ファニー ★★★
(Fanny)

1961 US
監督:ジョシュア・ローガン
出演:レスリー・キャロン、モーリス・シュバリエ、シャルル・ボワイエ、ホルスト・ブッフホルツ

左:ホルスト・ブッフホルツ、中:シャルル・ボワイエ、右:レスリー・キャロン

マルセル・パニョルの映画化であり、ジョシュア・ローガンが監督したアメリカ映画であるにもかかわらず、レスリー・キャロン(仏)、モーリス・シュバリエ(仏)、シャルル・ボワイエ(仏)、ホルスト・ブッフホルツ(独)と、出演しているのはヨーロッパ出身の役者さんばかりです。但し、フランス出身とはいえ、出演作のほとんどがアメリカ映画である主演のレスリー・キャロンは、アメリカの俳優さんと見なすべきでしょうね。彼らは皆米英映画に少なからず出演しているとはいえ、フランス人とドイツ人が終始英語で会話していることもあり、奇妙と言えば奇妙な感はあります。マルセイユを舞台として漁師の娘ファニー(レスリー・キャロン)を軸としたラブストーリーが繰り広げられますが、とにかくマルセイユの景観が見事にカメラに収められており、これほど憧憬に充ちたマジカルでファンタスティックな映像にはなかなかお目に掛かれるものではありません。しかも、実際にマルセイユの人々の生活が手に取るように伝わってきます。勿論、個人的には、マルセイユで暮らしたこともなければ訪問したことすらないので、マルセイユの人々の実際の生活がどのようなものであるかは全く知りませんが、「これがマルセイユだ」というイメージを、たとえそれが虚構であったとしてもオーディエンスに強烈に印象付ける描写がされているのです。たとえば、デビッド・リーンの「旅情」(1955)のようなイタリアを舞台にした米英映画によって描かれるイタリアが、いかにも観光客の目から見たイタリアであるように見えるのとは大きく異なります。但し、「旅情」の名誉の為に付け加えておくと、キャサリン・ヘップバーン演ずる主人公のジェーン・ハドソンはまさにアメリカから来た訪問客であり、「旅情」が描くイタリアが観光客の目から見たイタリアであるのは、そもそもそれが作品の意図であるからだと考えられます。しかし、そこがポイントであり、50年代から60年代の前半にかけて数多く製作されていたイタリアを舞台とする米英作品では、よそ者であるアメリカ人がイタリアを訪問する設定が普通であったのに対して、「ファニー」の場合には、マルセイユで生まれてマルセイユに育った人物以外は登場しないのです。それが故に、ヨーロッパ出身の俳優さんばかりをかき集めたということかもしれません。かくして、よそ者の視点を持たない「ファニー」においては、ストーリーが、極めてゆったりと展開されます。というのも、主人公がよそ者の場合、たとえば、ヴェニスの駅に到着して、宿に荷物を置いて、ゴンドラに乗って、カフェに座って、そこでイタリアのダンディなおっさんに声をかけられてというような具合に、どうしてもストーリーの流れを個々のイベントの連続によって進行させねばならない、ということはすなわちストーリーがイベントドリブンによる駆け足にならざるを得ないのに対して、主人公がよそ者ではない「ファニー」の場合は、主人公達の生活をそのままストレートに描けばよいからです。ゆったりしたストーリー展開は、時にモタモタした印象を与えることがありますが、「ファニー」のような「度量の大きな」作品では、ストーリーが駆け足で展開される方が、逆にチープな印象を与えます。いずれにしても、マルセイユの景観にただ見入っているだけでも、まったく飽きることがないことも確かです。海に憧れる青年マリウス(ホルスト・ブッフホルツ)は、ファニーに一目惚れして一児をもうけるにもかかわらず測量船に乗ってマルセイユを旅立ち、その間にファニーは、マリウスの子を自分の息子として欲しがる大金持のご老体(モーリス・シュバリエ)と結婚しますが、やがて海に幻滅したマリウスが戻ってきて・・・というストーリー展開は、ともするとセンチメンタルな方向に傾きかけるところがあるのは確かです。しかしながら、お涙頂戴の昼メロ映画に成り下がることは決してありません。というのは、作品全体を包む憧憬に充ちたファンタスティックな雰囲気がストーリー展開にも浸透し、たとえストーリーが安っぽかったとしても、そのことはあまり大したことではないようにオーディエンスに思わせるパワーが「ファニー」にはあるからです。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、それほど「ファニー」はマジカルな作品であり、「度量の大きな」と先程述べたのは、そのような意味においてなのです。また、勿論個性派の俳優さん達が、立体感のある多様な人物像を演じ、昼メロのワンパターン化されたキャラクターとは全く無縁であることも挙げられます。いずれにしても、「ファニー」は、見て満足感が得られる映画とは、まさにこのような映画であると思わせ、国内、国外を問わず魅了されたファンが多い作品です。マルセイユの海と同じように青いレスリー・キャロンの眼が、目茶苦茶に印象的であることを、最後に付け加えておきましょう。


2001/10/21 by 雷小僧
(2008/10/17 revised by Hiroshi Iruma)
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