ビスマルク号を撃沈せよ! ★★★
(Sink the Bismarck!)

1960 UK
監督:ルイス・ギルバート
出演:ケネス・モア、ダナ・ウインター、ローレンス・ネイスミス、マイケル・ホーダーン



<一口プロット解説>
ドイツが誇る巨大戦艦「ビスマルク」号が獲物を求めて大西洋に出てくるという情報をケネス・モア率いるイギリス海軍情報部は受取り、上層部からそれを何としてでも阻止せよという命令が下る。
<雷小僧のコメント>
不思議なことに戦争映画というとほとんど陸戦ものが多く、純粋な海戦ものはあまりないように思います。私目の思い出せる限りにおいては、潜水艦もの(海戦とはちょっと違いますね)を除くと、「ミッドウェイ」(1976)以来ほとんどないと言っても過言ではないのではないでしょうか。しかもミッドウェイ海戦は純粋な意味においては海戦とはいい難いものがあります。何故なら、ミッドウェイ海戦は実際には航空戦であり、いかにうまく航空兵力をさばくかがこの海戦の勝敗を分けたのであり、この海戦で4隻の大型空母を失った日本は、ビスマルク号よりも大型の大和級、長門級の超弩級戦艦を有していたにもかかわらず急速に下り坂になってしまったわけです。一方の陸戦ものの映画に関しては、現在でもたとえば「シン・レッド・ライン」であるとか「プライベート・ライアン」等の大作が製作されています。また、有名な戦争映画というとほとんどが陸戦ものばかりです。これは何故なのでしょう。まあ確かに海戦ものの映画は製作が困難なのかもしれません。たとえば、タイタニック号一隻くらいのレプリカをある程度の縮尺で作成することは出来ても、1個艦隊全てのレプリカを作成するなど不可能でしょう。そうするととり得る手段は、模型を使用するか本当の艦船を使用するかしかないでしょう(現在ならコンピューターグラフィックというのもありかもしれませんが、それでどこまで可能なのか私目にはよく分かりません)。噂に聞くところでは、くだんの映画「ミッドウェイ」はその戦闘シーンのいくつかを60年代の円谷プロ作品からいくばくか拝借しているということらしいのですが、カラーで模型を使用すればよけいに模型であることが目立ってしまうのですね。「トラ トラ トラ!」(1970)など明らかに「これ模型じゃん」と分かるシーンが戦闘シーンには多かったように思います。それから、本物の艦船を拝借するというのは少なくとも現在では不可能でしょうね。何故なら第二次世界大戦で使用された艦船の同型艦は今ごろは既に海の博物館かスクラップになっているはずだからです。まさか、複雑な形状をした原子力空母の「ニミッツ」を第二次大戦時のイギリス空母「アークロイヤル」でございというわけにはいかないでしょうし、それ以前に映画の撮影に使用させてくれるとも思えないところです。
さて本題に入りますが、この数少ない海戦もの映画の内で私目が素晴らしいと思う映画が2本あります。それは、「戦艦シュペー号の最後」(1956)とこの「ビスマルク号を撃沈せよ!」(1960)です。面白いことにこの2本ともイギリス映画であり、さすがはネルソン提督の国かという気がしますね(あまり関係ないか)。どちらも、イギリスの艦隊対ドイツの戦艦の戦いを描いた作品なのですが、その戦闘シーンといい手に汗握るドラマティックな展開といい素晴らしいものがあります。私目は陸戦ものの映画や潜水艦ものの映画よりもはるかに海戦ものの映画の方が好きなのですが、そういう意味においてこの2本は実に嬉しい2本なのですね。尤も海戦ものの方が好きである理由としては、物騒なのですが昔私目は軍艦マニアであったということもあるのかもしれません。軍艦というのは機能的な面が極限化されていて非常にスマートなので、純真な雷坊やのお気に入りだったのですね。そういうわけで私目の部屋には、「スクリーン」誌から切り取った当時大人気のゴールディ・ホーンのピンナップではなくて、こともあろうに雑誌「丸」(今もありますよね)から切り取った空母「エンタープライズ」(カーク船長の乗っているやつではありません念のため)の写真が貼ってありましたし、青島のウオーターラインシリーズ(懐かしい)等の軍艦のプラモデルを作っては、いつも部品があまって悩んでいました。またわざわざ横須賀に行って空母「ミッドウエー」を拝もうとしたら、いなかったなどという間抜けなこともありました。さて映画に戻りますが、「戦艦シュペー号の最後」は、ドイツのポケット戦艦(奇妙な言い方なのですが、ある程度船体自体及び大砲の口径を小さくしてスピード性能を向上させた戦艦で、大西洋上での商船ルート破壊が目的で製造されたドイツ独自の艦船カテゴリーであり、シュペーの他にも「ドイッチュラント」や「アドミラル・シェーア」といった艦船を持っていましたし、巡洋戦艦と呼ばれた「プリンツ・オイゲン」、「シャルンホルスト」、「グナイゼナウ」等も似たようなものでしょう)「グラーフ・シュペー」号がイギリスの巡洋艦隊に中立国ウルグアイのモンテビデオ港に追い込まれ最後は自沈してしまうストーリーで、「ビスマルク号を撃沈せよ!」は勿論ドイツの巨大戦艦「ビスマルク」号が前出の「プリンツ・オイゲン」号を伴ってバルト界から商船ハンティングの目的で大西洋へ進出しようとするのを、イギリスの「プリンス・オブ・ウエールズ」、「フッド」等の戦艦群が迎撃せんとするストーリーです。勿論史実通りなのですが、特にこの「ビスマルク号を撃沈せよ!」は、あちらでは映画ファンだけではなく軍事アナリストなどにも絶賛された一本だそうです。
