胆沢川1 胆沢川2 胆沢川3 山釣りの世界TOP

 朝早く起きて、しばし胆沢川本流のゴーロを撮影に出掛けた。雨に濡れて黒光りした巨岩、延々と続くゴーロ連瀑帯は見事だ。よくこんな急登のゴーロをイワナが上ったもんだと感心させられる。
 雨で増水したスギヤチ沢。流れが白く煙り、神秘的な雰囲気を醸し出している。この清冽な流れの岩に潜む魚は、やっぱり「神秘の美魚」と形容するのがピッタリだ。
 雨に煙る沢沿いには、おびただしい数の赤トンボが舞っていた。いかにも涼しげにフキの葉に止まり羽を休めている。エサの少ない源流部、わざわざ平地の田んぼから涼しい源流にやってきたトンボは、イワナの格好のエサとなる。生と死の輪廻、これも全てが循環する世界の一コマ・・・自然の妙と言うほかない。
 テン場を綺麗に片付け記念撮影。手前左から中村会長、長谷川副会長、後方左から柴田君、私、エジプトから帰国したばかりの篤史君。周りは平坦でブナの巨木が林立した最高のテン場だった。お世話になりました。
 帰りは、沢ではなく左岸に残る杣道を辿った。笹薮に覆われていたが、ブナの巨木も多く、杣道は意外に明瞭だった。それだけに快適、快適だった。
 胆沢川沿いに林立するブナの森。やっと雨も上がり、微風にブナの深緑が微かな音を立てながら揺れている。鳥のさえずり、セミがうるさいほど鳴き始めた。森のあちこちで朽ち果てた倒木が横たわり、明るくなった林床には、おびただしい数の幼木が芽を出していた。大量生産、大量消費、大量廃棄が続く人間の世界とは正反対、全てが無駄なく循環する森の世界・・・その重厚さを思わざるを得ない。
 左岸の杣道は、大きく尾根を越えると胆沢川のすぐ傍に続いていた。沢を歩いている時は、藪に隠れて見えなかったが・・・。昔からの杣道は、釣り人や山菜採り・キノコ採りの人たちに受け継がれ、藪と化すことなく生きている。これも豊穣の森があればこそだろう。
 エジプト帰りの篤史君。雨がほとんど降らないエジプトと水と緑滴るブナの森の落差、ナイル川のような大河ではなく、滝また滝のような沢を登り源流へ。その落差は、我々が想像する以上に大きかったようだ。二年振りのイワナとの再会。釣りたくて釣りたくて、しょうがない気持ちは痛いほど伝わってきたが、釣欲を無理やり放棄され、ひたすら幻の沼探検に同行・・・雨具やザックカバーも忘れ、内から外からズブ濡れ状態。ついには、体力の限界に達し、増水した流れにゴロリと転んでしまったことも。それでもギブアップすることなく、よく耐えてくれた。また仲間とともに助け合いながら山釣りを楽しみましょう。
 沢沿いに広がるブナの森、その緑の深さは見事だ。森林生態系保護地域の小出川の森も素晴らしいが、胆沢川源流もなかなか見ごたえ十分だ。いかんせん、車止めから源流まで距離が短いのが難点だ。せめて現在の車止めが倍ほど遠ければ、と思うことしきりだった。
 右岸に倒れ込んだブナの巨木に立つ。こうした場所に出くわせば、必ず倒木なりに渡りたくなる。この後、全員が巨木の根元に向かって渡ったことは言うまでもない。
 流れに侵食され、沢の中にとり残されたサワグルミ。それでも河原の土深く根を張り、微動だにしない。根元には、蔓植物や山野草、苔に覆われた小宇宙を形成しているのがオモシロイ。
 ブナ林の中の林道を歩くと、まもなく車止めだ。左手に小さく国道の橋が見える。沢を二回横断しただけで全て杣道を歩くだけ。準備した昨晩のオニギリを食べる暇もなく、車止めに達してしまった。エネルギーが余るとはこのことだろう。
 焼石岳案内看板のアップ。焼石沼は埋まって消えたのではなく、はっきり記載されているではないか。スギヤチ沢を詰めるより、登山道を辿った方が遥かに近く確実なようだ。ぜひ高層湿原の沼に生息するイワナを確認してみたい衝動が沸き上がった。今度は、ルアー竿をザックにしのばせて・・・。
 帰りは、釣りキチ三平の里(増田町)に新しくオープンした上畑温泉「さわらび」で山旅の汗を洗い流した。売店では、矢口高雄直筆サイン入りの漫画が売られていた。矢口ファンならぜひここで買うべし。
 風呂からあがって玄関に出ると、何と釣りキチ三平の竿先にトンボが止まっているではないか。三平と言えども釣れない時は釣れないのだ。沈黙を続ける竿に一匹、二匹とトンボが止まり「ヘボ、ヘタクソ!」と、いつも馬鹿にされている釣り人としては、何とも言えぬ親近感を覚える瞬間だった。

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