It Should Happen to You ★★☆

1954 US
監督:ジョージ・キューカー
出演:ジュディ・ホリデイ、ピーター・ローフォード、ジャック・レモン、マイケル・オシア

左:ジュディ・ホリデイ、右:ジャック・レモン

個人的に好みの女優さんであるジュディ・ホリデイが主演している作品です。彼女については「Bells Are Ringing」(1960)のレビューを参考にして頂くこととして、「It Should Happen to You」は、ストーリーのアイデアがなかなか秀逸な作品であることをまず述べておきましょう。田舎娘のグラディス(ジュディ・ホリデイ)が、なけなしの所持金をはたいてニューヨークの中心街にあるサインボードを借り切り、それで一体何をするかというと、「Gladys Glover」という自分の名前をでかでかと描くのです。究極の売名行為であるように見えるかもしれませんが、実は彼女の行為には、自分の名前を世間に売って評判を得ようとする資本主義的な宣伝意図は全く含まれていないのです。それにも関わらず、やがてGladys Gloverとは一体誰かという話題でニューヨーク中が持ち切りになります。かくして彼女が意図せずして一躍スターになり有名になる一方で、有名になる前の彼女を見染めた恋人(ジャック・レモン)は次第に彼女から遠ざかり、また彼女自身、マスメディアの不誠実に嫌気がさし始めますが、最後はいかにも彼女らしく名声よりも恋人を選択して大団円を迎えます。結末については、当時の映画として予想通りである印象は拭えないとはいえ、全体的には、とにかくジュディ・ホリデイの純朴なパーソナリティが巧みに活かされ、独自のほのぼのとした趣を持つ作品に仕上がっています。大袈裟にいえば、ジュディ・ホリデイだからこそ、Gladys Gloverという非現実的なほどに純なキャラクターをそれなりの説得力を持って演じられたとも考えられます。たとえば、これがマリリン・モンローであれば、ニューヨークのど真ん中にあるサインボードに自分の名前をでかでかと描くくだりなどは、いかにもありそうな売名行為であるように感じられ、洒落を通り越して嫌味になる恐れがあるかもしれません。それに対してジュディ・ホリデイの場合は、彼女の持つ天性の純朴さが、そのような行為をも無邪気で自然であるように見せてしまうのです。「It Should Happen to You」には、マスメディア批判的な側面も読み取れますが、ジュディ・ホリデイが演じている主人公に関していえば、シニカルなところも嫌味なところもなく全てが自然に見えるほどなのです。ある意味で、これ程裏がなさそうに見えるパーソナリティは天然記念物並みであるともいえ、まさにジュディ・ホリデイの為のジュディ・ホリデイの映画であると評しても大きな間違いはないはずです。また、「It Should Happen to You」は、先年亡くなったジャック・レモンのデビュー作でもあり、デビュー作であるにもかかわらず、巨匠キューカーの監督する作品でジュディ・ホリデイ演ずる主人公の次に重要な役を演じているのはさすがです。尚、ジョーン・ベネットの姉であるコンスタンス・ベネットが、作品中のTV番組の中で1シーンのみ登場します。


2002/01/06 by 雷小僧
(2008/12/31 revised by Hiroshi Iruma)
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