黄葉の谷とキノコ狩り1 黄葉の谷とキノコ狩り2 黄葉の谷とキノコ狩り3


Off season mountain fishing life


青森県西目屋村 マタギの渓谷 大川・大滝又沢源流
 太古の昔から、キノコは「秋の香」だった。
 黄金に輝くブナの森、マタギの渓谷を白く染め抜く滝、木漏れ日に燃える白神の秋、風に倒れたブナに新たな命が無数に芽生える、生命の賛歌が不思議な旋律を奏でているようだった。

 これまで、竿を持たずに、白神の谷を歩いたのは、岩魚の産卵を撮影するために歩いた時だけ・・・禁漁になれば素直に冬眠状態に突入することが多かった。今回は、山釣りオフシーズンとはいえ、秋深まる山と渓谷を楽しもう、ということで、のんびり白神の源流を歩いてみた。ブナの森の恵み・・・黄葉に染まった谷の美しさとキノコの美にすっかり魅了されてしまった。
 青森県西目屋村の大川は、雁森岳を源流とし、大滝又沢を合わせて暗門川に合流する10数キロ・・・大川支流オリサキ沢と大滝又沢には、マタギ小屋が現存している。大川は、西目屋マタギの匂いが色濃く残っている渓である。

 大川源流部は、岩場や崩壊地が多く、沢は険悪だ。かつて、ジョウトクの沢の尾根を越え、マタギ道を辿ってタカヘグリを高巻いたが、源流部にいくにつれて山がだんだん切り立ち、石の小屋場沢へ抜けるのに悪戦苦闘したことがあった。

 根深誠さんが書いた「白神山地をゆく−ブナ原生林の四季」(中公文庫)によれば、「県境稜線に突き上げるカチヅミ沢は、マタギの間では゛津軽の箱゛と呼ばれている。まさに箱と呼ぶにふさわしいその険しさ故に、いつしかマタギの間には、゛カチヅミ沢に逃げ込んだ動物たちの追跡はあきらめ、それ以上追わない゛という不文律ができることになった」と記されている。

いきなりブナの風倒木にナメコが・・・幸先のいいスタート
 秋田県藤里町から青森県西目屋村へ向かう県境・釣瓶落峠の紅葉。まるで吸い取り紙に吸い取られてゆくように、深く切れ込む断崖絶壁、尾根と脇尾根付近に五葉松やヒバなどの針葉樹、その間を覆う広葉樹の紅葉は見事だった。

 かつては、静かな紅葉の景勝地だったが、白神が脚光を浴び始めると、県内外を問わずひっきりなしに訪れる人が増えた。まるで吸い取り紙に吸い取られるように・・・
 大川沿いの林道終点に掲げられた看板。左は釣り禁止を掲げる禁漁区の看板、右は、指定ルートに限り事前に入林許可を得て立ち入ることができるといった内容が書かれた白神山地世界遺産地域の看板。さらに大川を歩いている時に、世界遺産地域の巡視員2名にも出会い、「焚き火はするな」「森林管理署に入林許可をとったか」「ここは岩木川の源流で汚してほしくない・・・密漁者が多くて困っている」だとか、広大な山域をまともに管理できない不満や小言を言われた。何ともうるさくなったものだ、とつくづく思った。

 白神の岩魚を守るには、何も全面禁漁だけが唯一の手段ではないだろう。例えば、大滝又沢を3〜5年間禁漁にしてから解禁する、一方、大川本流は解禁から禁漁へと順繰りに利用しながら保全する方法もあるだろう。「世界遺産」だからとか、「白神の魚を守る」意識だけが先走り、人間不在、白神とともに生きた歴史、文化を無視しているとしか思えない。がんじがらめの規制を押し付けるだけでは、白神に対する愛情がますます薄れていくだけではないだろうか。

 白神に生まれ、白神に育った子供たちが、この豊かな生命の源流を知らず、先人たちが白神の魚を守ろうと滝上に放流し続けた愛を知らず、森に棲む聖なる美魚を釣る楽しみを体験できないなんて・・・自然と人間、渓流魚と人間を切り離す、こうした規制は、「共生」とは無縁の自殺行為だと思うのだが・・・。白神は、世界一素晴らしい生きた学校なんだ。なぜそれを生かそうとしないのだろうか。
 大川は、その名の通り、川幅が広く、左右にゆったり蛇行しながら流れる穏やかな川である。黄葉の大川を歩くのは、4年ぶりのこと。  奥の中村会長は、デジタルビデオ、長谷川副会長は今回初めて買ったデジカメで黄葉を撮影しているところ。撮っている私もデジカメ。会全員がデジタル派になった。隔世の感を抱かざるを得ない。
 ブナの風倒木を彩る宝石・ナメコ
 この対岸には、サワモダシの群生があるのだが、今年は不作で皆無だった。地元の人に何度も聞いたが、返ってくる答えは、一様に「今年は不作」・・・それだけにキノコ狩りは期待できないと思っていた。

