泥棒貴族 ★★☆
(Gambit)

1966 US
監督:ロナルド・ニーム
出演:マイケル・ケイン、シャーリー・マクレーン、ハーバート・ロム、ジョン・アボット

左:マイケル・ケイン、右:シャーリー・マクレーン

トプカピ」(1964)や「おしゃれ泥棒」(1966)と同様、「泥棒貴族」は60年代に製作された美術品泥棒を題材とした作品です。但し、前二者のように公共美術館から美術品を盗むのではなく、大金持(ハーバート・ロム)の所有する個人の美術品をくすねる点に違いがあります。「泥棒貴族」で特徴的な点は、冒頭の30分、計画通り全てがうまくいった場合の架空のストーリーがまず描かれたあとで、本番ストーリーが開始されることです。前者の部分は主人公(マイケル・ケイン)が想像(妄想)するイリュージョンということになりますが、最初に「泥棒貴族」を見た時、そのような構成であることを把握仕切れずに頭が混乱した記憶があります。たとえば、すぐに思い付くところでは「ナイル殺人事件」(1978)などのミステリー作品において、架空のフラッシュバックシーンが挿入されるケースは時々見かけますが(ジョン・マクティアナンの最近の映画「閉ざされた森」(2003)などもそうでした)、「泥棒貴族」ではいわば架空のフラッシュフォワードシーンが冒頭に挿入されていることになります。単なるフラッシュフォワードではなく架空のフラッシュフォワードということになると思いつく限りでは前例がなく、しかもオーディエンスとしてはストーリーの全体像が全く掴めていない冒頭に挿入されていることもあり、頭が混乱するのも無理がないところでしょう。原題の「Gambit」とは、たとえばチェスなどで、特定の作戦を行う場合の最初の一手を意味しますが、ひょっとすると「泥棒貴族」におけるGambitの意味は、作品がオーディエンスに仕掛ける冒頭の架空のフラッシュフォワードのことを指しているのではないかとすら思えます。また、ラストも一種のどんでん返しで終わりますが、ビデオのパッケージには「Go ahead tell the end (it's too hilarious to keep secret), but don't tell the beginning!」と書かれていて、要するにラストのどんでん返しよりも冒頭のトリックの方が重要であるように書かれています。 個人的には、このようなオーディエンスを欺くトリックは、少なくともこの作品に関しては、そもそも不要ではないかと思っていますが、どうやら製作者はそれが重要だと考えていたのかもしれません。そのようなトリックよりも、三人の主要登場人物を演じている俳優さん達に注目した方が余程興味深く、殊にハーバート・ロム演ずるエキセントリックな大金持はまさにはまり役です。また、東洋人を演じているシャーリー・マクレーンもケッタイであり、もともと西洋人にしては顔が平板な彼女は東洋人に化けてもそれほど違和感がありません。そういえば、名カメラマンでもあったジャック・カーディフが監督した「青い目の蝶々さん」(1962)では日本の芸者に化けていましたが、いかんせん目が青いというところがミソでした。主演のマイケル・ケインは、この当時が丁度メジャーになり始めた頃であり、特徴的なしゃべり方とコブラアイがアクティングの強力な武器として既に見事に活かされています。ところで、「泥棒貴族」は、ラストが少し変わっていて、結局主人公は何も盗んでいないことになります。要するに、贋作美術品の価値を吊り上げる目的で、パブリシティを得る為に本物が盗まれたように見せかけるのが泥棒の目的であったというオチなのです。冒頭のトリック同様、かなり無理があるように思われますが、まあそれは良しとしましょう。考えてみると、「泥棒貴族」は同年に製作された「おしゃれ泥棒」と似ている側面が結構あります。たとえば、贋作美術品がストーリーのポイントである点、泥棒する本人が実は泥棒が始めてである点、どちらの作品にも「Society Burglar」という語が出てくるように、単純に暴力的な押し込み強盗とはわけが違うと泥棒する本人が思い込んでいる点、或いはレーザー光線による警報メカニズムによってガードされている美術品をいかに盗み出すかに泥棒実行シーケンスのポイントが置かれている点などです。エキゾチックな映像が素晴らしいことと、モーリス・ジャールの楽しい音楽が作品にマッチしていることを最後に付け加えておきます。


2004/01/31 by 雷小僧
(2008/11/03 revised by Hiroshi Iruma)
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