樹林では苦しく、やや明るい湿りぎみのところによく生える。
チョウジギク
 沢沿いでよく見掛ける花だが、大型で一度見たら忘れられないほど個性的な山野草の一つ。白い毛が細く密生し、黄色の花が横向きに咲く。和名は、細い柄についた頭花の形が、香料にする丁字(ちょうじ)の花の形に似ていることから名付けられた。
ウメバチソウ
 清楚な印象を与える花の一つ。花は白色で、梅の花に似ている。葉身は円形で、根元が心形となる。
ニッコウキスゲ
 原始の山・和賀山塊羽後朝日岳、雲上の花園をゆく。ニッコウキスゲ、ハクサンイチゲ、ハクサンシャジン、タカネアオヤギソウなど数十種類もの花々が足の踏み場もないほど咲き乱れている。
 高山帯の草地や湿地に大群落をつくる。登山ではお馴染みの高山植物で、この花の名所も多い。花は朝開いて、夕方には萎む一日花(八幡平天狗湿原)
コバイケイソウ
 八幡平北ノ又沢源頭の湿原に広がるコバイケイソウの群落。
 春、コバイケイソウの若葉  夏、コバイケイソウの花
 亜高山帯の草地に生える多年草。残雪が残る頃は、みずみずしい若葉で、いかにも旨そうに見えるが毒草なので注意。花は白色で円錐状に多数咲き、遠くから見ると、まるでトウモロコシ畑のようにも見える。
ヤチスゲ
 ・・・源流の水辺を彩るヤチスゲ。高山帯の高層湿原に生える多年草。湧水が滴る岩場の斜面にもたくさん群生している。
イワイチョウ
 白い花は7月初め頃、葉がイチョウの葉に似ている。イワがつくが岩場には生えず、多雪地帯の湿原や雪田周辺に生える。
 手前がイワイチョウの群落、奥に黄色や白の花が咲き乱れる亜高山帯のお花畑
ミヤマキンバイ、ミツバオウレン
 ミヤマキンバイ・・・砂礫地や湿り気のある雪田周辺に群落をつくる。  ミツバオウレン・・・高山帯の針葉樹の林内や湿原などに生え、特にハイマツ林の林縁に多い。
ノビネチドリ、リンドウ
 ノビネチドリ・・・美しい大型のラン。群落はつくらないが、点在して咲いている。花穂の様子が群れる千鳥に見立てて名付けられた。  オヤマリンドウ・・・高山帯の登山道沿いでよく見かける。エゾリンドウと似ているが、花は茎の先近くに集まってつく。花冠はあまり開かない。
 エゾリンドウ(北海道日高)  オヤマリンドウ(八幡平)
 二つのリンドウを並べてみると、その違いがよく分かる。エゾリンドウは低山に多く、丈が高い。花は、一つの茎に多数つく。
ハクサンイチゲ
 積雪の多い日本海側では特に大きな群落をつくることで有名な高山植物。羽後朝日岳では、雪が解けた後、比較的乾燥しがちな草原に大きな群落を形成していた。
チシマフウロ
 北海道、東北の亜高山帯〜高山帯の広葉草原に生える。花は淡い紅紫色で実に美しい。羽後朝日岳では、特に大きな群落は見られず、踏み跡沿いにポツン、ポツンと散見できる程度だった。葉の形がニリンソウやトリカブトの葉に似ているのが印象的だ。
トウゲブキ
 葉はフキの葉のように丸く大きい。黄色の花も一際でかく、ニッコウキスゲの大群落の中でも特に印象に残る花の一つだ。
ハクサンシャジン
 山野に生えるツリガネニンジンの高山型。花は淡い紫色で、鐘形の花を数個づつ輪生するため、一見2〜3段の花輪をつけたように見える。白花は、シロバナハクサンシャジンという。
ミヤマウスユキソウ
 東北地方の秋田駒ケ岳、鳥海山、朝日・飯豊山地などの山頂付近の乾いた草地に生える特産種。
 イワショウブ・・・高山帯の湿地や湿原に生える。花序に突起があり、粘るという。  オオバキボウシ・・・キボウシ類は日本に特に種類が多く、日本の植物相の特徴となっている。よく夏の沢沿いでみかける。
 ミネザクラ・・・奥羽山脈の稜線を吹く風の凄まじさが伝わってくるような形を見ていると、雪と風の造形美に驚かされる。  ウラジロヨウラク(ツリガネツツジ)・・・高山帯の登山道でよく見かける花の一つ。筒型で釣り鐘状に多数咲く花が印象的だ。
 エゾミソガワソウ  チングルマ・・・花柱ははじめよじれているが、次第にほぐれ、秋風に乗って飛び散る。
 ズダヤクシュ・・・登山道沿いに群れて咲く地味な花だが、源流部の沢沿いに生えていた。喘息によく効く薬草で、喘息を長野県では「ズダ」と呼ぶ。  オサバグサ・・・葉はシダのような独特な形をし、純白の可憐な花を下向きに咲かせる。日本特産の1属1種の貴重な花。多雪は、極端な寒さと乾燥からオサバグサを守り、今日まで細々と生き続けることを可能にしたと言われる。
