The Days of Multi第四部第12章 投稿者: DOM
The Days of Multi
第4部 Days with the Kashiwagis
☆第12章 究極の選択 (マルチ6才)



「ねえ、ちーちゃん…
 この際だから、はっきり聞くけど…
 耕一君との仲は、どの程度進展しているんだい?」

 鶴来屋の会長室での会話である。

「えっ!? あ、足立さん…
 からかわないでください。
 耕一さんは、私にとって弟のようなもので…」

「ちーちゃん。」

 足立は真顔で言った。

「私にまで隠し事は無用だよ。
 …ちーちゃんの気持ちは、わかっているつもりなんだが。」

「…………」

 千鶴は黙った。

「耕一君だって、ちーちゃんのこと、まんざらでもないようだし…
 耕一君に決まった相手がいないようなら、
 ここらでひとつ、真剣に考えてみないかね?」

「ですが…」

「ちーちゃんにも、耕一君にも、縁談が結構来てるんだよ。
 私が親代わりってことなんで、
 できるだけ断わるようにしているけど…」

「…………」

「こないだのように、断わりにくい話もあるし…
 ふたりとも、いつまでも独身のままってわけにはいかないだろう?
 耕一君とちーちゃんなら、お似合いだと思うんだがね…?
 何なら、私からそれとなく耕一君にもちかけてみようか?」

「あ、いえ…
 自分のことは、自分で何とかできますから…
 もう少し、待っていただけませんか?」

「ふむ…」

 足立は唸った。

「実は先ほど、その断わりにくい縁談が一件持ち込まれた所でね。
 先方がいたく耕一君のことを気に入られたみたいで…
 しかも、今度も倉橋先生の肝煎り、
 おまけに、今回は見合いだけでお断りってわけにはいかなさそうなんだよ。」

「ほ、本当ですか?
 そ、それで相手の方というのは…?」

「それが… 来栖川のお嬢さん。」

「え?」

 千鶴はきょとんとした。

「それなら、もうお見合いが済んだはずでは…?」

「いやいや、この間は妹さんの方だったろう?
 今度はお姉さんの方なんだそうだ。」

「で、でも…
 先日は、結局そのお姉さんとお見合いしたようなものですのに…」

「それでだよ。
 あの時、耕一君はお嬢さんの言葉をちゃんと聞き分けたどころか、
 ご両親にもわからない微妙な表情の変化まで、
 手に取るように読み取っていただろう?
 あれでご両親がいたく感動されたようでね。
 その後、お嬢さんの方にもいくつか縁談があったようなのだが、
 どうしても耕一君以上の相手が見つからないと言って、
 再度倉橋先生に頼み込んだらしい。
 前回と違って、かなり本腰を入れてね。」

「そ、そうなんですか?
 …あ、で、でも、確か、
 ご長女の方は、来栖川家の跡を継がれる予定なので、
 ご養子さんを迎えられるって伺ったことがありますけど?」

「それなんだがね…
 先方としては、養子に来てほしいのはやまやまだが、
 耕一君がどうしてもと言うんなら、次女に跡をとらすことにして、
 長女はお嫁に出してもいい、とまで言っておられるそうなんだよ。」

「まあ…」

「聞くところによるとね、あちらのご両親は、
 仕事の関係で、ご長女が小さい頃手をかけてあげることができなくて、
 ずいぶん心苦しく思っておられるそうなんだ。
 おまけにあの通り、他人との意志の疎通が難しいところがあるために、
 ご両親としては並み大抵の心配ではない、と。
 何とか幸せになってほしいと思っているところに、耕一君が現れた。
 家柄も申し分ないし、
 何より、お嬢さんとのコミュニケーションが家族以上に自由にできる。
 きっとお嬢さんのよき理解者、伴侶者となってくれるに違いない…
 ということらしい。」

「はあ…」

 千鶴はしばし呆然としていたが、

「そ、それで… 肝心のご本人のお気持ちは?
 お嬢様の幸せというからには、ご本人がその気でないと…」

「うん… それが、耕一君なら…と乗り気らしいんだよ。
 さすがに倉橋先生としては、立場上そこまではっきり言えないらしくて、
 それとなくほのめかされただけなんだが…
 ともかく、今までどの縁談にも関心を示さなかったお嬢さんが、
 耕一君にだけは好意を持ったようなので、
 それもまた、ご両親の肩入れの原因なんだそうだ。」

