テラー博士の恐怖 ★☆☆
(Dr. Terror's House of Horrors)

1965 UK
監督:フレディ・フランシス
出演:ピーター・カッシング、クリストファー・リー、ドナルド・サザーランド、ジェレミー・ケンプ

左:クリストファー・リー、右:ピーター・カッシング

オムニバスホラー映画のはしり的な作品で、いくつかの短いホラーストーリーから構成されます。但し、完全なオムニバス映画とは異なり、それぞれのストーリーが全く独立しているわけではなく、全体を包括するメタストーリーの中に各ショートストーリーが組み込まれる構成が取られ、監督のフレディ・フランシスはこの手の作品をこの後も数多く手掛けています。このタイプの作品が持つ一番の問題点は、どうしても各ストーリーの出来具合にばらつきが生じ易いことであり、ここに取り上げる「テラー博士の恐怖」もその謗りを免れません。地獄の使者テラー博士(ピーター・カッシング)が、同じ汽車に乗り合わせた5人の乗客に、タロットカードを用いて彼らの未来の(死の)予言をするパート(上掲画像でピーター・カッシングが手にしているのはタロットの死のカードです)がメタストーリーを構成し、5人それぞれに対する予言の内容が個別のショートストーリーとして語られます。5つのショートストーリーの題材は、それぞれウェアウルフ、殺人植物、ヴードゥー、死んだ芸術家の手の復讐、バンパイアですが、ウェアウルフとヴードゥーに関するストーリーはそこそこ、殺人植物ストーリーは「え!これでおしまい?」という印象を個人的には受けます。それに対して、クリストファー・リーが出演する、自殺した芸術家の手が執拗に彼を追いかける不気味なストーリーと、ドナルド・サザーランドが出演する、女ドラキュラに関するストーリーは気に入っています。正直いえば、この手の作品ではロイ・ウォード・ベイカーの「アサイラム」(1962)が一番気に入っており、それに比べるとこの作品はかなり出来が落ちるように思われ、またフレディ・フランシス自身の他の同系統の作品「残酷の沼」(1967)、「魔界からの招待状」(1971)、「異界への扉」(1973)等)に比べても、そちらの方がやや面白いように感じられます。ただ、このあたりの評価は明らかに個人によっても異なるはずであり、是非自分の目で確かめて下さい。また、「テラー博士の恐怖」の場合、ピーター・カッシング、クリストファー・リーというホラー映画の大御所二人を除くと、登場する俳優さん達がややマイナー過ぎるきらいがあります。確かにドナルド・サザーランドは今日ではビッグネームであるとはいえ、当時はほとんど無名であり、ある程度知られていたそれ以外の俳優さんとしては、ジェレミー・ケンプとバーナード・リーが挙げられるくらいです。出演俳優の知名度など映画の質にそれ程関係ないではないかと思われるかもしれませんが、この手の映画では、各ストーリーが極めて短いだけに、どうしても各キャラクターのパーソナリティが十分に確立されない内にあっという間にエピソードが終わってしまうので、あまり馴染みのない俳優さんばかりが出演していると、少なくとも一度見ただけではストーリーに乗れない内に次のエピソードに移ってしまう印象をオーディエンスに与えざるを得ず、それによって各エピソードのユニークさが十分に伝わらないことにもなり兼ねないのです。その点、殊に「アサイラム」などは、知名度の高い特色のある俳優さんが各エピソードに配置されている為、各エピソードの性格がより明瞭であるように感じられます。たとえば、ハーバート・ロムのエピソードなど典型的に彼のパーソナリティがうまく生かされています。「テラー博士の恐怖」よりも「アサイラム」の方を個人的に気に入っているのも、そこに大きな理由があるのかもしれません。とはいえ、いずれにしても「テラー博士の恐怖」は、このタイプの作品としてはかなり初期のものであり、公開当初はそれなりの新奇性があったはずであり、また汽車に乗り合わせた見知らぬ乗客達が次第にテラー博士の手中に嵌まっていくメタストーリーの部分の馴染み易さ(「アサイラム」などは、逆にメタストーリーの部分に工夫が欲しいところです)を考慮すると、この手のホラーオムニバスの入門編としては丁度良い作品であると評価できます。


2002/12/14 by 雷小僧
(2008/10/29 revised by Hiroshi Iruma)
ホーム:http://www.asahi-net.or.jp/~hj7h-tkhs/jap_actress.htm
メール::hj7h-tkhs@asahi-net.or.jp