黄葉の谷とキノコ狩り1 黄葉の谷とキノコ狩り2 黄葉の谷とキノコ狩り3

大滝又沢源流の滝
 落差は7mほどだが、黒い岩盤に一際目立つ白い瀑布は見事だった。最初は、水に濡れるのを嫌って離れた位置から撮影していた。ところが、何度撮っても満足する絵にならない。

 思い切って滝壷の中に入り、広角側で見上げた。すると流れは、心の中まで飛び込んできた。ヨシ、これだと勝手にバシャバシャ撮った中の一枚が上の写真だ。

 この滝上にも大きな滝が2つほどあるらしい。この上にも行ってみたかったが、既に時間切れだった。
 収穫したキノコの山を思い切ったローアングルで撮影してみた。クルクル回転するデジカメなら、こんなアングルでも簡単に撮影できる。

 奥に緑のテントと焚き火を囲み談笑する仲間二人・・キノコ三昧だったことがお分かりいただけるだろうか。

大滝又沢源流をゆく
 奥に進むにつれて、ゴーロの勾配がきつくなる。ここは、左岸を巻きながら進む。
 急階段のゴーロが終わると、一転穏やかなザラ瀬となる。ブナの黄葉に包まれた流れは、文字どおりせせらぎの音へ・・・広くなった河原には巨木がまばらに林立、斜面は見事なブナに覆われていた。
 暗い枝沢に流木が横たわり、奥には、射し込む光に燃えるように輝くブナの黄葉が広がっている。どこに絞りを合わせたらいいか・・・悩むことしきりだった。 巨木が2本、根元に大きな穴があった。
滝頭は、美しい紅葉に彩られ、
濡れた岩壁には、落葉が散りばめられている。
白く輝く聖なる水が、
末広がりに黒い岩盤を落走・・・
聖なる飛沫を浴び、
白神の源流に鎮座する滝の洗礼を
受けているようだった。
満足、満足・・・

 時計を見ると既に午後3時半、急いで帰らないと谷はあっと言う間に暗くなる。4人は、急いで駆け下りた。
 駆け足で下って1時間半、暗くなる寸前にテン場に着いた。
今日は、昨日と同様キノコ三昧。
酒を飲みながら白神山語りは延々続いた。

これが本当に2001年最後の沢旅である。
楽しくもあり、寂しくもあり、何とも複雑な心境だ。
来年の春まで、熊よりも早く、我々は冬眠状態に入る。
中間に舞う炎が
「山釣り馬鹿」のマークを描くかのように
左にグルグル回っては、満天の星空に吸い込まれていった。
 昨夜食べた後の残り、左下からサワモダシ、ブナハリタケ、ムキタケ、ナメコ。均等に配分し、新聞紙に包んでザックに背負った。

 帰る途中、大川を散策にきた根深誠さんに出会った。気軽に根深さんが声をかけてきた。「山から下りて来たんですか」・・・赤石川から尾根を越えて下ってきたパーティと思ったようだ。

 二又下流に泊まり、タカヘグリの黄葉、大滝又沢を登って黄葉とキノコ狩りを楽しんできたことを伝えた。白神山地の主・根深誠さんは仲間と二人、黄葉に染まった大川上流に消えていった。
混雑していた釣瓶落峠
 今日は日曜日、大川から帰る途中の釣瓶落峠で昼食。
 金曜日の朝は、誰もいなかったが、ご覧の通り。駐車場が満杯、道路にも車が溢れていた。岳岱風景林〜藤里駒ケ岳登山〜釣瓶落峠の団体ツアーは、右の写真のとおり、記念撮影をしていた。一眼レフの大きなカメラを構え、皆さん感動の風景を何度も撮っていた。

 「綺麗だね。想像していた以上だ!」
 と絶賛する声も、あちこちから聞こえた。
 でも、誰もいない沢に3日間こもっていた者には、なぜかしっくりこない、何となく違和感が感じられた。
岳岱風景林の黄葉
 岳岱風景林の黄葉・・・先週は、まだ黄葉していなかった。中村会長も長谷川副会長も、まだこの森を見ていない。私もこのブナの森の黄葉をぜひ撮りたかった。早速、寄り道することとなった。不便な林道を走り、山奥にもかかわらず、入口には、たくさんの車が駐車されていた。

