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 竿とカメラを担いだ源流の山旅・・・その魅力の一つが、四季折々に森と渓を彩る山野草との出会いである。特に早春から新緑の季節は春爛漫。林床を一面に彩る山野草の美しさに、いつも足止めを食わされる。来る年も来る年も同じ山野草をマクロ撮影しているが、決して飽きることはなく、むしろいつも新鮮な感激を与えてくれる。花の命が短く可憐なだけに、一層心惹かれるものがある。
春の使者・・・フクジュソウとフキノトウ
 雪国では春の雪解けとともに真っ先に咲く花が、フキノトウとフクジュソウだ。この花を見ると、いつも春の訪れを実感させてくれる。早春の陽光を一杯に浴びて、まさに春爛漫の訪れを告げる二つの花は、かつて山村の軒先に張っていた「立春大吉」の札を思い出す。
 雪解けとともに花を咲かせ、木々が芽吹く頃には枯れてしまう「春のはかない草花」の代表的な早春植物。花期は、3月から4月。雪解けとともに地表にツボミと芽を出し、数cmの高さで花を開く。この頃が最も美しい。やがて草丈は15〜30cmにもなる。花言葉・・・永久の幸福、思い出、幸福を招く、祝福。
 暖かい春の陽光が、深閑としたブナの森に降り注ぎ、次第に渓谷の凍てつきをやわらげてゆく。林床に積もった雪は融雪水となって、根元の雪をいち早く解かす。やがて雪解けは、根回り穴から森全体へと広がってゆく。
スプリングエフェメラル(春のはかない草花)
 4月下旬、脇尾根から源流部を望む。澄み切った青空に奥山の残雪が映え、斜面には冬枯れたブナの木々が芽をわずかにふくらませ始めている。深いV字谷はまだ分厚いスノーブリッジに覆われ、どこまでも静寂に見える早春の山と渓谷だが・・・。
 ブナの芽が萌え出る前は、樹間を通して林床に降り注ぐ光のエネルギー量は、年間を通じて最大となる。林床には、イワウチワ、キクザキイチゲ、カタクリ、ニリンソウなどが我先にと競い合うように咲き乱れる。ブナの木々が芽吹き、葉が繁ると、光が遮断され、はかなく消えてしまう山野草たち。これを「スプリングエフェメラル」と呼んでいる。エフェメラルは、カゲロウのことで、はかなく短い命の意味がある。写真の林床に咲いているのは、イワウチワ。
冬木立の森を彩るイワウチワ
 イワウチワ・・・まだ残雪がある頃、ブナ林の乾いた斜面に一斉に咲き出す。群生するイワウチワの群れは、まるでサクラの花が地面に散っているように見え、見事だ。葉は光沢があり、冬でも枯れない常緑で、イワカガミにも似ている。
白から紫、変化に富むキクザキイチゲ
 キクザキイチリンソウともいう。日が照っている時だけ咲き、雨が降るとしぼんでしまう。撮影のチャンスは、当然晴れの日に限られる。
 残雪が目立つ早春に咲き、花の色は白から紫色と変化に富んでいる。群生の規模が大きく、殺風景な林床を見事な色彩に彩る風景は圧巻だ。
雪国を代表する山野草・カタクリ
 雪国は特にカタクリが多く、花の色も濃いのが特徴。斜面を真っ赤に染め抜くカタクリの群生は、遠くからでも簡単に発見できる。葉を横に広げた形は、まるで翼を広げたようにも見える。さらに、反り返って咲く花の姿から、飛翔している花のようにも見える。白や黄色の草花が多い中で、カタクリの紅は一際輝いているように見え、ついついカメラのシャッターを押し続けてしまう。
 カタクリは、種から花が咲くまで7年から9年もかかると言われている。種はアリが運び分布を広げる。ということは、カタクリの巨大な群落は、気の遠くなる年月がかかっているのだろう。まだ寒い早春だけに、この紅色を見ると、何となく暖かさを感じる花でもある。
 カタクリ群生の郷(秋田県西木村八津・鎌足)・・・栗の林床を埋め尽くす花の絨毯。栗の木々の間隔が広く、日当たりと風通しの良い斜面、そして堆肥が、栗だけでなく、カタクリにとっても天国だった。その栗林にアリが密かにカタクリの種子をせっせと運び、やがてポツリポツリと開花。それが、増えに増えて、ついには20ヘクタールに及ぶ花絨毯を作るほどの大群落を形成するようになった。今では、毎年4月中旬ともなれば、栗林の雪も解け、カタクリが林床一面を赤紫色に染め上げていく。春爛漫・・・百花騒乱の美に酔いしれる。
沢沿いに群生するニリンソウ
 ニリンソウ・・・沢沿いに巨大な群れをなして咲いている。所々にトリカブトが混生しているので、食用として採取するのは控えた方がよいだろう。
 ニリンソウとはいっても、花は必ず二輪とは限らず、一輪から三輪の花をつける。
エゾエンゴサク
 朝露にしっとり濡れて一際美しい。白神では、イチゲやカタクリの群生地に混生している。本州の日本海側と北海道に分布。ほかのエンゴサク類には見られない大きな群落をつくる。ケシ科類の植物は一般に有毒であるが、北海道では山菜とされているというから驚きだ。ちょっと食べるには忍びない感じがするが・・・。
スミレサイシン
 根茎は、ワサビを細くしたように、よく発達している。雪国では、昔からこの花の根をトロロにしてよく食べるという。
ブナの芽吹き、新緑の美に酔いしれる
 ブナの芽吹きは、暖かくなるにつれて山裾から峰へと駆け上がってくる。草木の葉が芽生える前は、峰から望む視界が広く、春山の絶景を鑑賞できる。見晴らしのいい高台から一望すれば、淡い緑の絨毯が下から峰へ、手前から谷の奥へと広がっているのがわかる。そのスピードは凄まじく、あっいう間に山全体が萌黄色の新緑に包まれる。
 6月上旬、沢へ下る直前の尾根にて。残雪と萌え出たばかりの新緑・・・その美しい光景にしばし酔いしれる。谷を下れば、緑は濃くなり、雪解け水であふれる沢では、滝壺や大淵の岩陰に尺前後の岩魚たちが潜み、たまりの落ち葉の下には稚魚が動き回る姿が見える。
 ブナの芽吹き
 SBの残骸が残る時季は、新緑とさまざまな草花との出会いがあり、遡行も楽しい。湿地には、ミズバショウ、ザゼンソウ、リュウキンカ、ワサビなどの草花、斜面にはシラネアオイ、トガクシショウマ、オオサクラソウ、ヤマザクラ、ムラサキヤシオツツジ・・・萌葱色の森と谷に様々な彩りを添える。
ザゼンソウ、エンレイソウ、ヤマワサビ
 ザゼンソウ・・・ミズバショウと同じ仲間で、自生地も花の時期も同じだが、数は少ない。傷をつけると臭い匂いを出し、アメリカではスカンクキャベツと呼ばれているらしい。(田沢湖町刺巻湿原
 ブナの新芽  早春のテン場を彩る山野草
 エンレイソウ・・・手前がエンレイソウ、奥は白のイチゲ。大きな葉が三枚あり、真ん中から1本の花柄を出し、先端に一つの花をつける。  ヤマワサビ・・・湿地の斜面を白く染め抜くワサビ畑もまた美しい。採取の時期は、白花が咲く頃が旬だ。

