暗黒街の女 ★★★
(Party Girl)

1958 US
監督:ニコラス・レイ
出演:ロバート・テイラー、シド・チャリース、リー・J・コッブ、ジョン・アイアランド

左:ロバート・テイラー、中:ジョン・アイアランド、右:シド・チャリース

海の向こうには、この作品のカルト的ファンがかなりいるそうです。とにかく絢爛豪華なカラー絵巻が実に素晴らしく、ファンが少なからずいることも十分に納得できます。50年代はカラー映画が当り前ではなかった頃であり、それが故かカラーに対する感覚が鋭敏に研ぎ澄まされていた時代であったように思われます。その代表格がビンセント・ミネリの監督作品ですが、ミネリの作品は別の機会に何度か取上げていることもあり、カラー感覚に優れた作品例として、今回は「白鳥」(1956)と、この「暗黒街の女」を取上げてみました。つらつらと考えてみると、50年代当時のカラーに対する感覚がナチュラルな色彩に対して鋭敏であったというわけでは必ずしもなく、大袈裟に云えば、人工的にセットアップされた豪華なカラーの持つ効果を最大限に利用して、目にも鮮やかな画像をオーディエンスにこれでもかと見せ付ける手法が当時は取られていたというのが真相であるように思われます。たとえば、衣装やインテリアの細部に至るまでのカラーコーディネーションに執拗に気を遣ったり、ド派手な原色をわざわざ多用したりという具合にです。ビンセント・ミネリが赤を基調としたインテリアを強調するように、「白鳥」では紫が、「暗黒街の女」では黄金色に近い黄色が、色彩のライトモチーフとして多用されています。また、「暗黒街の女」では、シド・チャリースが踊るシーンで、相当にどぎついピンクが使用されていたりします。これに対して撮影機材が発達した現在においては、色彩に関して人工的に手を加えると、わざとらしさが返って目立ってしまう結果になるのか、ほとんど色彩に注意が払われることがないように思われ、カラーコーディネーションですらそれ程留意されていないようです。恐らく、細部のリアルな情報までもいとも簡単に拾い上げてしまう解像度の高い最新機材では、色彩を意図的に映像空間に配置してしまうと、人工的に手が加えられた色彩配置をモロにリアルに拾い上げ、人工性ばかりが際立ってリアルさが消し飛んでしまうからかもしれません。ほとんど白黒にさえ見える暗い画面の最近の映画を見ていると、色彩が映像に取り込まれるのが恐れられているかのようにすら思えてしまいます。そのようなわけで、最近の映画の中に、かつて50年代のカラー映画が誇っていたような色彩に対する鋭敏な感覚を見出すのは極めて困難であり、何やら物足りなさを覚えてしまうのは小生だけでしょうか。これは、製作者側の色に対する感性が鈍磨してしまったというよりも、前述したようにむしろテクノロジーの発展によってそうならざるを得なくなってしまったと考えるべきかもしれません。情報が稠密過ぎると、想像力が入り込む余地がそれだけ限定されるというテーゼは、どんな分野でも真なのかもしれません。但し、昔に比べて現代の方が遥かに素晴らしい点は、そのような色彩感覚に溢れた過去の作品を、高解像度のDVDで好きな時に簡単に見られることであり、それを可能にしたテクノロジーの進歩には感謝せねばならないのは勿論のことでしょう。さて、次に簡単に作品内容に触れておきましょう。「暗黒街の女」では、暗黒街の顔役(リー・J・コッブ)に雇われた顧問弁護士(ロバート・テイラー)が、豪華なナイトクラブのダンサー(シド・チャリース)を見初め、暗黒街に関係することから足を洗おうとしますが、そうは問屋がおろさないのが世の常であり、リー・J・コッブやジョン・アイアランド演ずるいかつい顔をしたワル達がそうはさせじと二人の間に割って入るというストーリーが展開されます。ストーリー的によくあるパターンであると言われれば、否定は全くできないところでしょう。しかしながら、絢爛豪華なカラーをメインとしたスタリッシュな映像ハンドリングが実に見事であり、ギャング映画であることとスタイリッシュであることにおいては、カラー版のフィルム・ノワール映画といった趣があり、他の陳腐なこの手のギャング映画とは明らかに一線を画しています。シド・チャリースは、ダンサーだけあってミュージカル出演が多く、実際に役者というよりもダンサーのイメージの方が色濃い女優さんですが、「暗黒街の女」では、ショーガールを演じていることもあり彼女が踊るダンスシーンも勿論いくつかあるとはいえ、ミュージカルに出演している時よりは遥かに役者らしい本格的な役をこなしています。ということで、このタイトルは色彩のゴージャスさを堪能する為に、是非早急にDVD化して欲しい作品ですと最後に付け加えておきます。


2002/03/09 by 雷小僧
(2008/10/09 revised by Hiroshi Iruma)
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