 美しい錦繍のブナの森・・・言葉が見つからない美わしさに、ただただシャッターを押すしかなかった。森全体が煌く黄葉もわずか数日しかない。
 森の中に居座る大岩の碑には、次のように記されている。「岳岱風景林 黄金の光のごとく こぼれいる ブナの木立の 新緑を拾う」  落ちる秋日が錦繍の森に射し込み、黄褐色がだんだん燃えていくように輝く。やがて、風とともに黄葉が散り、鉛色に変化すると、森の動物たちも冬眠に備えて慌しくなるだろう。
 太くどっしりしたブナの幹、ブナの肌をおおう地衣の絵模様、森を染め尽くす黄色と紅・・・実に美しい。やっぱり寄り道するだけの価値はあった。
 ブナの森の林床は、まるで分厚い落葉のジュウタン・・・落葉が腐ってできた腐葉土は、虫や微生物の棲家となる。登山靴一つの足にトビムシ類は1000匹もいるという。この虫たちが、落葉を分解し、自然にかえす働きをしている。森の営みの連鎖・・・森は、まさにリサイクルの精密工場なのだ。

 「シモーン、お前は好きか、落ち葉ふむ足音を?夕べ、落ち葉のすがたはさびしい、風に吹き散らされると、落ち葉はやさしく叫ぶ!シモーン、お前は好きか、落ち葉踏む足音を?」(ルミ・ド・グールモン)
 ・・・落ち葉にも多くの命が隠れているのだ。
おまけです。
 倒れたブナの木には、ナメコやムキタケなど、たくさんのキノコが生える。キノコは、倒木を腐らせ、土にかえす働きをしている。一つも無駄がない。

 こんな美味しそうなナメコを見つけたら、私には「撮ってください」とか「食べてください」と言っているように見える。

 色艶、照り輝くヌメリ、ランダムに群生する様は、一つとして同じものがない。私には、食べるより、撮る方の衝動が強かった。
再読・・・「白神山地をゆく−ブナ原生林の四季」(根深誠著、中公文庫)
 今回大川に3日間山ごもりして心底から満足したとはいえない。それは、至る所に「禁漁」を告げる看板が目立ち、2人の巡視員とも出会い、忘れかけていた「入山規制問題」が心の奥底に引っ掛かるものがあった。最後には、白神の主・根深誠さんとも出会った。再度「白神山地をゆく−ブナ原生林の四季」(中公文庫)を読み返してみた。青秋林道の反対運動が盛り上がった1987年6月に記した根深誠さんの「あとがき」には、次のように記されている。

 「・・・見渡す限り、谷間や尾根筋をうっそうと覆い尽くすブナの絨毯。その初踏破行は、地形図と磁石がたよりの5泊6日の山旅であった。当時はマタギとの交友もなかったので、白神山地に関するなんの知識も持ち合わせていなかった。だが初めて接したブナの森の渓流の原生的自然環境から受けた印象は強烈であった。・・・後年、国内外の山々を登り経験を重ねるにつれ、白神山地の魅力はそれらの山々と比較対照されて私のなかで真価を発揮し、次第に増幅していった。この十余年来、渓流釣りをするようになり、かつまたマタギと知り合ってからは、より一層はっきりとその魅力は認識されたといえるだろう。そして当然のことながら、山行の大半は白神山地であった。」

 この一文に根深さんの白神に対する思い入れの深さが凝縮されている。私は、無垢なるイワナを釣りたい一心で、根深さんより遥かに遅れて白神を知った。こんなことを言うと、根深さんには失礼かも知れないが・・・登山から渓流釣りやマタギとの交友へと進化した根深さんとは、アプローチやキッカケがまるで違うけれども、何となく似ていることに改めて驚かされた。白神の素晴らしい学校に通い続けて16年ほどになるが、まだ駆け出しの白神一年生時代に、この本を図書館から借りて読んだ時は、ただ未知の白神情報を知るためだけに読んでいた。再度この本を読み返すと、白神の風景が一行一行に鮮明に蘇った。根深さんの心の底まで見えるような不思議な読後感があった。読んでいるうちに、根深さんはもしかして「山の神の化身」なのではないか、などと思ったりしてしまう。この本の中でも、熊を「品物」と呼ぶ「熊撃ち長さん」の話は、ビカ一オモシロイ。白神に興味がある方には、ぜひご一読をお薦めしたい。
 白神山地が世界自然遺産になってメデタシ、メデタシ・・・と思ったが、今度は「入山禁止」を巡る論争で激しく対立する不幸な出来事が相次いだ。そんな折、この本は中公新書の文庫版として復活した。著者の根深さんは、1998年4月「文庫版によせて」に「入山禁止」「入山規制」を痛烈に批判している。

