オードリー・ローズ ★☆☆
(Audrey Rose)

1977 US
監督:ロバート・ワイズ
出演:マーシャ・メイソン、アンソニー・ホプキンス、ジョン・ベック、スーザン・スイフト

左:アンソニー・ホプキンス、右:マーシャ・メイソン

名匠ロバート・ワイズの監督作品であり、範疇としてはホラージャンルに入るかもしれませんが、幽霊や悪魔が登場したり、或いは三流以下のホラー作品にしばしば見られる血糊ブファーのお約束のシーンがあったりするわけではないので、そのようなおどろおどろしたシーンを期待して見ていると肩透かしを食わされることになります。出演者の顔ぶれからも推察されるように、「オードリー・ローズ」は極めて地味な作品であり、マーシャ・メイソンの娘がアンソニー・ホプキンスの娘の生まれ変わりで、自動車事故により悲惨な死に方をした後者の最後の瞬間を、前者が夜な夜な思い起して苦しむというような輪廻転生をベースとしたストーリーが繰り広げられます。つらつら考えてみると、70年代は、子供が犠牲になったり、子供に悪魔が取り憑いたりという具合に、子供がキーパーソンとして扱われるホラー映画が、少なからず出現し始めた時期です。たとえば「エクソシスト」(1973)然り、「オーメン」(1976)然りです。しかも面白いことに、キーパーソンたる子供以外の家族構成員はといえば、「オードリー・ローズ」の場合には母(マーシャ・メーソン)と父(ジョン・ベック)のみ、「エクソシスト」の場合には母(エレン・バースティン)のみ、「オーメン」の場合には父(グレゴリー・ペック)と母(リー・レミック)のみです。すなわち、これらの作品に登場する家族は、全て核家族なのです。このことは単なる偶然ではなく、現実社会において核家族化が急激に進行するのは60年代から70年代にかけてであり、そのような傾向がホラージャンルにまで顕著に現れ始めたのが70年代であったということです。そして、80年代に入ると、核家族のシリアスな問題を扱った「普通の人々」(1980)のような作品が出現します。勿論、60年代以前の作品には、核家族が全く登場しなかったというわけではなく、それが1つのテーマとして扱われることはほとんどなかったのです。かくして、核家族が前提とされているからこそ、70年代のホラー映画では子供が悪霊の第一のターゲットにされるのです。70年代のホラー映画におけるホラー要素のポイントオブエントリーは、家族の中でも最も弱い存在である子供に置かれがちになり、「オードリー・ローズ」でもそのような規則が踏襲されているということです。ロバート・ワイズは、「たたり」(1963)というホラー作品を既に60年代前半に監督していますが、60年代に公開された「たたり」にはそもそも家族自体が登場せず、同じホラー映画であるとは言っても「オードリー・ローズ」とは全く趣の異なる作品でした。一言で言えば、核家族が題材とされる「オードリー・ローズ」は極めて私小説的な色彩が濃いのに対し、「たたり」にはそのような色彩は全く見られません。ロバート・ワイズといえども時代の変遷と没交渉でいられるわけではないことが、この2作品を見比べると分かります。


2002/09/22 by 雷小僧
(2008/12/02 revised by Hiroshi Iruma)
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