重役室 ★★★
(Executive Suite)

1954 US
監督:ロバート・ワイズ
出演:ウイリアム・ホールデン、フレドリック・マーチ、ジューン・アリスン、ウォルター・ピジョン

前左:ウイリアム・ホールデン、前右:フレドリック・マーチ
奥左:ディーン・ジャガー、奥右:ポール・ダグラス

ロバート・ワイズが監督したかなり初期の作品の1つですが、「重役室」を見ていると彼の懐の深さがよく分かります。「ウエスト・サイド物語」(1961)や「サウンド・オブ・ミュージック」(1965)等のミュージカル映画の製作・監督をしたかと思うと、「私は死にたくない」(1958)や「砲艦サンパブロ」(1966)のようなシリアスドラマを監督し、また時に「たたり」(1963)や「オードリー・ローズ」(1977)のようなホラー映画を監督していることは皆さんご存知の通りです。また、ガキンチョの時分、何故か小生はロバート・ワイズはジョージ・パルのようなSF・ファンタジー映画専門の監督さんであると思っていました。「地球の静止する日」(1951)のようなSF作品が、強い印象を残したからかもしれません。というわけで、ジャンルを問わないマルチタレントのロバート・ワイズが監督した「重役室」は、なんとビジネスがテーマの映画です。ある会社のワンマン社長が突如路上で倒れてあの世に行ってしまったので、いったい誰が次期社長に選ばれるかという内容ですが、ビジネスの世界を映画にするとは、当時はおろか現在でも例がそれ程多くはないのではないでしょうか。勿論、「アパートの鍵貸します」(1960)のように会社のオフィスが舞台の一部として設定されている映画はいくらでもあるとはいえ、もろに会社の組織そのものをテーマとした映画は、それ程多くはないように思われます。というのも、そのようなテーマは、あまりにもオーディエンスの日常生活に接近し過ぎる為、気晴らしであるはずのスクリーンを眺めながら普段の生活を思い起こすなどもっての他ということで、通常は避けられがちになるからではないでしょうか。この手の作品は、同様な「権力抗争」を実際に会社で経験した人でなければ共感は困難であるはずです。けれども、会社の「権力抗争」に疲れて帰ってきて、映画を見て折角リラックスしようとしているのに、そこでまたぞろ会社でのエグい権力争いを見せつけられれば、当人には洒落であるとすら言えないかもしれません。そのようなわけで、かくして微妙なテーマにストレートにタックルしているこの作品は、内容が余程優れていないと観客にソッポを向かれるのが普通であると考えられます。けれども心配は杞憂に終わるはずです。何故ならば、「重役室」は、職人ロバート・ワイズが監督した作品であり、権力争いを演じる各キャラクターが実にビビッドに描かれ、ビジネスの世界を舞台とする映画としては、これ以上ない素晴らしい作品に仕上がっているからです。野心のかたまりのようなフレドリック・マーチ、常にナンバー2の座を占めるウォルター・ピジョン、若く理想に燃えるウイリアム・ホールデン(ラストシーン近くでの彼の熱弁が、この映画のハイライトです)など、クセのある名優達がクセのあるキャラクターを実に見事に演じ切っており、それだけでも迫力と臨場感に溢れる会話劇が楽しめます。加えて、バーバラ・スタンウイック、ポール・ダグラス、ディーン・ジャガー、ジューン・アリスン、シェリー・ウインタース等の堅実な俳優さん達が堅実に脇を固めているので、面白くならないはずがないのです。内容的に会話主導にならざるを得ないこの作品の場合、実力派の俳優さん達をかき集めることが必須要件になりますが、その要件は見事に充たされています。とはいえ、テーマがテーマなので、誰が見ても面白いというタイプの映画でないことは否定できませんが、硬派を自認する人には是非ともお薦めする作品です。


2001/06/16 by 雷小僧
(2008/10/07 revised by Hiroshi Iruma)
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