白鳥 ★☆☆
(The Swan)

1956 US
監督:チャールズ・ビダー
出演:グレース・ケリー、アレック・ギネス、ルイ・ジュールダン、ジェシー・ロイス・ランディス

左:アレック・ギネス、右:グレース・ケリー

「醜いアヒルの子は、大人になるとビューティフルなビューティフルな白鳥さんになりました」などという童話がありましたが、「白鳥」では、「白鳥さん」とはお歌も歌えずお空も飛べず小さな小さなお池の中で世間知らずで暮らしていましたということになるのです。かくして、この世間知らずの白鳥さんを演じているのが、「上流社会」(1956)と共にこの作品が文字通りスワン・ソングとなるグレース・ケリーです。正直云えば、ストーリー自体は誠に他愛なく、王子(アレック・ギネス)が落ち目の貴族の家を訪問した折に、その落ち目の一家の長(ジェシー・ロイス・ランディス)が、自分の娘(グレース・ケリー)を何とかこの王子と結婚させようとするにもかかわらず、世間知らずの娘が王子となかなかアツアツにならないので業を煮やし、好きでもない輩と仲良くして本命馬に嫉妬を抱かせようとする世間によくあるチープなトリックを無理矢理自分の娘に実行させたところ、当て馬(ルイ・ジュールダン)の方が彼女に本気になってしまうという、少女漫画にでもありそうなストーリーが展開されます。また、全体の流れが極めてスローである為に、展開の速いアクション映画を見慣れた現代のオーディエンスの目には必ずやだるく感じられるであろうと思われる作品でもあり、コメディとして言及されることもあるとはいえ、コメディとしては余りにも熱が感じられないというのが正直なところです。けれども、勿論ここに取り上げたからにはそれなりに良い面もあり、その筆頭に挙げられるのが紫及び茶色を基調としたインテリアが醸し出す色調が極めて印象的である点です。カラー映画が完全には普及していなかった当時にあって、まさにカラーがまだまだ一般的ではなかったが故に、逆に色彩に対する感覚が極めて鋭敏な作品があり、典型的な例としてはビンセント・ミネリの作品が挙げられますが(この点に関しては「暗黒街の女」(1958)のレビューを参照して下さい)、ミネリ作品ではないとはいえ「白鳥」もそのような作品中の一本として数えられます。いずれにしても、カラーコーディネーションに対する配慮が細部に至るまで行き届いていることがよく分かる作品です。撮影機材が進化しリアルな画像を撮ることが可能になった現代の映画に対して逆説的にも全く感じられなくなってしまった要素の1つが色彩に対する鋭敏さであることが、対照的な仕方でよく理解出来るとすら云えます。ところで、偶然か否かは別として、ご存知のように「白鳥」撮影終了直後、グレース・ケリーはモナコ王妃になります。何やら、この作品の続きを、映画の中ではなく実生活で演じたかのような気配があって実に興味深々たるものがあります。そのように考えてみると、「クール・ビューティ」とも称された彼女は、いわばハリウッドの白鳥さんだったと云えるかもしれません。主役二人(グレース・ケリー、アレック・ギネス)は別格としても、配役がなかなか面白く、三角関係の一角を担うルイ・ジュールダンはこの手の役柄にはパーフェクトにマッチし、落ち目の貴族の家長で且つおせっかいな母親を演ずるジェシー・ロイス・ランディスも役柄にピタリと嵌まっています。ジェシー・ロイス・ランディスの母親、グレース・ケリーの娘と云えば、かのヒッチコックの「泥棒貴族」(1955)を思い出すファンも多いのではないでしょうか。更にアグネス・ムアヘッドやエステラ・ウインウッド等の個性派女優が出演していて、ともするとだれがちなストーリー展開を要所要所でスパイスアップしています。ということで現在の視点から見ると熱のない一本調子な印象が拭いきれない作品であるとはいえ、裏を返せば現在程アドレナリン効果が重視されていたわけではない当時としてはそれがプラス要因であったのかもしれません。また、その代わりとして当時の映画には会話や色彩などに細かな配慮が払われていたことが分かる作品でもあります。


2002/03/09 by 雷小僧
(2008/10/09 revised by Hiroshi Iruma)
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