宇宙戦争 ★★☆
(The War of the Worlds)

1953 US
監督:バイロン・ハスキン
出演:ジーン・バリー、アン・ロビンソン、レス・トレメイン、セドリック・ハードウイック(ナレーション)

<一口プロット解説>
火星人達が来襲し、地球を破壊し始める。
<入間洋のコメント>
 「宇宙戦争」といえば、監督スティーブン・スピルバーグ、主演トム・クルーズによる本年(2005)公開されたリメイクバージョンが現在では思い浮かぶかもしれませんが、勿論オリジナルの方もカルト的な人気の高い作品であり、ある年代以上の映画ファンでここに取り上げるオリジナルの「宇宙戦争」を知らないという人は恐らくいないのではないかと思われます。カラーのSF作品の中で、これ程リアリスティックな感覚に充ちた作品は、それ迄はほとんど存在しなかったはずです。というよりも、この手のSF映画の嚆矢となったのが、まさに「宇宙戦争」であったとすら見なせます。勿論、製作された時代が時代だけに、現在のような高度な撮影技術は全く存在していなかった点を考慮すれば至極当然であるとしても、たとえばスピルバーグの「宇宙戦争」などと比較すると、アカデミー特撮効果賞の受賞作品とはいえども、オリジナルバージョンには技術的に垢抜けしないところがあるのは否めないことも確かです。たとえば、冒頭の隕石が落下するシーンなど、おもちゃが空から降ってきたように見え、またそれによって発生した火災を、地元の人たちが手持ちの消火器や着ている服で消そうとしている様子は噴飯ものです。噴飯ものといえば、作品中には現在の目で見れば意図せぬ笑いを誘うシーンがあることも確かであり、たとえば原子爆弾が投下されたあと空から降ってきた死の灰を顔面におしろいのように付着させながら、主人公や軍隊の指揮官が平然と会話している様子には、現在では誰もが笑いを禁じ得ないところでしょう。しかしながら、当時にしてみれば、これらの垢抜けしないシーンや現在では笑いを誘うシーンであっても極めて効果的であったであろうことは間違いのないところであり、むしろこれ見よがしの特殊効果に慣れ切ってしまい、少々の特殊効果くらいでは気の抜けたリボンシトロンのようにしか感じられなくなった我々現代のオーディエンスの方がよほど不幸であると言えるのかもしれません。また見方を変えれば、そのような垢抜けしないシーンは、現在的な観点から見ればレトロ、あるいはキッチュな魅力があると言えないこともないのであり、カルト的な魅力の1つとして、このような現在とのズレをポジティブに見せる魅力をも含めることが確かにできるはずです。しかしながら、注意すべきは、そのような評価は、あくまでも第三者的な一歩下がった観点に帰されるのであり、決して当時の製作者やオーディエンスが、そのような評価を下していたわけではないことです。

 「宇宙戦争」がこの手のSF作品の嚆矢であると見なせることは先に述べた通りですが、この作品を見ていて少々不思議に思われることが1つあります。それは、アメリカ映画であるにも関わらず、「宇宙戦争」は、通常のアメリカ映画とは少々違った展開を持つことです。「悲しみは空の彼方に」(1959)のレビューでも述べたように、開拓史的なヒロイズムが現在でも好まれるアメリカにおいては、運命のような受動的なテーマは敬遠される傾向があり、アメリカ映画の一般的な特徴として、人間の意志力とは無関係な出来事がストーリーの全てを支配するような展開には滅多にならない点が挙げられます。ところが、「宇宙戦争」では、終始一貫して人間の意志力とは無関係な出来事がストーリーを進行させる動因になっています。すなわち、火星人が空の彼方から勝手にやって来て地球を荒らし廻り、最後はこれまた勝手にバクテリアによって撃退されるというストーリー展開には、人間の意志力が関与する余地などほとんど存在しないのです。子供の頃、テレビ放映で「宇宙戦争」を見た際に、それ迄は快調に地球を破壊しまくっていたUFOが、何の前触れもなく金鳥蚊取りの煙に捲かれた蚊のごとく空からボタボタ落下し始めるシーンに思わず首を傾げてしまったことを覚えており、まるで機械仕掛けの神を降臨させたかのような強引な終わらせ方にはガキンチョながら大いに疑問を覚えたものです。そもそも、機械仕掛けの神は、絶対的なパワーを持たないヒーローが終始運命に翻弄されるギリシア悲劇などで盛んに用いられたからくりであり、確固たる意志力を持ったアメリカンヒーローの活躍が愛でられるハリウッド映画には馴染まないはずです。主演のジーン・バリーとアン・ロビンソンは、ほとんど逃げまわるだけの無力な人物を演じているのであり、彼らの努力が地球を救うのでは全くありません。そもそもジーン・バリーもアン・ロビンソンも、少なくとも当時はほとんど無名の俳優であった点を考慮すれば、「宇宙戦争」の主演は、あくまでも火星人と彼らが乗るUFOであったことが理解できるはずです。どうしようもないほどアメリカ的なヒロイズムに溢れたSF作品、たとえば近年のものでは「インデペンデンス・デイ」(1996)や「アルマゲドン」(1998)と「宇宙戦争」を比較すれば、両者の違いは火を見るよりも明らかであるはずです。


