デジカメ・ブナの巨木編 黄葉編 ニコンCOOLPIX995

 ブナの黄葉。澄み切った青空と秋の陽光、全身黄色の衣をまとったブナ・・・頭上から、まるで黄金の洪水でも降り注いでいるかのようだ。ブナの隙間から覗く青空、白い肌に黄葉した葉陰が映り、風に揺られてかすかに動く。時折、落ち葉がクルクル回転しながら落ちてきた。
 全山紅葉した山並み。ナナカマドやツタウルシの紅、ブナやサワグルミ、イタヤカエデ、トチノキの黄・・・黄葉でも紅葉でもない。「こうよう」は、漢字で「黄紅葉」と書いた方が正しいような気がする。それほど白神の色彩は多様だ。標高が増すたびに、その色彩は濃くなった。
 ブナの黄葉のアップ・・・ブナの黄葉は、完全な黄色ではなく、やや褐色かがっている。森の中で一際黄色が目立つのは、ブナではなく、イタヤカエデだった。こうした接写は、デジカメの最も得意とするところだ。一眼レフなら、標準ズームレンズから、わざわざ100mmマクロのレンズに取り替えて撮影しなければならない。そんな面倒なことは一切必要がないのは、まことに有難い機能だ。
 褐色を帯びたブナの黄葉。
 黄色の衣を全身にまとったブナの巨木。美しい錦秋だが、これとて一瞬の出来事である。厳しい北国の冬は、あっと言う間にやってくる。風が吹くたびに、一枚一枚衣を脱ぎ捨て、やがて白い裸形を林立させる。
 白神の炎・・・全山燃えているような白神の森。魔法の筆が頂上から峰を下り、やがて360度黄色と紅の炎に包まれてゆく。紅葉の隙間に白く見えるのは、落葉した裸木だ。
登山道を外れ、笹薮の斜面を駆け下りると、一面、黄色、紅色、褐色の世界へ・・・色彩の氾濫に、眼がおかしくなりそうだった。それでもデジカメのレンズは、正確な色彩を記録し続けた。 紅葉も末期にきた風景。黄色を過ぎて茶褐色に変色、一斉に落葉した裸木も多く目立つ。
 道を外れ、森の中に入っていくとサルの群れを見つけた。いずれも子連れのサルだった。よく見ると、ブドウのツルが巻き付いたブナの枝に座って、懸命に貪る姿が見られた。遠くから4倍ズームでは、被写体をとらえられない。近づいていくと、当然サルは私に気付き、逃げ始めた。夢中でシャッターを切ったが、動くサルは、ことごとくブレてしまった。野生動物を撮るには、やっぱり役不足だった。
 何枚も撮影したうちの2枚だが、それでもかなりブレている。望遠側ではレンズが暗すぎる。さらに倍率が小さく、サルに気付かれない距離では撮影が困難だった。

 白神に生息する哺乳動物は、ニホンカモシカ、ニホンツキノワグマ、タヌキ、アナグマ、イタチ、ノウサギ、ムササビ・・・小さな哺乳類は、アカネズミ、ヒメネズミ、コモグラ、世界最小の哺乳類と言われるトガリネズミやカグヤコウモリも生息している。特別天然記念物のイヌワシやクマゲラなど、鳥類は73種確認されている。こういう生き物を撮るには、デジカメもまだまだ改良、進歩が必要だろう。もし、手ブレ補正付きの明るい高倍率ズームレンズが手ごろな価格帯のデジカメに搭載され、こうした生き物を簡単に撮影できるようになったら・・・恐らくそう遠くない将来、現実のものとなるのではないか。その時、初めてデジカメは一眼レフを圧倒したと言えるのではないか。
 夢中でサルを追い掛けていると、小沢にやってきた動物を見つけた。最初はタヌキか、と思ったが、こんな深山にタヌキがいるはずはない。写真が、ことごとくブレてしまっているが、左の写真は、沢の水を飲んでいる瞬間だ。顔が尖っているのが判るだろうか。おそらく、アナグマではないだろうか。水を飲み終わると、沢筋の周辺で何やら探しながら食べているようだった。右の写真は、近づき過ぎた私に気付き、尻尾をフリフリしながらゆっくり逃げようとする瞬間だ。決して慌てた様子も見せず、あくまでゆっくり大岩が横たわる穴の中に消えていった。
 サルやアナグマを見つけた場所を流れる小沢。一帯は、ブナとブナの間隔が広く、斜面のあちこちから水が湧き出し、集まった水は、苔生した岩の間を清冽に流れ下っていた。野生動物たちは、実にいい場所に住み着いているな、と感心させられた。
 ブナの森は、一本、一本個性があり、2001年最後を飾る白神の美しさに思わずシャッターを何度も切った。このブナの黄葉は、深緑から黄葉に変わったばかりで、澄み切った青空に映え、黄色が鮮やかだった。
 巨木を何度見上げたことだろう。ふと、このおびただしい数の黄葉が、秋風とともに一斉に落葉する瞬間は、どんな音がするのだろうか。おそらく、山全体が物凄い音をたてるに違いない。ブナの落葉の量は、1ヘクタール当たり2.8トンにもなるという。

 ブナの豊作は、3年に一度しかめぐってこない。今年は、艶やかな黄葉とは裏腹に、ブナの恵みが不作、野生動物たちは一様に飢えているに違いない。

デジカメ・ブナの巨木編 黄葉編 ニコンCOOLPIX995