先生のお気に入り ★★★
(Teacher's Pet)

1958 US
監督:ジョージ・シートン
出演:クラーク・ゲーブル、ドリス・デイ、ギグ・ヤング、マミー・ヴァン・ドーレン

左:ドリス・デイ、右:クラーク・ゲーブル

「先生のお気に入り」という邦題が付けられていますが、実は小生のお気に入りでもあります。そのようなわけで、この4月にあちらでDVDが発売された折には亥の一番で購入しました。クラーク・ゲーブルとドリス・デイのロマンティック・コメディで、ハリウッドのキングと呼ばれた伝統的な大スターとニュータイプのスターの共演は殊に興味深く、ややミスマッチにも見える両者が、ストーリーの流れに自然にマッチしているところが大いに見ものです。というのも、両者が演ずるキャラクター間のミスマッチが作品のポイントの1つでもあるからです。クラーク・ゲーブルが、ハイスクールすら卒業していないことが自慢でもあるたたき上げの新聞記者を演じているのに対し、ドリス・デイの方は、有名な新聞王の娘であると同時に大学(?)教授でもあるというように、典型的なインテリを演じています。このような両者のミスマッチを巧妙に活かしたストーリーが楽しくまた明快であり、ドリス・デイ主演のロマンティック・コメディとしては、ロック・ハドソンやケーリー・グラントと共演したものよりも個人的には興味をそそられます。というのも、ロック・ハドソンの場合は、勿論ニュータイプではないながらも、必ずしもクラーク・ゲーブルのような伝統的古典的なタイプのスターとは言えないところがあり、ドリス・デイとの対比という面で捉えるとゲーブルとのそれよりも明快ではないところがあり、ケーリー・グラントの場合は、殊に1950年代以後の彼はイメージが余りにも固定し過ぎていて、お相手の女優さんが誰であろうとあまり関係がないところがあり、ケーリー・グラントの作品として見れば面白くとも、それを越えたところで面白いか否かが問われると疑問符が付かざるを得ない作品も多いからです。ところが、クラーク・ゲーブルは、ドリス・デイとの新旧の対比がはっきりくっきりしているとはいえ、同年製作の「深く静かに潜航せよ」(1958)を見れば分かるように、同じ大スターではあってもケーリー・グラント程ステレオタイプ化されたキャラクターを必ずしも演じていたわけではありませんでした。ロマンティック・コメディにおいては、男女の登場人物間のキャラクターのギャップをコメディのネタにしているケースが多いわけですが、それが古いタイプの役者クラーク・ゲーブルと新しいタイプの役者ドリス・デイの間のインタラクションを通して極めて明快に示されています。また、ドリス・デイとロック・ハドソンのロマンティック・コメディであればトニー・ランダールが演じていた役を、この作品ではギグ・ヤングが演じており、彼が演ずる知的スノッブキャラクターが実に愉快です。ギグ・ヤングのユニークさについては「愛のトンネル」(1958)のレビューでも述べたのでそちらも参考にして下さい。俳優以外に関する興味として、新聞社が舞台である点が挙げられます。「先生のお気に入り」が製作された1950年代の後半は、まさにこれからテレビが本格化せんとしていた頃でもあり、テレビという新たなメディアの出現に対して「従来のメディア」がどう対処すべきかが1つの大きなテーマでもあった頃です。かくして窮地に立たされていた「従来のメディア」の1つとして、「映画」と共に「新聞」が挙げられます。何しろ即時性が要求されるニュース配信に関しては、新聞はとてもテレビに敵うはずがないのです。これから新聞メディアにおいて重要になる要素は「Why」の探求であるというご託宣が作品中何度もドリス・デイ演ずる主人公の口から語られ、ロマンティック・コメディのセリフとしては随分と奇矯であるように思われても何ら不思議もありませんが、そうしてみると、それは実は当時の時代的な背景の反映であったことが理解できます。新興のメディアであるテレビに圧迫されていたのは、前述の通り「映画」も同様であり、そのような言及がしばしば「先生のお気に入り」という「映画」の中でなされている理由が分かるようにも思われます。映画は、文化史の証人でもあるということです。ということで、「先生のお気に入り」は、1950年代以後のロマンティック・コメディの中ではベストの中の一本であると評価できます。


2005/06/04 by 雷小僧
(2008/10/11 revised by Hiroshi Iruma)
ホーム:http://www.asahi-net.or.jp/~hj7h-tkhs/jap_actress.htm
メール::hj7h-tkhs@asahi-net.or.jp