 しかしながら、このような「宇宙戦争」のストーリー展開の特異性は、原作者がイギリス人のH・G・ウエルズであることに由来するのかもしれません。主人公達がひたすら逃げ回り、最後は教会の中で人々が奇跡を信じて祈っている間に、本当に奇跡が起こってUFOがボタボタ空から落下するという展開は、どう考えてもアメリカ的なメンタリティとはマッチしないように思われるのは前述の通りですが、アメリカ的なメンタリティとは無縁なヨーロッパ出身の作家の手になる作品が原作であればある程度納得できるところがあります。「宇宙戦争」と同じくジョージ・パル製作、バイロン・ハスキン監督のコンビで製作された次作「黒い絨毯」(1954)でも、人間が軍隊蟻に何の理由もなく蹂躙される光景が描かれ、その点では、この作品は、人間が火星人達に何の理由もなく蹂躙される光景が描かれる「宇宙戦争」と極めて類似したところがあります。しかしながら、「黒い絨毯」が「宇宙戦争」と大きく異なるのは、後者では主人公達はほとんど逃げ回るだけであるのに対し、前者ではチャールトン・ヘストン演ずる主人公のヒロイックな行動によって苦境が克服されることです。つまり、「黒い絨毯」の方は、結局のところアメリカの伝統的なヒロイズムが描かれていることになります。そのように考えると、「宇宙戦争」の特異性は、製作者ではなく原作者に由来するのではないかと見られますが、考えてみると実はジョージ・パルその人もヨーロッパはハンガリー出身なので、彼にしてみればそのような非アメリカ的な展開になってもそれほど違和感がなかったということかもしれません。前述した「インデペンデンス・デイ」や「アルマゲドン」のような作品だけを見ていると、SFはアメリカ的なヒーローアクションを描くには格好のジャンルであるように思われるかもしれませんが、ストーリーの流れとしては人間が窮地に追い込まれるマゾヒスティックな展開になることの多いSFジャンルにおいては、実は「宇宙戦争」のように、運命論的な色調を帯びる方がむしろ自然なのかもしれません。

 その点は別としても
、垢抜けしない側面が少なからず見られるとはいえ、「宇宙戦争」には、この手のSF映画の嚆矢と見なすにふさわしいところもあります。たとえば、3台(機?)のUFOがあたりを睥睨しながらゆっくりと音もなく前進し、電子音のような奇怪な音響をたてながらレーザー光線で軍隊や市街地を破壊する様子は50年代初頭の映画とは思えないほど現代的な感覚に溢れ、ある意味で美的センスすら感じられます。また現在であればコンピュータ技術を駆使すればいとも簡単であったとしても、当時の技術でどうやって撮影したのかと思わせるようなシーンもあります。3台のUFOの形状や動きにしても、一見すると実にリアルであり、当時の他のSF映画の中でUFOや宇宙人が登場すると模型である事実が明らかに分かることが多かった点を考慮すると、出色のできであると言えるでしょう。またDVDの音声解説によると、墜落したUFOから火星人の手がだらりと垂れ下がり血の気が失せて死んでいくシーンはどうやって撮影したのか、「タイタニック」(1997)を監督したジェームズ・キャメロンが知りたがっていたというエピソードが語られており、ド素人にはそれ程大したことはないように見えるシーンであってもプロの目から見れば驚嘆すべきシーンが少なからず「宇宙戦争」にはあるようです。また、映画そのものとは関係がありませんが、1つ驚いたのは、UFOに原爆を投下するのは、胴体のないステルス型の航空機である点であり、この当時既にこの型の航空機が存在していたのかと意外に思われました。当作品は1953年の公開なので、第二次世界大戦終戦から8年足らずしか経過していなかったはずであり、プロペラ機が主流(大戦末期にはジェット機も出現しましたが、実験的な段階にあり量産体制には入っていなかったはずです)であった第二次世界大戦から10年もしない内にこのようなモダンな航空機が既に登場していたとは、驚嘆すべき技術の進歩と言えるのではないでしょうか。

 最後にスピルバーグバージョンについて少しだけ触れておきましょう。他のレビューでも述べているように、スピルバーグは、近年立て続けに小生の個人的な趣味にあった素晴らしい映画を監督しているので、その彼の手になる「宇宙戦争」のリメイクバージョンも大いに期待して映画館に早速見に行ったところ、最近のスピルバーグの作品としては全くの期待はずれであり、これなら他の監督でも十分であろうと思われたこともあり、すぐに興味はラストシーンがどうなるのかという一点に絞られました。要するに、スピルバーグのバージョンでも、オリジナルの「宇宙戦争」の非アメリカ的な展開がそのまま踏襲されているのかに興味は絞られたということです。その結果については、まだ見ていない人の興味を削がないようにここでは述べないことにします。IMDbによれば、オリジナルに主演したジーン・バリーが、リメイクにも出演しているようですが、その事実を知らないで見たこともあって全く気が付きませんでした。それにしても、50年前に主演した映画のリメイクにカメオで登場するのはどのような気分なのか聞いてみたい気もします。単純に技術だけでいえば、比べ物にならないほど進歩しているはずであり、50年という時の流れを一番実感したのは彼かもしれません。それから、アン・ロビンソンの音声解説によると、キャロリン・ジョーンズがちらと出演しているとのことですが、「宇宙戦争」に彼女が出演していることはそれまで全く知りませんでした。

2005/12/04 by 雷小僧
(2009/03/15 revised by Hiroshi Iruma)
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