北極の基地 潜航大作戦 ★☆☆
(Ice Station Zebra)

1968 US
監督:ジョン・スタージェス
出演:ロック・ハドソン、アーネスト・ボーグナイン、パトリック・マクグーハン、ジム・ブラウン

左:ロック・ハドソン、中:パトリック・マクグーハン、右:アーネスト・ボーグナイン

アリステア・マクリーンの海洋冒険小説の映画化ですが、昨日お隣りのシネコンで見た「アビエイター」(2004)の主人公で、変人の誉れ高い億万長者ハワード・ヒューズのお気に入り映画だったという噂さがあることで有名です。それにしても、ここまで野郎ばかりが登場する映画も珍しく、女性の姿は、冒頭の飲み屋のおかみさんと通行人のアベックの一人として一瞬見られるだけで、そもそも彼女達にはセリフすらありません。一般には、戦争映画といえども、大概どこかで女性が登場するのが普通ですが、この作品にはそれすらなく、完璧な硬派の作品と見なせます。また、ロック・ハドソン主演にも関わらず、作品に派手さが全くなく、エンターテインメント性抜群の作品「大脱走」(1963)を手掛けたジョン・スタージェスが監督したとは俄かに信じ難いほどです。北極の氷の下を潜航していた潜水艦が強引に浮上して、ゴンゴン音を立てながら氷に穴をあけて海面に出ようとするシーンは、「もう少しカッコよくてもいいんじゃないの」と言いたくなるほど野暮ったく見えます。そのような地味さや野暮ったさの故か、「北極の基地 潜航大作戦」には全篇に一種異様な暗いムードが漂っていて、嫁さんのジーン・ピータースですらほとんど見掛けたことがなかったほどに当時既に完全な世捨て人と化していたハワード・ヒューズが気に入っていたという噂にも頷けるような気がします。前半は、潜水艦内に舞台が設定されている為、圧迫されるような雰囲気があり、後半は、北極に舞台が設定されている為、荒涼としたイメージがあります。同時に「北極の基地 潜航大作戦」は、60年代に数多く製作されていた東西冷戦を題材とした作品の1つでもあり、基本的にはアリステア・マクリーンの冒険小説が原作のアクション映画であるとはいえ、政治的なコノテーションもそれなりに含まれています。アメリカの潜水艦長(ロック・ハドソン)とソビエトの落下傘部隊長(アルフ・クジェリン)が対峙するクライマックスシーンは、60年代初頭のキューバミサイル危機の縮図であると見なせるかもしれません。また、全篇に渡ってバックに流されているミシェル・ルグランの単調ではあるけれども印象的な音楽が実に効果的であり、間違いなく彼の音楽は作品の持つ独特なムードの醸成に寄与すること大です。キャストに関してコメントすると、アルフ・クジェリンのロシア人は良いとしても、アーネスト・ボーグナインのロシアのスパイとはどうにも「???」であり、明らかにミスキャストでしょう。ロック・ハドソンには、いつものハイカラなイメージがなく、ジョン・フランケンハイマーの「セコンド」(1966)での彼ほどではないとしても、60年代前半までの彼のイメージとは全く異なります。またキャラクターアクターのパトリック・マクグーハンが相変わらず独自の存在感を醸し出しており、彼の持つ独特なスピーチパターンのファンである小生には嬉しい限りです。ということで、ハワード・ヒューズのお気に入りだったことでもあり、この作品を見れば億万長者の気分を味わえるか、そうでなければ変人の気分を味わえることでしょう(多分後者でしょうね)。


2005/04/10 by 雷小僧
(2008/11/07 revised by Hiroshi Iruma)
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