黄葉の谷とキノコ狩り1 黄葉の谷とキノコ狩り2 黄葉の谷とキノコ狩り3

大川支流・大滝又沢をゆく
 2日目・・・遅れてやってきた柴田君が合流、4人のパーティは、黄葉と清冽な滝が続く大滝又沢を丸一日ゆっくり歩いた。枝沢に朽ち果てたマタギ小屋、キノコの群れ、黄葉の氾濫、仁王立ちする巨木たち、ゴーロ、滝・・・。

 林道終点、世界自然遺産地域の看板に向かって右手の踏跡が大川本流に下りるルート、左手の杣道は大滝又沢右岸の山腹を縫って粕毛川へ抜けるルートである。かつて秋田県側の水沢川や粕毛川の鉱山へ西目屋村の人たちが歩いたルートだという。津軽と峰浜村、能代を結ぶ重要な交易ルートでもあっただろう。ぜひ一度歴史のロマンを追い掛けてみたいルートだ。

奥へ奥へと誘う大滝又沢の渓谷美
 大滝又沢は、苔生す岩、小滝が連なり、底まで透き通る流れ・・・見上げれば陽に輝くブナの黄葉がまぶしいほどの輝きを放っていた。
 落葉が舞い散る清冽な流れ。水は冷たく、いつものスタイルにカッパズホンを上にはいて歩いた。沢を歩きながら、風倒木を探す。ここまでキノコ狩りに入る人は少ないものの、キノコは簡単には見つからなかった。
 沢を歩くたびに美わしい光景は刻々と変化、岩魚と同様「足で撮る」から、被写体は山ほどある。三脚にデジカメを固定し、動物的にバシャバシャ、シャッターを押し続けた。  渓に倒れ込んだ倒木は、たくさんあったが、絵になるような場所に、キノコは皆無。やっぱり小沢や斜面の倒木にキノコが多かった。
朽ち果てたマタギ小屋の復活を祈る
 左から小沢が流入・・・美味しい名水に誘われて、小沢に入ると朽ちゆくマタギ小屋が忽然と現れた。おそらく、トンボ先生こと村田孝嗣さんから聞いた西目屋村の石田武四郎さんの小屋だろう。私は小躍りしながら小屋に近づいた。ビニールシートの下には、小屋を修復するための新しいトタンがたくさん積まれていた。あたりを見上げれば、深いブナの森に覆われていた・・・

 昨年、ふと石田マタギに電話したことを思い出した。石田マタギは、私にとつとつと語ってくれた。「マタギ小屋の修復は、白神に生きたマタギの人生を後世に残したい。ただそれだけのことだ。・・・もちろん小屋には鍵をかけず、誰でも利用できるようにしたい」と。石田マタギは、白神を愛し白神に生きたマタギ衆の文化が滅び去ろうとしていることを誰よりも膚で感じていたに違いない。だからこそ損得を抜きにして、奥深いブナの森に、汗まみれ、泥まみれになって修復資材を運んだのだろう。
 周囲は燃えるようなブナの森に覆われ、清冽な水が斜面からコンコンと湧き出していた。小屋の周囲に林立するブナの根元には、真新しい境界杭があった。マタギ小屋の借地と復元申請は、認められたのだ。

 小沢左岸に残るマタギ道を登り振り返った。遥か眼下に傾いたマタギ小屋を見下ろしながら、立派に復元されることを森の神に祈った。白神マタギの遺産が復元されたなら、ぜひもう一度この小屋を訪れてみたい。そして白神をこよなく愛したマタギ文化の重厚な歴史をかみしめたいと思う。
黄葉、清冽な流れ、キノコ・・・ブナの森の恵みを実感
 手前のイタヤカエデの黄、ブナの黄褐色が黄葉の氾濫とでも形容したくなるほど異様に輝いていた。  急な斜面の倒木に生えていたムキタケ。手前は、採られたナイフの跡があったが、奥に遅れて生えてきたムキタケが見事に群生していた。
 いつも見事な群生を見せてくれるブナハリタケ。今年は、群生の規模が小さい感じだ。沢を登るだけなら、フェルト足袋で十分だが、キノコ中心ならやっぱりスパイク付きじゃないと、滑って斜面を探す気にはなれなかった。それでも有り余るほどの収穫があった。不作と言われる中、改めて白神の豊かさを実感した。  右手から枝沢が合流する二又に、森林生態系保護地域保全利用地区の看板が設置されていた。左岸の高台には、キャンプした跡があった。
 二又で昼食をした後、左の本流に向かった。谷は狭くなるが、黄葉が水面に映り妖しいまでに美しい輝きを放った。 弓なりに曲がったブナの倒木と清流
 苔生す岩盤に落葉が点在、
清冽感溢れる小滝が続き、
楽しい遡行が続く。
地球上にわずかに残された水の惑星・白神・・・
この地に立てば、
誰だって「イワナが踊る清冽な流れよ永遠に」
と祈らずにはいられない。
 苔生すゴーロ・・・黄葉したブナの森にすっぽり覆われた谷、巨岩の隙間を白い帯が幾筋にも連なり、かすかにたなびく冷たい空気に身も引き締まる。小さいが瀬を走る岩魚の姿も見えた。自然に頬が緩む。
 遥か後ろにいた私に、柴田君がカメラを構える仕草をしながら、盛んにメッセージを送ってきた。またガセネタだろうと思い、左から流入する小沢を撮影していた。ここで中村会長は、バカでかいシイタケを見つけた。

 ゴーロをゆっくり登って行くと、「清冽な滝とナメコ」が・・・捜し求めていた美わしい光景に、柴田君がナイフを持って立っているではないか。
 私は、慌てて「まだ採るな、写真!写真!・・・」と叫びながら走った。
 俄かに撮影会が開始された。清冽な滝を画面に入れて、近づいたり、離れたり、角度を変えたり・・・何回も撮影を繰り返した。ブナの倒木は若く、今後何年もナメコが生えるだろう。光が当たる場所だけに、ナメコの表面はやや乾いている。「ブナの森の恵み」・・・その造形美に心底満足だった。滝の清冽な音とナメコの匂いが分かるだろうか。

 デジカメは、技術ではなく、足と感性で撮る・・・ギリギリまで近づき、レンズをのぞくと緑の苔が倒木を縞状におおい、ナメコが顔を出す。そこには「生」の営みが連綿と続いていることに気付かされる。晩秋の谷は、生と死の万華鏡のようだ。
 苔生したブナに小さなナメコが顔を出す。  ナイフで丁寧にナメコを切り取る長谷川副会長。
 食べられないが、流木にビッシリ生えた白・・・これも自然の造形美のひとつ。  黄金色に輝くブナの森を背景に、仁王立ちする巨木。コントラストが強すぎて、黄葉が飛んでしまった。暗い谷と黄葉は、余りにもコントラストが強すぎてなかなかうまく撮れなかった。やっぱりPLフィルターは必要だと痛感。
 大滝又沢源流の黄葉・・・急階段のゴーロを抜けると、別天地のように穏やかな風景が眼前に広がる。平らになった広い空間は1本の巨木が支配し、急な斜面にはブナの枝が真横に走り、黄と紅の色鮮やかさを競っている。

 穏やかな森の中を、心地いいリズムを刻んで瀬音が流れる。ときおりブナの根元からイワナが走った。切り立つ岸壁や岩山ばかり続く男性的な谷より、白神の核心部を流れる追良瀬川ツツミ沢源流や赤石川のヨドメの滝上流、粕毛川源流、そして大滝又沢源流のような穏やかな流れが好きだ。それはイワナも同じだ。

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