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標高1300m、幻の沼に生息する岩魚を求めて 
 標高1200m付近の湿原、連日の雨と濃いガスに阻まれ沼は幻に・・・

 胆沢川支流小出川の原生林地帯(森林生態系保護地域)のど真ん中を横断する千年の古道・仙北街道を探るため、東成瀬村と胆沢町に何度も足を運んだ。その度に気になっていた源流、それが胆沢川源流だ。特に、秋田県東成瀬村手倉から峰伝いに歩き、柏峠(1018m)から、北を眺めると、一際高く聳え立つ焼石岳(1548m)は、いつも神秘のベールに包まれていた。胆沢川の源流は、焼石岳の裾野に広がる池塘湿原群。胆沢川沿いの杣道を歩き、スギヤチ沢を詰め、その源泉となっている焼石沼の岩魚を追ったが・・・。
 焼石岳は岩手県側に位置しているが、仙人の里・東成瀬村や釣りキチ三平の里・増田町では、地元の山として愛し続けてきた山である。上の写真は、東成瀬村の中心部に鎮座する仙人の像。私たちが眼を奪われたのは、仙人の左手に持つ魚だ。岩魚が2尾・・・伝説の仙人は、恐らく焼石沼の主を釣り上げ食べていたに違いない。
 国道397号線、東成瀬村から胆沢町に向かう途中に焼石岳登山の案内看板が立っている。この林道終点が焼石岳登山の起点だが、我々はあくまで胆沢川を遡行し、伝説の仙人が岩魚を釣り上げたと思われる焼石沼を目指した。
 朝から雨が降る最悪のコンデション。中村会長を先頭に5名は、雨に煙る胆沢川源流を目指した。時々ひどい笹薮が続く杣道を歩いていると、行く手を阻むかのように横たわる巨木に目を奪われた。ブナは、だいたい200年から300年ほど生きると枯れて倒れる。このブナは、その最高齢に属する巨木だ。ポッカリと空いた空間には、ブナの幼樹がたくさん生えていた。
 左:杣道のあちこちに倒れていたブナの倒木。 右:ブナの幼樹。

 倒れたブナには、ナメコやムキタケ、ブナハリタケなどのキノコが生える。生えたキノコは、倒木を腐らせ、土に返す。こうしてできた肥沃な土が、また新しい幼樹を育てる。ブナの森を見ていると、何一つ無駄がなく、全てが循環する理想的な世界だ。
 両岸ブナの深緑に包まれた胆沢川。テンカラ釣り場としては一級品だが、走る魚影は見えなかった。車止めから杣道が右岸にあり、ここから左岸に変わる。それを知らずに沢を上ったら、だんだん両岸が切り立ってくる。と同時に雨足も強くなってきた。右岸の道を探すも、切り立つ崖を登らされるだけだった。
キツリフネ・・・湿った林内に、黄色い花をつりさげるように咲いていた。内側には赤褐色の細かい斑点がある。「黄釣船」とでも書くのだろうか。
 本流とスギヤチ沢が合流する二又上流、ブナの巨木が林立する高台にテン場を構える。降り続く雨は一向に止む気配はなかった。まず雨対策としてブルーシートを張り、テントを設営。熱いコーヒーを一杯飲む。二年振りでエジプトから帰国した篤史君は、早くもテン場近くのポイントでイワナを釣り上げる。よほど嬉しかったのか、イワナをかざして「釣れた、釣れた」と叫びながら満面の笑みを浮かべている。
 私と中村会長は、胆沢川本流をめざす。いきなり急階段のゴーロが続く。巨岩が累積した階段を上ると、高度はグングン上がる。本流とはいえ、スギヤチ沢より水量が少ないのには驚いた。
 ゴーロを過ぎると穏やかなザラ瀬が続く。イワナは釣れるが、決まってサイズは7寸程度。リリース、リリースの繰り返しが続く。昼までキープサイズはゼロだった。しばらくザラ瀬が続いた後、また急階段のゴーロ。その上は決まってポイントの少ないザラ瀬が延々と続いていた。
 ザラ瀬の奥に枝をかぶった小さな淵があった。毛鉤を右の淵尻に振り込むと、いきなりラインが走った。いきおいよくアワセルと、小さなイワナがすぐ目の前に飛んできた。またまた7寸サイズ。それでも稚拙な毛鉤を咥えてくれたイワナに嬉しさを隠し切れない。優しく毛鉤を外して流れに帰してやった。
 サラ瀬が続く胆沢川源流から下流を望む。右に突き出す山は、東山(1117m)、左は栃ケ森山(1070m)・・・いずれも小出川流域の盟主だ。
 標高1000m付近まで来ると、右岸に焼石岳登山道があった。石には黄色のペンキで矢印、木の枝には目印のテープがたくさんぶら下げてあった。それにしてもよく手入れされた登山道だ。こうした人工的な登山道を見ると、だんだん釣欲がなくなってきた。
 キープしたイワナは5匹、何とか今晩のオカズを調達したところであっさり納竿。写真上を少し上ると、さらに沢は二手に分かれ、どちらもボサに包まれた細流となる。登山道を下ると夫婦連れの登山者に出会う。あいさつを交わし、我々は登山道を離れて沢の方向に向かった。本流とスギヤチ沢は、すぐ近くを平行して走っている。落差がほとんどない尾根をよぎり、スギヤチ沢を下る。
 スギヤチ沢は、本流より遥かに水量が多い。雨に黒光りしたゴルジュ、圧縮された階段を落走する轟音、壁を覆うイワブキから滴り落ちる名水の美わしさに、しばし釘付けとなった。

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