「…………」

「で、今度こそ『ご長女との』お見合いを…という話なんだが…
 前と違って、今度は、いったんお見合いしてしまえば、
 お断りするのに、それ相当の理由がいるだろうね…
 いや、はっきり言って、お断りしにくいと思うよ。」

「…………」

「だから、お見合いの話をお受けする前に…
 たとえば、耕一君とちーちゃんが婚約した、ということにでもなれば、
 お断りもできるだろうけど。
 二、三日中に、はっきりとしたご返事をしなければいけない。
 だから、それまでに、ちーちゃんの気持ちを聞いて、できれば…
 と思った訳だ。」

「…………」

 千鶴は言うべき言葉を失っていた。



 その夜、柏木家の夕食。

「千鶴姉、何かあったのか?
 さっきからぼんやりしているみたいだけど…?」

 一向に箸が進まない姉の様子を不思議に思った梓が、声をかけた。

「え? あ?
 …ご、ごめんなさい、何でもないのよ。」

 そう言って、慌てて食事に専念しようとする。
 しかし、しばらくすると、再び箸を持つ手が停まってしまう。
 姉妹や耕一、マルチも不思議そうに千鶴を見ていたが、

「…そう言えば、以前にも同じようなことがありましたね?」

 と楓が静かに言う。
 皆が楓に注目する。

「…あの時は、確か、耕一さんのお見合いの件でしたが…」

 耕一の顔が引きつる。
 しかし楓の注意は、たった今の自分の発言にびくっと体を震わせた、長姉の方に向けられていた。

「…また、お見合いの話ですか?」

 楓の声には怒気はなく、むしろ諦めたようにもとれる、静かな響きがあった。
 耕一が法律上独身である限り、そういった話は免れ得ないことはわかっている。
 耕一と「結婚」してからは、その安心感で、以前のように目くじらをたてることはなくなったのだ。

 しかし、千鶴は押し黙っている。
 楓はふと、いやな予感がした。

「…もっと深刻な問題なんですか?」

 再び千鶴がぴくりとする。

「…お断りしにくい縁談とか?」

「…………」

(本当に、耕一さんのことになると、どうしてこんなに鋭いのかしら?)

 普段のボケぶりが嘘のようだ。

(でも… はっきりさせるチャンスかも知れないわね。)

「ええ… 実はそうなのよ。」

「ほ、本当ですか、千鶴さん?」

「はい… まずはお見合いなんですけど…
 いったんお見合いしてしまえば、
 お断りするのがむずかしいだろうと、足立さんが…」

「そ、そんな?
 いったいどういうわけで?」

「先方さんが、耕一さんのことをたいそうお気に入りらしいんです。
 間に入られた方も、前と違って、
 ずいぶん本腰を入れておられるようですし…」

「ど、どうして…
 え? 俺のことを気に入った…って、
 それじゃ、俺が知っている人ですか?」

「ええ、よくご存知の方です。」

「だ、誰です?」

「…………」

 千鶴は答えない。
 耕一は考え込む…



 突然、梓が口を開く。

「耕一! おまえ、また浮気したな!?」

「な、何でそうなるんだ!?」

「そうじゃなきゃ、そこまでお前に肩入れするわけないじゃないか?
 楓に内緒で、どこかの女を引っかけたんだろう?
 おまえはほんの遊びのつもりだったのかも知れないが、
 女の方は本気になっちゃって…
 それとも、娘を傷物にされた両親が、おまえに責任を取らせようと…
 も、もしかして、耕一のせいで妊娠…した…とか…」

