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個人的には普段好んでミュージカル映画を見ることはありませんが、例外の１つとしてこの作品が挙げられます。なぜかというと、冗談ではなくタイトルが気に入っているからです。「努力しないで出世する方法」（原題も同様）とは、スペクターの首領のように地球を制服しようなどという大それた野望を抱いてはいない一般人がいつも心の片隅に抱いている小さな小さな野望を表しているようでもあり、片や「そんなことを考えているようでは大した人物にはなれないぞ」などと思いながらも、「それでもやっぱり努力しないで出世出来る方法があるなら、是非ともご伝授願いたい」と思わせる卑屈でアンビバレントな感情を心の中に呼び起こします。ビル掃除員（ロバート・モース）が、「努力しないで出世する方法」というハウツーものペーパーバックを手に入れ、あっという間に大会社の社長になるという有得ないストーリーが展開され、このような都合の良いストーリーは地球制服のような大それた野望など抱いたことのない小生には、心の底では「こんなことではいかん」などと思いつつも、ピタリと嵌まってしまうのです。それは別としても、「努力しないで出世する方法」は、ゴージャスなカラーが目を惹きます。ミュージカルというジャンルは、見て楽しくエンターテイニングでなければならないと思っていますが、「努力しないで出世する方法」では、そのようなエンターテインメント性が歌やゴージャスな衣装／インテリアを通じてうまく醸成され、それが奇抜なストーリー展開とも見事にマッチしているのです。その意味では、「努力しないで出世する方法」というテーマそのものが既にエンターテイニングです。主演のロバート・モースはまさに怪優といえる俳優さんであり、「努力しないで出世する方法」でも彼ならではの怪演でオーディエンスを楽しませてくれます。ロバート・モースの相手を務めているのはミシェル・リーで、あまり派手な女優さんではありませんが、「Variety Movie Guide」の表現を借りれば、ドリス・デイを映画スターにしたと同じタイプのフレッシュさとチャームを振りまいています。それから、似非マリリン・モンロー的な、というよりもむしろ似非ジェーン・マンスフィールド的なチャームを振りまいているモーリン・アーサー（上掲画像参照）も見所の１つかもしれません。