The Days of Multi　＜初音編＞
第４部　Days with the Kashiwagis
☆第１３章　妹から恋人へ　（マルチ６才）



　本編第四部第１２章で”Ｃ．初音ちゃんの意向を確かめる”を選択した場合の続きです。

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　俺が風呂から上がると、楓ちゃんが部屋で待っていた。

「耕一さん…」

「どうしたの？　思いつめた顔をして？
　…さっきのお見合いの話、気にしているの？」

　楓ちゃんは俯くと、

「私…　構いませんから。」

「え？」

「耕一さんが…姉妹の誰かと結婚しても、私は構いません。
　たぶん、それが一番いい方法なのかも知れませんし…」

「楓ちゃん…」

「そうでないと、たとえ今回の縁談は何とかしのげても、
　この後何度でも、同じようなことがあるでしょう。
　それこそお断りしかねるような話も…」

「…………」



　コンコン

　小さなノックの音。

「初音ちゃん？　起きてる？」

　カチャッ

「耕一お兄ちゃん？」

「ちょっと話があるんだけど…　いいかな？」

　初音ちゃんはちょっとの間、俺の顔を見つめるようにしていたが、

「うん、いいよ…」

　と俺を部屋に入れてくれた。
　初音ちゃんの部屋は、ぬいぐるみがいくつもあって、いかにも女の子らしい色合いの調度が置かれ
ている。

「話って？」

　俺と初音ちゃんは、ベッドに並んで腰を下ろしていた。

「うん…　初音ちゃん、
　さっきの千鶴さんの話、どう思う。」

「あ…　私…　こわいよ！」

「え？」

「お兄ちゃん、もしかすると生け贄にされちゃうんでしょ！？
　何とかしないと…」

　…千鶴さんの行き過ぎた脚色のせいで、まだ誤解しているようだ。
　まあ、いいか。この際、その脚色を利用させてもらって…

「そうだね…
　このままだと、危ないかもね。」

「どうすればいいの？」

「なに、簡単だよ。
　…耕一お兄ちゃんと婚約してくれる、
　心優しい女の子が見つかれば、それで一件落着さ。」

「…そういう子、いるの？」

「もしかしたら、
　初音ちゃんに心当たりがないかなー、っと思ってね？」

「…………」

　初音ちゃんは、俺の言葉の意味に気がついたのか、俯いてしまった。

「…初音ちゃん…
　いつだったか夢でシンクロしたから、わかってると思うけど…
　俺の本当の気持ち…」

「うん…　知ってるよ…
　楓お姉ちゃんだよね？」

　俺はうなずきながら、

「だけど、俺がもうひとり、とても気になる女の子がいる…
　その娘は昔、リネットと名のっていた、心優しい少女だ。」

「…耕一お兄ちゃん…」

「その娘ともう一度家庭を築きたい、というのは…
　俺の身勝手な言い分かな？」

「…私がお兄ちゃんと婚約すれば、
　お兄ちゃんは生け贄にならずにすむんだね？」

「初音ちゃん…
　生け贄の話は、千鶴さんの脚色だよ。
　ほんとはそんな心配はないから、安心して。」

「え？　そうなの？」

「そう、だから…」

　俺は真顔になった。

「初音ちゃんの正直な気持ちを聞かせてほしいんだ。
　生け贄とか関係なしに…
　俺のお嫁さんになってくれる気があるかどうか。」

「お、お兄ちゃん…」

　初音ちゃんは、真っ赤になって下を向いてしまった。

「わ、私なんか…」

「いやかい？」

「い、いやじゃない！！」

　慌てて否定した初音ちゃんは、さらに赤くなる。

「…じゃ、いいんだね？」

「でも、どうして私を？
　千鶴お姉ちゃんや、梓お姉ちゃんは…？」

「俺がお嫁さんに考えていたのは、初音ちゃんだよ。」

「ほ、ほんとう？　でも…」

「初音ちゃん。」

　と、俺は真剣な顔で言った。

「初音ちゃんさえよければ、
　大学卒業してから、俺と結婚してくれないか？」

「…………」

　しばらく俯いてもじもじしていた初音ちゃんは、やがて小さくうなずいた…



　俺と初音ちゃんはすぐさま婚約し、初音ちゃんの卒業後、結婚することになった。
　楓ちゃんは、俺がリネットの転生を選んだことに何か感じるところがあったようだが、自分を抑え
て祝福してくれた。



「じゃ、行って来ます。」

　大学に行こうとする初音ちゃんをそっと追いかけた。
　玄関を出たところで、

「初音ちゃん？」

「なあに、お兄ちゃ…？」

　後は言葉にならなかった。
　俺が口づけで彼女の口をふさいでしまったからだ。



　まっ赤な顔の初音ちゃんを送り出した俺は、家に入ろうとした。

　ガラガラガラ…

　戸をあけると、そこには…無表情な顔で楓ちゃんが立っていた…

「耕一さん。何をしてたんですか？」

　低い低い声に、俺は背筋が寒くなった…



　しかし、これとても、柏木家にはありがちな生活の一コマ…


＜初音編＞　完


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執筆開始当初は、本編で耕一とマルチ、初音ちゃんの三角関係を書こうかなどと考えていたのですが、
楓ちゃんを復活させた影響で、話が違う方向に流れてしまいました。
ほんとうは、もっと初音ちゃんを描きたかったのですが…

まあ、将来気力と時間があれば、
あるいは、この分岐をもっと充実させた形で書き直せるかも知れません。
今のところ、その気はありませんが。


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