Whatever Happened to Aunt Alice? ★☆☆

1969 US
監督:リー・H・カツィン
出演:ジェラルディン・ペイジ、ルース・ゴードン、ローズマリー・フォーサイス、ロバート・フラー

左:ジェラルディン・ペイジ、右:ルース・ゴードン

山奥の満開に咲いた桜の木の下には一体何が埋まっているのかというような梶井基次郎か誰かの有名な小説がありましたが、この作品は何故荒れ果てた原野にポツンと建つ屋敷の庭に元気よく松の木が育っているのかというストーリーなのです。ヒントは、その屋敷にはジェラルディン・ペイジ演ずる未亡人が住んでいるということですが、ずばり解答は彼女が年老いたお手伝いを雇っては、所持金を奪う為に殺して屋敷の庭に埋め、その上に松を植えていたというわけです。4本の松の木がそれぞれの高さまで成長している様子(すなわち最も早い頃に埋められた死体の上で育った松の木が一番育っているわけです)が何とも無気味ですね。桜や松ではないのですが、ソフィア・ローレンが主演した「ひまわり」(1970)でひまわりが満開に咲いているシーンがありましたが、あれも私目にはビューティフルであるというよりも無気味な印象があります。そもそもひまわりという植物は人間の顔のようなイメージがあり、しかも「ひまわり」の舞台は東部戦線であったわけであり、すなわちあのひまわりの下には累々と横たわる・・・・というわけです。いずれにしても木を始めとした植物(vegetation)の存在には生命や輪廻及びそれに伴う変容或いは死と関連したシンボリックなコノテーションがあることは明白であり、たとえば宗教学者のミルチャ・エリアーデの書物などを読んでいるとそれが良く分かります。たとえば北欧神話であったか「Yggdrasil」といういわば世界樹の神話がありましたが(イグドラジルのように発音するはずであり、余談になりますがIT業界に属する人はこの名前を冠したXMLデータベース製品があることはご存知であると思います。XMLのツリー構造とそれの利用によるシステムの発展という意味合いを神話の世界樹「Yggdrasil」にかけた見事な命名であると言えますが、いかんせん「Yggdrasil」の本当の意味合いを知っている人は多くはないでしょうね)、これは大地に深く根差した生命の木を象徴しているわけであり、少なくとも神話の世界では樹木の形象と生命の繁栄とは切っても切れない関係にあったということを意味しています。また昔日立のTVコマーシャルの中で、「このー木何の木気になる木・・・」というようなコマーシャルソングとともにバオバブか何かの大木が写し出されるシーンがありましたが、TVコマーシャルのようないかにも世俗的な次元でも巨大な木がいわば(企業グループとしての)生命の発展の象徴として扱われているわけであり、本質的な側面においてこれも神話の世界樹「Yggdrasil」と軌を一にしていると言えるでしょう。というわけで、「Whatever Happened to Aunt Alice?」でもある意味でこの生命の形象が松の木として表現されていると言っても良いかもしれません(すなわち殺されたお手伝い達の生命の形象が松の木として蘇って(変容して)いるわけであり、またそれが周囲の人々の疑念を招くわけです)。この作品はロバート・アルドリッチがプロデュースしたとはいえ(監督はカルト的な作品「バニシング・ポイント」(1971)を撮ったリー・H・カツィンです)、どちらかというとB級作品ではありますが、その辺の扱いがなかなか興味深いところであり、単なるパルプ作品には終っていないと言えるでしょう。それからこの映画を単なるパルプにしていない他の要因として、ジェラルディン・ペイジの存在を挙げることが出来るでしょう。精神構造が異常に縺れた人物を演ずると彼女はピカイチであり、それはこの作品でも或いは今回レビューしたもう1つの作品「白い肌の異常な夜」(1971)でも良く分かるのではないかと思われます。最後に付け加えておきますと、主人公のジェラルディン・ペイジは旦那が借金しか遺さなかったと嘆いているのですが、実は高価な切手コレクションが遺産目録に含まれることに彼女が気が付いていなかっただけであるということに最後の最後に気が付きます(すなわち彼女を嫌っていた旦那がわざわざ彼女に分からないような形で大金を遺していたということです)。「切手、大金、遺産」という組合わせは以前どこかで聞いたような話であるなと思っていると思い出しました。これはひょっとして「シャレード」(1963)のパクリなのではないでしょうか。


2004/03/06 by 雷小僧
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