Track of the Cat ★★★

1956 US
監督:ウイリアム・A・ウエルマン
出演:ロバート・ミッチャム、テレサ・ライト、タブ・ハンター、ダイアナ・リン
右:ロバート・ミッチャム

この「Track of the Cat」という作品は、今年初めて見ました。ロバート・ミッチャム、テレサ・ライト等が出演していながら日本劇場未公開の作品ですが、しかしながらこれは独特な雰囲気を持った作品であり、このような作品を発見できることが海外DVD買い漁りの醍醐味の1つと言えるでしょう。DVD音声解説によれば、あまりにも風変わりな作品なので、配給会社も何をポイントに宣伝すれば良いかが分からず西部劇というカテゴリの1つとして扱われたというようなことが述べられていますが、まあこの作品はとても西部劇とは言えないでしょうね。というのも極めて舞台劇的な印象の濃い作品であり、敢えて言えば「雨を降らす男」(1956)と似たような雰囲気があります。但し、「雨を降らす男」は、主演のバート・ランカスター演ずる山師のエネルギッシュなキャラクターが生命感溢れる印象を与えていたのに対し、こちらは雪に閉ざされた山間の農場が舞台であり、閉塞感と陰鬱感が際立っています。「Track of the Cat」というタイトルが示す通り、雪に閉ざされた山間の農場の近辺に出没する殺人猫(というかクーガとかパンサーとかそのような種類の猫でしょうが、うなり声はすれどこの殺人猫は画面上には一度も出現しません)をロバート・ミッチャム演ずる主人公が追うというのが1つのストーリーの流れとしてありますが、むしろそれよりもその間に農場内で発生するテレサ・ライト、タブ・ハンター、ダイアナ・リン及び老夫婦達による家族ドラマに主眼があるように思われます。すなわちこの作品では、ロバート・ミッチャムが主演であるとはいえ必ずしも彼にメインの焦点が置かれているわけではないということであり、それが1つ風変わりな要素でもあります。この作品の素晴らしさの一端はまたその独特な配色にあります。音声解説では、監督であるウイリアム・ウエルマンの息子が、ウエルマンはカラー映画の中で白黒映画的な配色を実現したいというようなことを言っていたことを回想していますが、まさにその通りなのですね。雪に閉ざされた山間の農場が舞台であるだけに、配色はほとんど白黒的であり、その中でロバート・ミッチャムが着ているコートの赤と、ダイアナ・リンが身に着けているマフラーの黄色が鮮明に際立つというような色構成になっています(その意味ではDVDの画像クオリティが極めて良好なことが大きなプラスになっています)。実はこの映画を見て最初に感心したことが、1954年製作であるにも関わらず視覚印象という観点のみから言えば極めて現在の映画に近いということでした。というのもカラー映画が当然になった現在では、不自然な程カラフルな色調を強調することはまずなく、むしろニュートラルであるか或いはほとんど白黒映画に近い色調が選択されることがしばしばあるからです。最も極端な例としては、スピルバーグの「マイノリティ・リポート」(2002)を挙げることができます。これに対して「Track of the Cat」が製作された1950年代前半とは、「タイトル別に見る戦後30年間の米英映画の変遷」の「本格的なカラー映画時代の到来 《キング・ソロモン》」でも書いたように、エキゾチックな舞台を利用してカラー効果を最大限に利用するのが普通であるような時代であったわけです。つまり、「Track of the Cat」という作品におけるビジュアルイメージが、いかに先駆的なものであったかが分かるのではないでしょうか。いずれにせよ、この作品は異様とも言えるような独自な雰囲気を持った作品であり、その意味では同じくロバート・ミッチャムがこの作品の次に主演した「狩人の夜」(1955)にも勝るとも劣らぬクオリティを持っており、最初に見てからまだ2ヶ月も経っていないにもかかわらず、私めの頭の中にあるお気に入り作品リストの上位に早くも食い込んでいます。


2006/09/10 by Hiroshi Iruma
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