 梓一流の誤解が始まった。
 おまけに連想がどんどん飛躍するに連れて、顔もどんどん赤くなる。
 まったく、こいつときたら…

「いい加減にしろ!
 俺はそんなことしてない!」

「…千鶴姉さん。」

 楓ちゃんは、このままでは埒があかないと見たらしい。

「誰なんですか? その縁談の相手は…
 私たちも知っている人ですか?」

 千鶴さんはほっと息を吐くと、

「来栖川…芹香さんよ。」

「へ?」

 それを聞いた全員が呆気に取られた。



 …………

 …………

 皆呆然と口を開かない。
 最初に我に帰ったのは俺だった。

「は、はは、い、いやだなあ、千鶴さん。
 冗談はよしてくださいよ。
 何で芹香さんが…
 大体、芹香さんとは、もうお見合いを済ませましたよ?」

「あれは本来、綾香さんのお見合いですから…
 今度は、芹香さんご本人のお見合いなんだそうです。」

 そう言って千鶴さんは、足立さんから聞いた話−−いかに先方が俺を気に入っていて、いかに俺が
切羽詰まった状況にあるかを詳しく、多少の脚色も加えて、話したのだった。



「そ、それじゃ…
 今日明日中に婚約者を決めないと、
 耕一お兄ちゃんは、悪魔の生け贄にされてしまうの!?」

 初音ちゃんがうろたえる。
 実は大分脚色してあったようだ。

「いえ、生け贄にされるかどうかは…芹香さん次第だけど、
 まず結婚は免れないでしょうね。」

 初音ちゃんの誤解を十分解かないまま、千鶴さんが結論づける。
 重苦しい沈黙が訪れる。



「…耕一さん。」

 楓ちゃんの言葉が沈黙を破る。

「耕一さんは、芹香さんのことをどう思われますか?」

「え、ど、どうって…?」

「結婚の対象としてどう思うか、とお聞きしているんです。」

「そ、そんなこと、急に言われても…」

 楓ちゃんが俺の表情を読み取ろうとするのを、俺は必死に真面目な顔で避けようとする。

 楓ちゃんは、千鶴さんに目を向けた。

「千鶴姉さん。」

「なあに?」

「この間、耕一さんが芹香さんとお見合いした時、
 耕一さんの様子はどうでした?」

「どうって…」

「綾香さんに聞いたんですけど、
 耕一さんは芹香さんに見とれて、よだれを流さんばかりにしていたので、
 千鶴姉さんにつねられたとか…」

「…そう言えば、そんなことがあったわね。」

 ! 楓ちゃん、君はなんて記憶力がいいんだ。
 おかげで当の千鶴さん始め、その場の全員からジト目で見られる羽目になったじゃないか。

 すると楓ちゃんは、視線を落としてため息をつきながら、

「そうですか…
 私はてっきり、耕一さんが好きなのは綾香さんの方かと…」

 俺を含む全員が「へ?」という顔で楓ちゃんを見る。

「な、何で綾香さんだと思ったのさ?」

 梓が聞くと、

「だって耕一さん…
 綾香さんの写真を大事そうにとってあったし…」

 げっ! あのお見合い写真が見つかったのか!?
 まずい、まずいぞ!
 ん? 待てよ。あの写真が見つかったということは…?

「写真をとってあったって?」

「ええ… 女の子の恥ずかしい写真がいっぱい載った雑誌の中に。」

 し、しまったあ! やっぱりそれも見つかったのか!?

「な、なんだとお!?」

 梓が怒気を露にする。

「てんめえええええええーっ!
 『綾香さん』の『恥ずかしい写真』を隠してた、だとぉ?
 盗み撮りか?
 それとも… お前たちはそういう仲だったのかぁ!?」

 またもや梓の誤解。もういい加減にしてくれ。

「この…!」

「…ともかく、今日明日中に耕一さんが婚約者を見つけない限り、
 芹香さんとの結婚は避けられそうにない、ということですね?」

 楓ちゃんが急に話を元に戻す。梓がこけそうになる。

「そういうことね…」

 千鶴さんがため息をつく。


 A.千鶴さんと婚約をする (千鶴編第13章 千鶴の結婚 へ)

 B.梓との結婚を考える (梓編第13章 梓とラブラブ へ)

 C.初音ちゃんの意向を確かめる (初音編第13章 妹から恋人へ へ)

 D.芹香さんとお見合いをする (第13章 芹香の結婚 へ)

 E.結婚するなら綾香さんがいい (綾香編第13章 最強の夫婦 へ)


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ここの分岐はほんの思いつきで付け足したものなので、
それぞれひどく短く、内容もしょうもないです。
決して期待しないでください。
将来時間があれば書き直したいのですが…


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