 白神の保護運動の歴史を知らない多くの人たちは、NHKで放映されたプロジェクトX「マタギの森の総力戦」を感激しながら見たと一様に語った。私は「複雑な心境で見た」としか答えられなかった。なぜなら、主人公となるべき人物が青森ではなく秋田であったこと、さらには一人の人生ドラマに終始した点・・・根深さんをはじめ赤石川流域住民の人たちの心を考えると、やっぱり納得がいかないのは当然でしょう。日本自然保護協会からの質問状に対してNHKは、誤りを認め、再度事実にもとづいた全国放送の番組を作る計画だという。詳細は、東北自然保護団体連絡会議のページをご覧ください。

・・・1998年4月「文庫版によせて」の文を要約して紹介したい・・・
入山禁止問題
 「・・・二つの林道建設(奥赤石川林道と青秋林道)に対して直接的かつ壊滅的な打撃を与えたのは、その林道建設に関して゛直接の利害関係者゛とみなされる赤石川流域住民だった。この事実は・・・行政当局や一部自然保護関係者によって意図的に抹殺されてきた・・・理由は何か。それによって不都合が生じるからである。また一方では、世界遺産になったことを口実に゛入山禁止゛を息巻いて一方的に押しつけてきた。だれが、だれに対して押しつけてきたのか。前述の行政当局と一部自然保護関係者が、不特定多数の国民一般に対してである。」

一部自然保護関係者との深刻な対立
 「一部自然保護関係者というのは、地元弘前大学M教授の発案で組織された゛白神NGO゛という御用団体であり、行政当局とはブナ伐採をもくろんでいた所轄営林局にほかならない。のちに゛入山禁止゛は゛入山規制゛に変節し、青森県側についていえば゛入山の届出制とルート指定゛という結果になっている。
 ・・・以前、゛白神NGO゛関係者によって、私は何度も個人攻撃をかけられたことがあった。たとえば、私が同行した新聞社の掲載記事に批判文や謝罪要求文を送付したりしたのだった。支離滅裂、狂気の沙汰としか言いようがない。関係者が内密で知らせてくれたのだが、挙句の果ても逆恨みして私の゛家に放火したいほど憎らしい゛と暴言を吐くにいたっては、もはや言語道断だ。」

無知の指定ルート
 「指定コースは、所轄営林局の一計で山の素人が集められ、地図に線引きして権柄ずくで決められたものである。とても遡行の対象になりえない危険きわまる崩壊地形の沢や、登行する気にも起こらないような濃密なヤブの斜面がルートに指定されている一方で、由緒ある杣道がはずれているのは無知以外のなにものでもない。・・・冬でも、線引きされた沢筋を登行しなければならない、などというのはその典型的な例ではないか。
 とまれ、そのような実体にそぐわない横暴な措置は無視黙殺して骨抜きにするほかない。」
 本来、単行本からより売れる文庫版になれば、喜びをかみ殺して書くはずである。ところがご覧のとおり、怒り心頭している。根深誠さんがこれだけ怒って書くということは、世界遺産指定後の「入山規制」を巡る問題の根の深さ、裏のドラマがどんなに卑劣なものであったか・・・白神を守る立場は同じであっても、白神の隅々まで知る者と知らざる者との心の隔たりは、「無視黙殺して骨抜きにするほかない」と言わしめるほど大きい。それほど、白神の山の神の力は強い(何も白神原理主義者ではないが、根深さんの気持ちは痛いほどわかる・・・)

 プロジェクトXの最大の誤りは、白神を自ら歩き、知ろうとする努力を怠った結果であろう。単なる思い込みで行動すれば、時に恐ろしい結果を招く。しかし、その失敗を恐れて何もしないようではプロジェクトXの趣旨に反する。大いなる勇気を持って、真実を伝えるドラマを期待したい。多くの批判が寄せられるということは、裏を返せば、それだけ期待も大きいということ。結果を恐れず挑戦することがプロジェクトXの真髄であり、白神が守られたのも、まさにそこにあると思う。
 人間の世界では、解雇が続く大不況を例に出すまでもなく、苦労しても報われない場合が少なくない。ブナに囲まれた白神の穏やかな空間は、どんなに苦労しても必ず報われる。時に森の神様は、「来るな」と言わんばかりに怒ることもあるが、人間様のように権威を重んじたり、金をほしがったり、個人攻撃したり、差別したり、卑劣なことはしない。皆平等に迎え、平等に森の恵みを分け与えてくれる。誠に有り難い神様だ。

 白神山地は、マタギの森である。ならば、マタギが信仰してきた山の神の判断が最も正しいのかも知れない。夕陽に染まるブナの黄葉が背後で燃え上がった。

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