秘密殺人計画書 ★☆☆
(The List of Adrian Messenger)

1963 US
監督:ジョン・ヒューストン
出演:ジョージ・C・スコット、ダナ・ウインター、クライブ・ブルック、カーク・ダグラス

左:ジョージ・C・スコット、右:ダナ・ウインター

名匠ジョン・ヒューストンの作品とはいえ、遊び心を全開にして製作されたと思しき雰囲気が濃厚に漂う作品で、お遊びに気を取られ過ぎたか、ストーリー内容に関しては、素晴らしい出来とはとても言えません。主演のジョージ・C・スコットが探偵役を演じていることから考えても、ジャンルとしてはミステリーに含めるべきかもしれませんが、カーク・ダグラス演ずるキャラクターが犯人であることは冒頭で早々と明かされるので、いわゆる「Who's done it?」的な要素は最初から消滅し、またシリアスな人間ドラマがあるわけでもなければロマンスがあるわけでもない、勿論アクション映画でもなければコメディでもなく、オーディエンスにとってはポイントが絞りにくい作品であるかもしれません。従って、冒頭で述べたように、ジョン・ヒューストンが作品内容そのものとは関係のないところで、遊び心を全開にして製作した作品であることを念頭に置いた上で見るべきでしょう。「秘密殺人計画書」には、当時大スターであった5人の俳優がカメオ出演しており、しかも本人とは分からないようメークアップをしている為、彼らを捜すことに、そもそも1つのミステリー要素があるとすら考えられるかもしれません。何だそんなことかと思われるかもしれませんが、実は作品中でそのような遊びを過度に加えると、それを演じているスーパースターはたとえカメオ出演に過ぎないとはいえど、作品のポイントがそちらに向かって大きく逸らされてしまうことは、たとえば「八十日間世界一周」(1956)であれだけの有名スターのカメオ出演がなければ作品全体の印象がかなり変わったはずであることを考えると、容易に肯けるのではないでしょうか。あの出たがりヒッチですら、オーディエンスの気を逸らさないように、作品冒頭付近で一瞬の間だけ名物の太鼓腹を見せるようになったに過ぎないのです。それに対して「秘密殺人計画書」では、作品自体をスパイスアップする為に5人のスーパースターをカメオで且つ変装させて出演させたというよりも、最初からそれがやりたかったのではないかという印象を強く受けます。その点において、良い意味でも悪い意味でも本筋とは関係のない遊びが多い印象があり、ポイントが絞りにくい点が長所であるとすら思わせる奇妙な印象のある作品と化しているように思われます。5人のスーパースターとは、カーク・ダグラス、トニー・カーティス、ロバート・ミッチャム、フランク・シナトラ、バート・ランカスターで、犯人役のカーク・ダグラス以外はワンスポットのみのカメオ出演であり、またカーク・ダグラスとロバート・ミッチャム以外の3人はどこに出演しているかが本人以外はまずわからないほどに変装しています。しかしながら、変装に関して心配は無用であり、カーク・ダグラス演ずる悪漢が哀れ串刺しになるラストシーンのあとで種明かしがあります。個人的に一番気に入っているのがキツネ狩りシーンで、白黒映画ではあれども、バルビゾン派の絵画を思わせるようなビューティフルなショットが印象的です。監督のジョン・ヒューストンは、祖父がポーカーの賭けによって西部の町一つを丸ごと手に入れたという伝説があるほどの生っ粋のアメリカ人ですが、「秘密殺人計画書」は全篇に渡って舞台がイギリスに設定され、しかも貴族どものキツネ狩りシーンを絵画的に捉えているところなどからも、いつもとは違う貴族的とすら云える遊び心が伝わってきます。女優さんでは、ダナ・ウインターが出演しています。彼女は清廉実直で輪郭がはっきりとしたパーソナリティを持ち、「秘密殺人計画書」でもそのイメージが光っています(上掲画像参照)。悪く云えば不毛(sterile)であるような印象のあることも確かで、その印象の故かあまり女性的ではない役で戦争映画などにもいくつか出演しています。そのようなわけで、彼女は、イギリス出身であるという以上に、この作品で演じている貴族的なパーソナリティが似合います。


2004/07/11 by 雷小僧
(2008/10/23 revised by Hiroshi Iruma)
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