飛べ!フェニックス ★★☆
(The Flight of the Phoenix)

1965 US
監督:ロバート・アルドリッチ
出演:ジェームズ・スチュワート、リチャード・アテンボロ、ハーディ・クリューガー



<一口プロット解説>
ジェームズ・スチュワートが操縦する飛行機が、砂嵐に巻き込まれサハラ砂漠のど真ん中に不時着してしまう。
<雷小僧のコメント>
いわゆるサバイバル物の映画なのですが、面白いのは登場するのは野郎ばかりでロナルド・フレイザーが一瞬見る幻影の中で以外は女性は一人も出てこないというまさに野郎の映画になっているということです。元来こういうタイプの映画は、女性を一人二人登場させてエモーショナルな効果を得ようとすることが多いように思うのですが、この映画はそういう小細工なしのストレート勝負というところが非常に潔いのではないでしょうか。砂漠に不時着した飛行機の乗員/乗客が互いに争いながらも、最後は協力して脱出に成功するというストーリーは非常に単純明快であり、それどころかまだこの頃(1960年代)は「為せば成る」というアメリカ的な自信が充満していた頃であるなということに気がつくことが出来るように思います。要するにどんなに不利な状況であっても、その状況を如何に克服することが出来るかということが描かれているのであり、いわば人間が主体のストーリーであって決して状況が主体となるストーリーではないと言うことです。これに対し、1970年代に入ってしまうとパニック映画が全盛になるわけであり、パニック映画というのはパニックという状況が主役であって、このパニックという状況が人間を翻弄する様を描くのがパニック映画なのですね。でも、パニック映画にもヒーローが登場して問題を解決してくれるではないかと思われるかもしれませんが、まさにヒーローを登場させなければいけないということ自体が、ヒーロー以外の登場人物の無力さを示しているわけであり、皆状況に支配されてなすすべがないということを表しているわけです。そういうわけで、まだ60年代も半ばに制作されたこの映画にはパワーが漲っているのですね。
ところで、そういう力感がうまく表現されるには、如何に緊張感あるドラマを持続出来るかにかかってくると思います。この映画は2時間半位の長さがあるのですが、この位の長さになると下手をすると途中でだれる可能性がありそういう点でかなりの危険を冒していると言えますが、この映画は途中でだれるということがあまりないですね。1つには、墜落した飛行機の残骸から別の飛行機を作ってしまおうというアイデアが斬新であり、観客の興味をうまく繋げることに成功しているということがあるかもしれません。けれども、何といっても途中でだれない最大の要因は、オールスターキャストのパワーアクティングにあると言ってもよいのではないでしょうか。この映画のシーンは、ほとんどがだだっ広いサハラ砂漠のど真ん中で推移するのですが、登場人物達はどこへも行けないわけであり、基本的には墜落した飛行機の周囲数十メートルの範囲内でしかドラマが進展しないのですね。要するに壁にサハラ砂漠の写真を掲げた室内劇を見ているのと大差はないということなのですが、そういう室内劇的なパフォーマンスの良し悪しがこの映画の質を決定付けると言っても過言ではないように思います。この点において、この映画のキャスティングは素晴らしいの一言に尽きますね。ジェームズ・スチュワート、リチャード・アテンボロを筆頭にアーネスト・ボーグナイン、ピーター・フィンチ、ハーディ・クリューガー、ジョージ・ケネディといった曲者達が、自分達の特質をうまく表現しているように思います。ピーター・フィンチとハーディ・クリューガーの二人は、数年後に「赤いテント」(1970)という似たような趣向の映画(但し舞台は北極なのですが)で再び共演することになるのですが、ドラマ性という点では「飛べ!フェニックス」の方がはるかに優れているように思います。蛇足ですが、「赤いテント」はソビエトも含めたヨーロッパ数か国の合作映画なので、確かに景色の素晴らしさは息を飲むものがあるのですが、ドラマとしては焦点ぼけをおこしている気味がありました。いずれにしても、「飛べ!フェニックス」は、サバイバルドラマとしては最良の映画の1つであるとみていいと私目は思っています。

1999/04/10 by 雷小僧
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