腰抜け列車強盗 ★★☆
(Alias Jesse James)

1959 US
監督:ノーマン・Z・マクロード
出演:ボブ・ホープ、ロンダ・フレミング、ウエンデル・コーリー、グロリア・タルボット

左:ロンダ・フレミング、中:ボブ・ホープ、右:グロリア・タルボット

今回は、「豪傑カサノヴァ」(1954)をレビューしたこともあり、ついでにもう1つ50年代のボブ・ホープ映画を取り上げました。邦題にはボブ・ホープ映画お約束の「腰抜け」がプレフィックスとして付加されていますが、個人的にはこのような趣向はあまり好きではありません。そういえば、プレフィックスで思い出しました。日本の競馬では競争馬に冠号が付けられるケースが多いようですが、そもそも9文字以内という制限があるところに更に冠号を加えるわけなので、創造力の片鱗も伺われないような名前を持つ馬が三冠馬でございという次第になりがちなのは何とかならんのかねと言いたくなります。勿論映画のタイトルに9文字などという制限はなく、また馬主が同じであるというだけで冠号を無理矢理つけられる日本の競争馬とは違って、腰抜けシリーズの場合は、ボブ・ホープが一貫して主演しているので一種の目印になるのは確かです。が、一山なんぼで売っているのをわざわざ宣伝しているようにも見え、安易過ぎるイメージがあって好きではないのです。とまあ、ここまでは個人的なつぶやきなのであまり気にしないで下さい。さて、一般的には60年代のボブ・ホープ映画はスカになったと言われる中で、この「底抜け列車強盗」が彼の最後の古き良き作品であると見なされることも多々あるようです。60年代の彼の全ての作品がスカであるとは思いませんが(殊に日本未公開の「Bachelor in Paradise」(1961)は評価されるべき作品です)、確かに???と思わざるを得ない安易な作品が多くなった点は否定できないところです。1つの理由は、60年代以後のボブ・ホープはマイホームパパ的な役回りでギャグを飛ばしていることが多く、どうにもダイナミックさに欠ける感が否めないからです。勿論ボブ・ホープという役者さんは、もともとスラップスティックパフォーマンスを駆使して暴れまくるタイプのコメディアンではなく、ダイナミックさと云っても肉体的な動きによるダイナミックさという意味では無論なく、60年代以後の彼はどうもマイホーム的な細々とした状況をダシにした射程の短いギャグばかりを連発するようになってしまった点を、「ダイナミックさに欠ける」と評しているのです。しかも、マイホーム主義を辛辣に笑い飛ばすのならばボブ・ホープらしさがありますが、たとえば「腰抜け列車強盗」の次の主演作「よろめき珍道中」(1960)などでは、ルシル・ボールと浮気をしようとして結局それができない彼は、見事にマイホーム主義にからめとられてしまい、それこそ本当の腰抜けに見えます。一体マイホーム主義を標榜するボブ・ホープなど誰が見たいのでしょうか。そのようなわけで、まだそのような傾向が見られなかった最後の作品が「腰抜け列車強盗」であるのは間違いのないところです。名うての悪漢ジェシー・ジェームズとは知らずに彼と巨額の保険契約を結んでしまった保険屋(ボブ・ホープ)が、何とかジェシー・ジェームズが撃ち合いで不慮の死を遂げないように四苦八苦するというストーリーが語られ、シンプルでなかなか面白い作品に仕上がっています。設定されているシチュエーション自体が面白可笑しいと、作品の出来も期待出来るというものです。ところで、この作品には最後に、観客サービスの趣向が凝らされていて、ジェシー・ジェームズ(ウエンデル・コーリー)とボブ・ホープ演ずる保険屋が撃ち合いになるシーンで、突然今まで作品中に登場していなかった西部劇ヒーロー達が次々と登場し悪漢どもを倒していくのです。しかもその西部劇ヒーロー達を演じているのが、ゲーリー・クーパー、ビング・クロスビー、ジェームズ・ガーナーといった錚々たる面々なのです。正直言えばこのような展開は、ともすると同時レビューした「豪傑カサノヴァ」のラストのように、それまでの展開を全て台無しにする危険性を孕んでいますが、「腰抜け列車強盗」ではそのような印象がほとんどないのが不思議なところです。恐らくこちらは、そのような展開がボブ・ホープ映画のジョークの1つとして許容範囲内にあるからなのでしょう。最後に1つ付け加えておくと、グロリア・タルボット演ずるインディアンの王女が登場しますが、どうも場違いな印象がありイマイチ何の為彼女が登場しなければならないのかよく分かりませんでした。西部が舞台なのでインディアンが登場してもおかしくはないとはいえ、彼女以外にインディアンは登場しない上に、ストーリーはインディアンとは全く無関係だからです。ところが、あるシーンを見た途端、「ああこれがやりたかったのか!」と思い当たりました。そのシーンとは、ジェシー・ジェームズとロンダ・フレミング演ずる娘の結婚式を何としてでも阻止しなければならないとボブ・ホープ扮する保険屋が言ったところ、インディアンの王女が「How?」と尋ねます。すると、間髪を入れず彼が「This is no time for Indian talk!」と答えます。このギャグを一発かませたいが故にインディアンの王女を登場させたのではないかとすら思える程の絶妙なタイミングなのです。それにしても、たった1つのギャグを飛ばすのに、そこまで用意周到に適切なシチュエーションを準備するのかと思わず感心しました。


2002/08/09 by 雷小僧
(2008/10/13 revised by Hiroshi Iruma)
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