三銃士 ★★☆
(The Three Musketeers)

1974 US
監督:リチャード・レスター
出演:マイケル・ヨーク、オリバー・リード、フェイ・ダナウエイラクエル・ウエルチ

左から:オリバー・リード、フランク・フィンレイ、リチャード・チェンバレン
マイケル・ヨーク、ロイ・キニア

「三銃士」といえば、勿論アレクサンドル・デュマの長編小説のことですが、実は去年苦労してこの大作を原文のフランス語で読みました。文芸作品(とはいえデュマの作品は基本的に大衆小説ですが)の映画化を見て例外なく思うのは、どうしても原作のダイジェスト版を見ているような印象を受けざるを得ないことであり、それは「三銃士」にも同様に当て嵌まります。しかしながら、少なくともここに取り上げるリチャード・レスターバージョンに関して言えば、原作とは違ってユーモアで味付けされている面があり、単なる原作の焼き直しではないように見せる工夫が施されています。また、原作では、謎の男として登場し、ほとんど前面には出てこない宰相リシェリュー(チャールトン・ヘストン)の手下ロシュフォール公爵(クリストファー・リー)が、映画では主人公のダルタニアン(マイケル・ヨーク)と三銃士の最大の敵役として登場し、のみならず続編「四銃士」のクライマックスシーンではダルタニアンとロシュフォール公爵の派手なチャンバラ劇が見られるのに対して、原作ではダルタニアンとロシュフォール公爵があいまみえるシーンはほとんどなく、その上最後に二人は和解します。すなわち、原作では映画化のように必ずしもアクションシーンに主眼が置かれているわけではありません。その上、原作におけるダルタニアンと三銃士の最大の敵は、実は映画化ではフェイ・ダナウエイが演じているミレディであり、この事実からも推察されるように、映画化とは違って原作では、フィジカルなパワーがものをいうチャンバラ劇にではなく、謀略、暗殺、裏切りなどの腹黒い政治的狡知に長けた悪漢どもに対して、ダルタニアンと三銃士がいかに正義の鉄槌を下せるかに大きなポイントが置かれています。従って、「三銃士」というタイトルが与える印象とは異なり、原作には意外なほどチャンバラシーンが少ないのです。それに比べると、リチャード・レスターバージョンの「三銃士」は、アメリカ映画らしくやはりアクションに大きなポイントが置かれており、それに反比例して原作が持っていた政治的な含みは大きく薄められています。優雅な姿で歩いた後には死体が山のようにゴロゴロ転がり、「深夜の告白」(1944)のバーバラ・スタンウイックも真っ青になる謀略の天才ミレディが、「三銃士」の陰の主役であり、それが原作の大きな妙味なのです。ということは、クリーシェ的表現を時代錯誤的に用いれば、実は原作はファム・ファタールが1つのテーマであることに気付きます。リチャード・レスターバージョンの映画化作品も決して悪くはないとはいえ、正直言えば、原作の大きな特徴である「ファム・ファタール」テーマをもう少し前面に押し出して欲しかったところです。配役に関してですが、童顔のマイケル・ヨークが演ずるダルタニアンはほぼイメージ通りであり、また「ネットワーク」(1976)で権力の魔力に取り憑かれ謀略の権化と化した主人公を演じてオスカーに輝いたフェイ・ダナウエイが演ずるミレディは出色です。加えて、無口なアトスを演じているオリバー・リードと、ダルタニアンの従者を演じているロイ・キニアも素晴らしい。但し、とても華やかであるとは言えないジェラルディン・チャップリンが演ずる女王と、軽さの目立つサイモン・ウォードが演ずるバッキンガム公はイマイチである印象を受けます。但し、サイモン・ウォードのバッキンガム公に関しては、もともと当バージョンの映画化はコメディ色が強化されていることもあり、これはこれで良いかもしれませんが、ミレディの謀略によって暗殺されるバッキンガム公としてはイメージが軽すぎるのは確かでしょう。尚、リチャード・レスターバージョンの「三銃士」は、続編の「四銃士」(1975)と合わせ一本の長大な作品として公開される予定だったようですが、配給の関係上2本に分割されて公開された実績を持ちます。そのような経緯がある為、二本の独立した作品として公開されたにも関わらず一本分の出演料しか貰っていない出演者が訴訟を起こしたことはよく知られた事実です。確かにスタジオ側は、当初の予定よりも倍の興行収入が得られたはずであり、役者の方としては騙されたと思っても不思議はないところでしょう。


2006/04/01 by 雷小僧
(2008/11/24 revised by Hiroshi Iruma)
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