フロント・ページ ★★★
(The Front Page)

1974 US
監督:ビリー・ワイルダー
出演:ジャック・レモン、ウォルター・マッソー、スーザン・サランドン、チャールズ・ダーニング



<一口プロット解説>
或る新聞社のボスであるウォルター・マッソーは、ある死刑囚(オースチン・ペンドルトン)の死刑執行シーンのスクープを狙っているが、彼の相棒のジャック・レモンは結婚して引退すると宣言する。
<雷小僧のコメント>
驚くべきことにジャック・レモン、ウォルター・マッソーというコンビは今だに現役であり、この両人が登場する映画は「恋人よ帰れ!わが胸に」(1966)から数えて私目の知る限り9本あり、しかもその内の5本は1990年代の中盤以降に制作されています(私目は最新作3本はまだ見ていません)。このコンビの面白いところは、たとえば日本でコメディコンビと言えば漫才などを見れば分かるようにボケとツッコミというのが基本パターンになっているわけですが、彼らの場合はどちらかというと両方ツッコミタイプであるという点です。といっても、レモンは元々神経質なタイプの役者でありいつも細かいことを気にしているような役柄が多いのに対し、マッソーの方は見てくれの通りズボラな役が多く、その辺はしっかりと役割分担がなされているようです。だからこそ30年以上もコンビを続けることが出来るのでしょうね。そういう点が、最もよく出ていた映画に「おかしな二人」(1968)があり、それがこのコンビの最高傑作であると私目は勝手に思っていますが、この「フロント・ページ」もなかなかよく出来た映画であると思っています。監督のワイルダーには70年を過ぎるとあまり芳しい出来の映画がなくなってしまうのですが、その中ではこの「フロント・ページ」が一番出来がいいのではないかと思います。尚、この映画は1931年に制作された同名映画(ルイス・マイルストン監督)の3度目のリメイク(ん?リメイクとしては2度目なので2度目のリメイクと言うべきかな?)ですが、残念ながら私目は他のバージョンは見たことがありません。
さて、この映画は1930年代(かな?)の死刑執行のスクープを追いかける新聞記者達のズトーリーなのですが、シリアスなストーリーでは全くなくコメディとして扱われています。しかし、それにしてもこの映画のテンポの速いこと速いこと。ストーリー展開もそうですが、会話のテンポはこれはちょっと日本語では考えられないのではないでしょうか。英語の会話というのは日本語の会話よりもテンポが速くなるのが普通なのでしょうが、しかしこれだけアップテンポな会話を2時間近くの間、最初から最後迄押し通してしまうのは、相当なエネルギーが必用だと思われます。もともと私目は、日本語というのは抑揚が少なすぎて余りテレビドラマや映画には向かないタイプの言語ではないかと思いはじめているのですが、「フロント・ページ」のような映画を見ていると如何にもその印象が正しいような気がしてきますね。まあ、この映画はそういう描写を通じてジャーナリズムという世界の活気、あわただしさ、めまぐるしさといったものを表現したかったのかもしれませんが、見ている方も半分躁状態になりますねこれは。比較的最近の映画にも「ザ・ペーパー」(1994)という新聞ジャーナリズムを扱った映画がありましたが、この映画も「フロント・ページ」とは違ったアプローチの仕方でジャーナリズムの世界のめまぐるしさをうまく表現していました。
ところでジャーナリズムを扱った映画には、この「フロント・ページ」の後にもたとえば「ネットワーク」(1976)、「ブロードキャスト・ニュース」(1987)、「ザ・ペーパー」(1994)、「アンカー・ウーマン」(1996)等がありますが、この「フロント・ページ」はそれらとは大きく異なっているように思います。それは何も「フロント・ページ」だけがコメディであるということのみによるわけではなく、扱いが非常にノスタルジックなのですね。他の映画は、それぞれの映画が制作されたコンテンポラリーな時代状況を反映しているのに対し、この「フロント・ページ」にはそのアップテンポな会話にも係わらず何かのどかな印象があります。画面全体が何やら黄色っぽいのがノスタルジックな印象を醸し出すのに一役買っていることは間違いないのでしょうが、この映画に登場する新聞記者達はたとえライバル紙の記者同士でも喧嘩しながらも互いに仲間だという意識が強く見えるように、古き良き日々という懐古的な視点が何か強く感じられるのですね(勿論時代設定が1930年代ということもありますが、それは逆にそういう懐古的な視点があったから1930年代が舞台として選択されたと言うことも出来るわけです)。これに対し、たとえば「ザ・ペーパー」の中では、ライバル紙はまさに敵として描かれており、マイケル・キートンが転職を希望する他紙のお偉方の机の上からスクープ情報を盗んだ時、彼は決定的なミスを犯したことになるのです。「フロント・ページ」は、喧騒に溢れたジャーナリズムが舞台となっているとは言え、そういう殺伐さがない映画なので、当時の熱気溢れる雰囲気がよく伝わってくると言えるのではないでしょうか。
それから、この映画には今も第一線で活躍するスーザン・サランドンが、ジャック・レモンのフィアンセとして登場しますが、当時から目がやけに大きかったですね(え!目の大きさなど変わるはずがない!その通りです。すんましぇん。)。最後に一言、ビリー・メイによる音楽(これは多分オリジナルではなく編曲だと思いますが)もよくこの映画にマッチしていて、その躁的な気分をいやが上でも盛り上げていると言うことが出来るでしょう。

1999/04/10 by 雷小僧
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