ヘレンに何が起こったか? ★★☆
(What's the matter with Helen?)

1971 US
監督:カーティス・ハリントン
出演:デビー・レイノルズ、シェリー・ウインタース、デニス・ウイーバー、アグネス・ムアヘッド

左:デビー・レイノルズ、右:シェリー・ウインタース

ひょっとすると当作品は日本劇場未公開(TVのみ公開)かもしれないので、本当は未公開コーナーに含めるべきかもしれません。原題の「What's the Matter with Helen?」は明らかに「What Ever Happened to Baby Jane?」(1962)(「何がジェーンに起こったか?」)を意識しているのでしょう。そもそも、脚本は「何がジェーンに起こったか?」の原作者が書いているようです。他にも同じ系統の作品として、ジェラルディン・ペイジが主演した「What Ever Happened to Aunt Alice?」(1969)や、「ヘレンに何が起こったか?」と同年に同じ監督(カーティス・ハリントン)同じ主演(シェリー・ウインタース)により製作された「Who Slew Auntie Roo?」(1971)(「誰がルーおばさんを殺したか?」)などが思い浮かびます。「ヘレンに何が起こったか?」が公開された70年代といえば、どうしてもパニック映画の時代というイメージがあるのは確かですが、実は優れたホラー映画の小品が数多く出現した頃でもあったのです。但し、ホラー映画と言っても、「エクソシスト」(1973)や「オーメン」(1976)などのおゼゼがかかった大作ホラーや、70年代の末頃から出現し始めた血糊ベターのスプラッターホラーを指しているのではなく、大向うを唸らせる派手なギミックは何もなく、小さく纏まっていて、むしろファンタスティックな雰囲気を持つ珠玉の小品を指します。「ヘレンに何が起こったか?」もそのようなホラー映画に分類され、「何がジェーンに起こったか?」のような派手さはないけれども、小じんまりとまとまった極めて出来の良い作品です。ストーリーは、次のように展開されます。ジーン・ハーローのようなプラチナ・ブロンドに髪を染めたアデル(デビー・レイノルズ:上掲画像参照)は、かかってくる脅迫電話から逃れるように引越しし、友人で使用人のヘレン(シェリー・ウインタース)と子供の為のタレント養成学校を開きますが、被害妄想が昂じてヘレンは度々精神錯乱状態に陥るようになります。ヘレンの愚行によってタレント養成学校の名前に傷がつくと考えたアデルは、ヘレンに暇を出そうとしますが、結局錯乱の極に達したヘレンに殺されてしまいます。ストーリーはただそれだけですが、大不況の30年代のうらぶれた様子がうまく捉えられ独得な雰囲気が伝わってくるのと、本当にストーカーが辺りを徘徊しているのか単なるヘレンの妄想なのかが分からないサスペンス仕立ての展開がオーディエンスの緊張感を誘います。殊に、ラストシーンで錯乱したヘレンが、アデルを刺殺し、口からはまだ血を流している彼女を劇場のマネキン人形のように飾り立て、その傍でヘレンが笑いながらピアノを弾いているシーンは、ファンタスティックなホラー映画の真骨頂ともいうべきビューティフルさがあります。個人的には、前述した4本の「何が(誰が)・・・」シリーズの中では、「ヘレンに何が起こったか?」が一番気に入っていますが、その理由は、70年代のホラー小品の持つ優れたエッセンスが当作品には至るところに見出される為です。確かに傑作と呼べる作品ではないとしても、簡単に見捨ててしまうのはあまりにも勿体ない作品なのです。デビー・レイノルズはここでもお得意の踊りを見せていますが、この作品の後暫く映画に顔を見せなくなり復活するのは1990年代に入ってからです。面白いことに、仲があまりよろしくないという噂があった娘のキャリー・フィッシャーが丁度映画で活躍している間、映画界から遠ざかっていたことになります。娘の顔を見たくなかったということでしょうか?因みに同年に公開された「誰がルーおばさんを殺したか?」は、兄(マーク・レスター)と妹がルーおばさん(シェリー・ウインタース)の家に閉じ込められる内容からも分かる通り、童話「ヘンゼルとグレーテル」の一種のホラー版パロディのように見える作品ですが、「ヘレンに何が起こったか?」に比べると遥かに凡庸な作品です。


2002/12/07 by 雷小僧
(2008/11/17 revised by Hiroshi Iruma)
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