 オオバキミゾホオズキ・・・河原に大きな群落作っていたので、ついついシャッターを押してしまった一枚。葉の脇から長い花柄を出し、まるでラッパのような形の黄色の小花をつける。右の写真は、湧水が滴り落ちる岩の斜面に、イワブキとともに咲いていた。一般に、やや日陰の湧水地、滝のまわり、沢のヘリなどに生える。
ヤマルリトラノオ
シロバナエゾミソガワソウ タカネアオヤギソウ
オオハナウド、ミヤマシシウド
 オオハナウド・・・ウドのように高さ1.5mほどになる大型の植物。
 ミヤマシシウド・・・雲海が流れる花園に一際大きく目立つ花だ。高さは0.5〜1.5mにも達し、蜂や小さな虫たちが大型の花に甘い蜜を求めて群がっていた。
エゾトウウチソウ
 夏、北海道の日高の谷でよく見かける花。暗く険しい函で、悪戦苦闘していても、この花を見つけるとホッとする。
オオバキスミレ
 左の写真は、カタバミの群落に咲いていたもの。低山から亜高山にかけて生える。葉はハート形で先が細くとがっている。細い花柄の先に小さな黄色の花をつける。 
 ハイシキミ・・・ブナ林の下に生える。赤く熟した実は林内でよく目立ち、食べてみたくなるが、毒なので注意。  ホオノキ(モクレン科)・・・巨大な葉を広げてめざましい成長をする。大男根のような実がおもしろい。
 イカリソウ・・・山地の林内に生え、花の形が碇(イカリ)に似ていることから名付けられた。昔から強精の薬草として用いられている。  コオニユリ・・・沢に入る手前の草地に生えていたものだが、雨にしっとり濡れて一際美しかったので、ついついシャッターを押した一枚。
クガイソウ
 クガイソウ(トラノオ)・・・葉が6から9段に輪生することから九蓋草、九階草の名がついた。花はトラの尾に似ており、別名トラノオとも呼ばれている。花は下から上へと咲いていく。 
カラマツソウ
 山地から亜高山帯の草原に生える多年草。茎頂に散房状の花序をだし、直径約1cmの白色の花を多数つける。
キンバイソウ
 金梅草の名にふさわしく、黄金色の花を咲かせる。一般に山地帯〜亜高山帯の林縁や草地に生える大型の多年草。清冽な流れの岩盤に生えたキンバイソウは、一際美しい。
ガクウラジロヨウラク(ツツジ科)
 花が下に鐘状に垂れて見えるヨウラクツツジ類は、ツリガネツツジとヨウラクツツジの二つがある。よく似たウラジロヨウラクは太平洋側に分布している。
岩場に生えていたハナニガナ
フキユキノシタ、ゴゼンタチバナ
 フキユキノシタ・・・ダイモンジソウと同じで、渓流沿いの岩場でよく見かける。葉の縁は鋸状の切れ込みがあり、白い小花を多数つけるのが特徴。清冽感を誘う代表的な花の一つ。  ゴゼンタチバナ・・・登山道脇に咲いていた。葉の中心から4枚の白花を咲かせる。
 湧水が滴り落ちる場所に群生していたフキユキノシタ(北海道日高)。真夏の一時、滴る飛沫に濡れた瑞々しい若葉と湧水地帯は、まさに天然クーラー。美しく美味しい天然水で喉を潤す瞬間は、誰しも笑みがこぼれる。
 エゾアジサイ・・・山地の木陰に生え、夏に青紫色の飾り花が美しい。古くから庭などにも栽培されている。  ウラシマソウに似ているがちょっと違う?マムシグサか?暗い林内に生えていたので薄気味悪い印象だった。
 コウメバチソウ(小梅鉢草)・・・葉はイワイチョウに似て、卵形あるいはハート形をしている。岩場の林道沿いにたくさん生えていたが、なかなか可憐な花で思わずシャッターを切った。  ツリガネニンジン・・・和名は、花がつり鐘の形をし、白い根をチョウセンニンジンに見立てて名付けられた。若芽はトトキと呼ばれて食用に、根は薬用として利用されている。
 最も深い谷底から沢を詰め、源頭のお花畑に踊り出て、滴る汗を拭きながら冷たい源流水で乾いた喉を潤す。そして高山植物たちが咲き乱れる登山道へ。360度のパノラマ・・・遡行者は、威圧感をもって迫る険谷と魔の笹薮から開放され、まるで天上の世界に辿り着いたような夢心地に浸る。

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