姿なき殺人者 ★★☆
(Ten Little Indians)

1966 UK
監督:ジョージ・ポロック
出演:ヒュー・オブライエン、シャーリー・イートン、ファビアン、レオ・ゲン、W・H・ホワイト

左から:レオ・ゲン、ダリア・ラヴィ、デニス・プライス、W・H・ホワイト
ヒュー・オブライエン、シャーリー・イートン

アガサ・クリスティの有名なミステリー作品「そして誰もいなくなった」は合計4回映画化されていますが、邦題は異なるとはいえ「姿なき殺人者」はその内の2度目の映画化作品です。映画化作品の中では、ルネ・クレールが監督しTVでも何度も放映されている最初のバージョンが最もポピュラーであることは言うまでもないとして、「姿なき殺人者」は内容的にはその次に良い作品であると言われています。「そして誰もいなくなった」タイプのミステリー作品が興味深いのは、中心となるメインキャラクターが存在しない点であり、たとえば同様にアガサ・クリスティの作品でいえばエルキュール・ポワロやミス・マープルなどの名だたる名探偵が登場しないところです。探偵小説というと、事件に直接関与していない中立的な探偵がストーリーの中心に位置を占めることになるので、事件を第三者的観点から見るパースペクティブがどうしても読者やオーディエンスにも強いられるのが普通であるのに対し、「そして誰もいなくなった」タイプのミステリーでは登場人物全員が状況に巻き込まれ、第三者的観点が存在しない為、読者或いはオーディエンスにも、第三者的な客観的立場から見るのではなく、事件に巻き込まれる当事者のパースペクティブに同化することが要請されます。或る意味で、感情移入が強いられると言えるかもしれません。従って、「そして誰もいなくなった」は、ミステリーに直面する登場人物の視点にオーディエンスを心理的に巻き込むという意味において、ミステリー要素が純粋な形態で煮詰まった作品であると見なせるかもしれません。そのような特徴を持つ為、このタイプの作品ではキャストが大きな問題に成り得ます。たとえば、キャストの中に一人だけビッグネームがいると失敗するでしょう。なぜならば、彼が犯人であるか否かに関係なく、オーディエンスとしては、ストーリーが彼を中心として展開されるように見ざるを得ず、誰もが犯人であり得、誰もが犯人のいけにえになり得るというイコールの可能性が少なくともオーディエンスの心理上からは抹消されてしまうからです。では、このタイプのミステリーにビッグネームをズラリと並べたならばどうなるでしょうか。それについては、ややプロット展開のタイプは異なるとはいえ、興味深いケーススタディとして「秘密殺人計画書」(1963)が挙げられるとだけ述べておきましょう。ということで、このタイプのミステリー作品の映画化では、ビッグスターよりもむしろキャラクターアクターの起用が必要とされるはずであり、「姿なき殺人者」ではその点が考慮されたキャスティングがされています。たとえば、ウィルフリッド・ハイド・ホワイトなど、まさにこの役は彼でなければ務まらない印象を受けます。因みに、「姿なき殺人者」に出演し哀れにも次々に殺されていく10人の俳優さんとは(但し一人は犯人役です)、個人的に名前を知らない一人を除くと、ヒュー・オブライエン、シャーリー・イートン、ファビアン、レオ・ゲン、W・H・ホワイト、スタンリー・ホロウエイ、ダリア・ラヴィ、デニス・プライス、マリオ・アドルフであり、実に渋いキャラクターアクターが続々と登場します。密室を舞台として、次は一体誰が殺され、一体誰が犯人で、また犯人の動機や殺人方法が全く分からないスリリングな展開は、確かに既に原作を読んでいればある程度興味が削減される可能性はあるとはいえ、映画のマテリアルとしても実に面白く、「姿なき殺人者」ではそのようなマテリアルが効果的に活かされていることに間違いがありません。


2003/07/19 by 雷小僧
(2008/11/02 revised by Hiroshi Iruma)
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