ところで、同じ戦争ものでも陸戦ものの映画と海戦ものの映画では、明らかに焦点が異なってくるように思われます。陸戦もの映画というのは、大きくわけて3タイプくらいあるように思われます。1つは反戦的厭戦的メッセージが色濃く出る映画で、まだ見てはいないのですが、最近の映画にもそういう傾向があるのではないでしょうか。この理由は、陸戦というものがどうしても兵員を損耗させることが拠点奪取をする目的に対する大きな手段となるので、その戦闘シーンは血も涙もないような非人間的且つ凄絶なものになってしまうということがあるように思います。逆に言うと陸戦ものでも、北アフリカで行われた所謂砂漠の戦車戦を扱った映画等では、あまりこのカテゴリーに属する映画にはならないのですね。というのは、砂漠の戦いは、陸の戦いよりも海の戦いに近くなると言われているように、兵站補給上の問題からどちらかというとチェスのような戦略的な動きが重要になる知的なゲームのようになる傾向があり、それが映画にも反映される可能性が大きくなるからです。いわばインテリジェンスで優る側が戦場を支配するのであり、単なる量や残虐さが焦点になることはたとえば塹壕戦などに比べてそれ程ではなくなるからです。これ故に、あのチャーチルですら、敵の名将ロンメルを絶賛するわけです。それから2つ目は、陸戦ものにはそういう残虐な戦争の中で生れるヒロイズムを描く傾向があります。これは、実際に戦場の英雄であったオーディ・マーフィを起用した映画などがこの典型になるでしょうし、実話的ではないのですが「特攻大作戦」(1967)等もこの範疇に含まれるでしょう。それから3番目に巨大な資金を投じてエンターテインメントとして陸戦ものを製作する場合があって、典型的な例は「史上最大の作戦」(1962)や「遠すぎた橋」(1977)等で、映画の内容そのものよりも何人有名スターを見つけることが出来るかの方が重要になったりします(これはちょっと言い過ぎかな)。これに対して海戦ものの映画はちょっと違う傾向になるのですね。先に砂漠戦のところでちょっと述べましたが、同様にインテリジェンスに大きなウエイトがかかる海戦ものでは、映画自体の雰囲気も何かチェスマッチを見るような雰囲気があり、この「ビスマルク号を撃沈せよ!」でも、ビスマルク号を指揮するリュッチェンス提督は、いかにしてイギリス艦隊の索敵網をかい潜って大西洋に出られるか、またケネス・モア率いるイギリス海軍情報部はいかにしてそれを阻止することが出来るかといういわば知的勝負にまずは焦点が当たります。まあ戦争を題材にこういうことは述べるのは不謹慎かもしれませんが、こういう駆引きの面白さというのは、昔アバロンヒル社というシュミレーションゲームメーカー(今のようにパソコンが普及していたわけではなかったので紙製のゲームなのですが)のゲームにこれと同じ題材を扱ったゲームがあって、この映画と同じ状況でゲームをすることが出来ましたが、このゲームをしている時に感じたものと同様なのですね。何やら知的な好奇心を煽られるものがあります。それからそういう傾向があるので、勝負にたけた名将であれば、それが敵の将軍であれ賞賛されるというような、ヒロイズムとはまた違った昔流に言えば騎士道的なテーマも現れがちになります。「戦艦シュペー号の最後」にもその傾向があり、そもそもシュペー号の艦長には、イギリスの俳優の中でも最もイギリス的なピーター・フィンチが努めているという事実からしてもそういう傾向が見てとれます。これがもし残虐なSS部隊の将校であったらまずピーター・フィンチが起用されることはなかったでしょう。従ってこれら海戦ものの映画やロンメルを扱った映画(これもイギリスの名優ジェームズ・メイソンが演じていたりします)では、残虐なナチズムというようなテーマはあまり表面には出現してこないのですね。これが陸戦もののナチ憎しというような映画とは少しく異なるところです。
さて、そういうことは置いておいたとしても、この「ビスマルク号を撃沈せよ!」の戦闘シーンは、この時代の映画としては実に迫力があります。英国の戦艦「フッド」号が「ビスマルク」号の一斉射撃を浴びて轟沈するシーンは、それを見ていた僚艦のある乗組員が「信じられねえ」と叫ぶのですが、この映画を見ている私目も思わず「信じられねえ」と一人で呟いてしまいました(「あぶねーー!」)。こういう緊張感が映画全体にあって、あっという間に時間が過ぎてしまいます。しかしどうやって戦闘シーンを撮影したのか興味があります。白黒であるからかもしれませんが模型にしてはリアルだし・・・?いずれにしてもこの映画は、「戦艦シュペー号の最後」とは少し違ったところがあって、「ビスマルク」号及びそれを追いかけるイギリスの戦艦部隊が主人公であり、出演している俳優さんたちはどちらかというと二次的である面がありますが、この映画に関してはそれでいいような気がします。それ故ケネス・モアとビスマルク号を追いかける空母「アークロイヤル」号に乗ったその息子のサイドストーリーは特になくてもよかったような気もします(史実なら別かもしれませんが)。というわけで、海戦もの映画のファンは是非この映画を見ましょう(といってもそういう人はきっともう見ていることでしょうね)。

2000/11/25 by 雷小僧
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