 川原に荷物を置き、朝食。会長が用をたしに藪の方へ入ったら偶然見つけた白神の恵み・・・色艶、光輝くヌメリともに一級品、幸先のいいスタートとなった。
 マタギがキノコを採る時は、生えている木に傷をつけないようナタで切り取ることは有名だ。我々も、風倒木に傷をつけないよう、ナイフを使って丁寧に採取した。こうすれば、すぐに食べられるし、来年も必ず生えてくる。左の写真の小さなナメコは、もちろん採らずに残した。
 早速、朝食にナメコ汁を作る。歯ざわり、ヌメリ、味ともに抜群。黄葉に染まった谷、降り注ぐ黄葉のシャワーを浴びて、オニギリをほおばり、ナメコ汁に舌鼓をうった。美味い!美味い!の連呼が谷に木霊した。  再び落葉が舞い散る大川をのんびり歩く。身も心も、しこたま軽くなる。
大川・タカヘグリ・・・黄葉と堰止湖の絶景
 モミジも緑から紅へ。ベースキャンプは、よく利用されている常徳沢出合いに設置。右の写真は、大滝又沢が左から合流する二又。地図で現在地を確認、大川本流のタカヘグリを見に行くことになった。
 穏やかな河原から、次第に沢沿いの斜面がだんだん立ってくる。岩壁を彩る黄葉は見事。ここから川は右に直角に曲がり、いよいよ谷は狭くなる。  地元の巡視員としばし会話。黄葉したタカヘグリの絶景を見てきたようだ。
 屹立する岩壁が連なり、さしずめ「岩の門」のような様相を呈している。岩頭に林立する黄葉が、暗い水面に映り美わしい。大川最大の難所・タカヘグリも近い。  タカヘグリを堰き止めた大規模な崩落現場。その規模の大きさに驚いた。角張った岩は、まことに歩きずらい。鉛色の崩落とは対照的に、黄葉は一際美しかった。
 タカヘグリが堰き止められてできた深山の湖・・・屹立する岩壁を染め抜く黄葉、正面にフキアゲの沢出合いの滝が滑るように落下している。沢は左に直角に曲がって見えないが、狭く深い廊下が延々と連なっているはずだ。余りの美わしさに思わず絶句!。

 湖は、水深も深く、狭い廊下は距離が長い。泳いで突破するのは無理のようだ。黄葉したタカヘグリの堰止湖、この美わしい地に立てただけでも、今回来ただけの価値はある、と心底思った。
 黄色の落葉が河原を彩り、深まる秋を強く感じさせる。 河原の倒木に生えたヌメリスギタケ・・・ナメコに似たヌメリのある茶褐色のキノコだが、ナメコより発生頻度が低く、採取量も多くない。中村会長は「美味しくないキノコだ」と言ったが・・・
マタギ伝説の渓・ジョウトクの沢
 ジョウトクの沢をゆく・・・ジョウトクという名前は、マタギ伝説に登場する神様のことだという。上の写真の滝には、かつて村人たちが山菜採り用に使用した残置ロープが1本あったが、今は2本になっていた。この沢はマイタケやゼンマイの宝庫であるらしく、村人たちが歩いた形跡が至る所にあった。  懐かしの沢を歩きながら・・・大川本流には、タカヘグリと呼ばれる難所があり、その高巻きルートがジョウトクの沢の尾根にある。かつて、この左手の脇尾根を登り、マタギ道を辿りながら、折崎沢源頭を詰め上がり、尾根を越えて、赤石川源流へ行った懐かしい日々を想い出した。
 右手が急に開け、緩斜面が広がる場所に出た。キノコの匂いが一面に漂っていた。枯葉や雑草で見えなかったが、やっとナメコの大群生を見つけた。

 4人で3日間食べたが、それでも食べ切れなかった。最初のナメコと違って、かなり傘が開いているが、食べるには、このくらいの大きさが美味い。満点の星空の下、焚き火で湯がいて、酢醤油、味噌汁で食べた。山の恵みに感謝!・・・このキノコを採らず、ただ頭で感謝しろ、と言われても無理な話だ。森の恵みを享受すれば、素直に感謝の気持ちが湧いてくるはずだ。

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