2005年3月10日上程
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公取委委員長「フジテレビの取引打ち切り示唆は問題なし」公正取引委員会の竹島一彦委員長は9日の衆院経済産業委員会で、フジテレビジョンがニッポン放送に対し、ライブドアの傘下となった場合に取引を中止する意向を示していることについて、「取引は自由で、放送業界の市場で競争の制限も発生しない」と述べ、独占禁止法違反にはならないとの見解を示した。民主党の近藤洋介氏の質問に対する答弁。
独禁法では市場での競争に影響を与える行為が問題視される。竹島委員長は取引の自由を尊重する考えを示したうえで、「フジサンケイグループ以外の他グループまでニッポン放送との取引を中止するようなことがあれば、独禁法上の問題になる」と述べた。
上記記事を読んだ限りでは,公取は取引を中止することの可否というように問題を絞って考えているように見えます。そのようにとらえれば取引を誰と行うか否かは原則として自由なので,上記のような回答になるでしょう。優越的地位の乱用の成否については,テレビ局はフジテレビ以外にもあるのだから,フジサンケイグループから取引を断られてもニッポン放送はやっていけるのであって,フジテレビは優越的地位には無い,という考え方のように見えます。疑問に感じなくもありませんが,今までの公取の運用を考えるとまあこの線かな,と思います。
とりあえずフジテレビは独禁法違反ということで株式処分を命じられるおそれはまず無くなったわけで,あとは新株予約権付与に関する裁判所の判断待ちということになってきましたね。
ところで今回の経営権争奪問題に伴い,「企業防衛」策を立法化しようという動きが自民党政治家を中心に出てきています。でも,企業防衛って,具体的に誰を守るのでしょう?
株式会社という企業を所有しているのはあくまでも株主であり,社長をはじめとする取締役は(最近は執行制度も変わったようですが),所有者である株主から会社の経営に関する意思決定と執行を委託された存在にすぎません。したがって,委託者である株主が変わり,その意向が変われば経営者が変わるのも当然であり,ただ,いったん任命された取締役が不意打ちで解任されるのを防ぐため,任期途中の解任には株主総会の特別決議(発行済み株式総数の過半数を有する株主が出席した株主総会での出席者所有株式数の3分の2の賛成)が必要とされているにすぎません。経営者は守られるべき存在ではないのです。しかも取締役など経営陣は,会社に対する忠実義務を課されています。経営陣が自己の保身を図るために行う措置を「企業防衛」の名の下に行うことは許されません。
それでは従業員保護?それは新経営陣と従業員との間の関係についてきちんと労働法規を遵守させるようにすればよいだけの話です。
こうして見ると,企業防衛というのが立法目的として使えるものなのか,非常に疑問です。そもそも「企業」自体,法が法律上の主体として擬制した存在にすぎません。それを実際に動かしているのは生身の人間であり,生身の人間がどのような方法で保護されるべきなのかを具体的に考えていくべきであって,企業防衛という抽象的な文言で経営陣に自由な裁量を与えるのはいかがなものかと思います。