2005年2月27日上程
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雑感

取引停止通告

(以下の文章は,インターネット消費者被害対策弁護団のブログである「犬も歩けば法にあたる」に投稿したものを若干修正したものです。)

 ニッポン放送の社長は,フジテレビをはじめとするフジサンケイグループ各社から,ニッポン放送ライブドアの支配下に入った場合ただちに取引を中止する意向を伝えられたらしいですね。

フジ、一気に勝負 リスク抱えた作戦 泥沼の法廷闘争にも(毎日新聞,2月24日朝刊)

 「言いたいのはただ一点。フジサンケイグループに残ります」。記者会見で、ニッポン放送の亀渕昭信社長は繰り返した。ライブドアの傘下に入れば、グループ各社はニッポン放送との取引をすべて打ち切るとも。そうなれば「ニッポン放送の企業価値に甚大な悪影響がある。」

フジ・ニッポン放送側 苦渋の企業防衛(読売新聞,2月24日朝刊)

〜ニッポン放送の亀渕昭信社長は二十三日の記者会見で、フジテレビをはじめとするフジサンケイグループ各社から、ニッポン放送がライブドアの支配下に入った場合、ただちに取引を中止する意向を伝えられたことを紹介したうえで、「ニッポン放送がフジサンケイグループに残ることが、企業価値、株主価値を高めるベストの方法だ」とし、新株予約権発行の正当性を強調した。

 ニッポン放送にとって,フジサンケイグループ各社との取引が停止されることは,頼みとする放送のネタが入ってこないばかりか,イベント共催やCD,DVD制作による収入の途も絶たれてしまうことになるので,企業価値にかかわると考えることになるのでしょう。ニッポン放送から見たら,ライブドアの「支配」を免れるための新株予約権の付与は経営上正しい選択なのかもしれません。

 しかし,そのような選択を,取引停止をちらつかせて行わせるという,フジサンケイグループ各社の行動が法的に許されるかどうかは別問題です。

 独占禁止法第10条は株式の取得について以下のように規制しています。

★私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

第十条 会社は、他の会社の株式を取得し、又は所有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該株式を取得し、又は所有してはならず、及び不公正な取引方法により他の会社の株式を取得し、又は所有してはならない。

 不公正な取引方法による株式の取得について,公正取引委員会が出しているガイドラインでは以下のように説明されています。

★流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(平成三年七月十一日 公正取引委員会事務局)

第七 取引先事業者の株式の取得・所有と競争阻害

2 不公正な取引方法による株式所有関係の形成

 (1) 不公正な取引方法により取引先事業者の株式を取得すること
(中略)
 事業者が、例えば次のような手段を用いて取引先事業者の株式を取得することは、不公正な取引方法による株式取得に該当し、独占禁止法第一〇条の規定に違反する。
(マル1) 取引上優越した地位にある完成品製造業者が、取引先部品製造業者に対し、自己に株式を取得させることを要求し、要求に従わない場合には取引を拒絶し、又は不当に不利益な条件を押し付けることを示唆する等によって、当該部品製造業者に第三者割当増資等を行うことを余儀なくさせて株式を取得すること(一般指定一四項(優越的地位の濫用))

 上記ガイドラインは,例えば,B社の製造する部品の大半を購入しているA社が,B社に対し,

 自分(A社)にB社の株式を持たせなければもう取引をしてやらないよ(おまえのところから部品は買ってやらないよ)

 と言って,B社から新たな株式の発行を受けることは独占禁止法違反だよということを言っているのです。

 完成品製造業者と部品製造業者との関係に限らず,B社がA社からの取引を切られると困るという関係にあれば,上記のような規制の対象となります。ニッポン放送社長の発言要旨を見る限りでは,ニッポン放送フジサンケイグループ各社との間の関係は,正に上記のような関係のように思えます(できれば記者会見の全文が見たいものです。)。

 もっとも,フジテレビらの行為が「不公正な取引方法」に当たるためには,公正な競争を阻害するおそれがあるという要件も別に満たさなければなりません。また,これまでに独占禁止法10条に基づき公正取引委員会が審決を下したことはありません(公正取引委員会のウエブサイトの審決等データベースシステムでの検索結果による。)。こうした事情を考えると,フジテレビが同条違反で排除措置を受ける可能性は高くないとは思います。
 しかし仮に公正取引委員会による措置がなされれば,措置の一内容として,フジテレビは新株予約権を行使して取得した株式の処分を命じられるでしょう。また,通常は,フジテレビの役員への叙勲が,排除措置を受けなかった場合に比べ5年ほど遅れることになります。そのようなリスクを冒してまで取引停止をちらつかせる必要があるのか,甚だ疑問です。

 先に取り上げた「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」は,1990年の日米構造問題協議(SII)最終報告を受けて制定されたものです。SIIでは「ケイレツ(系列)」取引や企業集団の閉鎖性,排他性が米国からやり玉に挙げられており,そのような批判があることはマスメディアも度々報道していました。

 15年も前に批判されていた企業集団,系列取引の閉鎖性が,それをさんざん報道してきたマスメディアという業界においては未だに残っているというのは皮肉なものです。
 もっともライブドアの堀江社長も,ニッポン放送フジテレビの系列関係を利用してフジテレビと提携しようとしている点ではフジテレビ関係者と同類に見えます。

 メディア業界には,系列化のほかにも,放送免許,記者クラブ等,排他性・閉鎖性をうかがわせる問題が残っています。しかし今回の騒動で,系列化の是非も含め,こうした問題点にふれているマスメディアは私の知る限りありません。

 そもそも,マスメディアについては系列化が避けられないものなのか,ゆるやかな株式持ち合いではだめで子会社化が必要な理由は何なのか,系列化は消費者である受け手にとって本当によいことなのか。今回の騒動が,そういった観点からの議論が行われるようになるきっかけになればと思います。

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