風と共に散る ★★☆
(Written on the Wind)

1956 US
監督:ダグラス・サーク
出演:ロック・ハドソン、ロバート・スタック、ローレン・バコールドロシー・マローン
左:ロック・ハドソン、右:ドロシー・マローン

50年代メロドラマの巨匠ダグラス・サークの手になるメロドラマの1つです。石油王の放蕩息子(ロバート・スタック)がモラル的な破局、そして自らの生命の破局に向かって突き進むという内容を持つ作品であり、自らの周囲に圧倒的なモラル上の不均衡を作り出し、自らそれと葛藤せざるを得なくなった人物を主人公としています。このようなテーマはサークが得意とするところであり、彼の特徴が最もよく出た作品の1つであるように思われます。この映画に関してまず指摘しておきたい点の1つが、内容もさることながら撮影の素晴らしさです。50年代半ばに撮られた作品であるとは思えないような、ビビッドさとリアルさが伝わってきます。また堅実なパフォーマンスを見せてくれる主演4人の中でも、個人的に最も気に入っているのが、主人公のニンフォマニアックな妹を演じているドロシー・マローンであり、彼女はこの映画でアカデミー助演女優賞を受賞しています。ドロシー・マローンと云えば、かつてホークスのあの「三つ数えろ」(1946)で、ボギーにだらしなくハローと言わせた張本人ですが、お目々が実に魅力的な人です。また、彼女の紹介記事にも書きましたが、何故か彼女は始終顔のどこか一部を動かしていて、たとえば何もしゃべっていないのに口を閉じたり開いたりしています。これは、この作品に限ったことではなく、彼女のパフォーマンススタイルそのものであり、そのような思わせぶりな所作が妙にニンフォマニアックな印象を与えます。それは、映画のタイプによっては、まかり間違うとポルノ的にすら見えかねない程です。けれども、この作品では、放蕩息子の放蕩妹という役柄にまさにピタリと嵌っていて、オスカーすら受賞してしまうのが彼女のスゴイところなのです。このような危ない橋を渡っているようにも見えるややアブナイ雰囲気を持った女優さんは、ちょっと他にはいないでしょう。また、ロック・ハドソンがこの作品では、いつもと違って不必要なまでに前面にしゃしゃり出てこないところがいいですね。ロバート・スタックとロック・ハドソンを比較した場合、役者的知名度や格から言えば後者の方が遥かに上であり、下手をすると彼の映画になり兼ねないところがあります。この作品はロバート・スタックが演じる人物の方にメインの焦点があることを考えてみれば、もしハドソンに主導権を握られてしまえば作品が台無しになっていたことは間違いありません。裏を返せば、ロック・ハドソンのファンには、その点大きな不満が残るかもしれませんが、この作品はそもそもロック・ハドソンやロバート・スタックの作品であるというよりもサークの作品なのです。事実サークは、「悲しみは空の彼方」(1959)等の晩年の監督作品では、これまで何度も起用してきたロック・ハドソンに似てはいるけれども、有名になり過ぎた彼よりも遥かにカリスマ性のないジョン・ギャビンを起用しています。恐らくこれは、サークが、ハドソンを起用すると最早ダグラス・サークの作品ではなくロック・ハドソンの作品になってしまうことを恐れたためかもしれません。というわけで、サーク作品は近年再評価されつつある傾向にもあり、彼の代表作というわけではないかもしれませんが、機会があれば是非一度は見て下さい。


2001/06/23 by 雷小僧
(2008/10/08 revised by Hiroshi Iruma)
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