ショウジョウバカマ
 これは八幡平の山越え途中で撮影したもの。和名は、猩猩(ショウジョウ)の顔を、根生葉から袴(ハカマ)を連想したもの。左の写真は、背後のミズバショウの白に淡い紅色が映えて特に美しく、印象に残る一枚だ。
源流の湿地を彩るミズバショウ
 白神山地追良瀬川源流サカサ沢に広がるミズバショウの群落。写真が下手な時代の記念写真で恐縮だが・・・実際は、ブナの淡い新緑をバックに咲き乱れるミズバショウの大群落は、今でも記憶に残る感動的シーンだった。もっと撮影のベストポジションを探し、ローアングル、広角で撮れば・・・と悔やまれる一枚。
 ミズバショウ・・・尾瀬のミズバショウが有名だが、雪国では珍しくもなく、沢沿いや湿地に普通に見られる。雪解けとともに花が咲き、緑に映える白が際立ち清楚な印象を与える。
睡眠運動をする花・カタバミ
 葉は3枚、小さな白い花を1個付ける。茎や葉にシュウ酸を含んでいるため酸味がある。夜になると写真のように葉が閉じ、睡眠運動をする。
お花畑の源流をゆく・リュウキンカ
 春の陽光を一杯に浴びてお花畑の源流をゆく。右の丸い大きな葉と黄色の花は、リュウキンカの群落。登るに連れて、希少種のトガクシショウマやオオサクラソウの群落がお出迎え。花を愛で、山菜・きのこを摘み、源流水で喉を潤す。

 リュウキンカ・・・山野草の中でも一際でかく、沢を遡行しているうちで最も目立つ花だ。大きく広げた丸い葉と鮮やかな黄色の花々にいつも目を奪われる。沢筋の湿地を好み、ミズバショウと混生している場合も多い。
 雪が残る源流部に咲いていたリュウキンカ。冷たい流水に浸り、春の光を十分に浴びて咲く。立ち上がった先に金色の花をつけることから「立金花」と名付けられたと言う。源頭目指して遡行している途中、この花に出会うと、いつも休憩し、カメラを構えてしまう。

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