荒鷲の要塞 ★★☆
(Where Eagles Dare)

1969 UK
監督:ブライアン・G・ハットン
出演:リチャード・バートン、クリント・イーストウッド、メアリー・ユーア、パトリック・ワイマーク

左:クリント・イーストウッド、右:リチャード・バートン

今回は、戦争映画の体裁を装った2本のブライアン・G・ハットン監督のアクション映画を取り挙げました。もう1本は、「戦略大作戦」です。戦争映画の体裁を装ったアクション映画のはしりの1つとして「大脱走」(1963)が挙げられますが、「大脱走」のストーリーは事実に基いているようであり、また前半は収容所内で脱走計画が練られるかなり緻密なドラマが展開されるので、アクションのみが前面に突出する作品であるとは必ずしも言えないところがありました。それに対して、「荒鷲の要塞」はその途方もなく非現実的なストーリー展開、一方的な破壊シーン、及びこれまた極めて非現実的なラストのどんでん返しなどを見ても分かる通り、舞台は第二次世界大戦中のヨーロッパに設定されていても、実際にはどう見てもアクション映画以外の何ものでもありません。その意味で、60年代後半の作品であるとはいえ、内容面だけを取り上げれば極めて現代的な作品であると見なせます。そもそも、自国の諜報機関に潜入したスパイを炙り出す為に途方もない芝居を打つというストーリー展開がまず恐ろしく非現実的です。また、リチャード・バートン、クリント・イーストウッド、メアリー・ユーア演ずる主人公達の方ではバタバタと敵をなぎ倒していくにもかかわらず、彼らには、雨霰と降り注ぐ敵の銃弾がただの一発もかすりもしない様子を見ていると、まるでジェームズ・ボンド映画を見ている気分になります。それならば、「荒鷲の要塞」は、昨今ひと山いくらで売られている凡庸なアクション映画と全く変わりないかといえば、そんなことはありません。まず、雪に閉ざされた北国で撮影された暗く湿った雰囲気が実に素晴らしいことが挙げられます。アクション映画といえば、ドライで陰影がないフラットな画像になりがちであるという個人的な印象があり、地形でいえば一般的には明るい砂漠のイメージがあります。それに対して、「荒鷲の要塞」の暗い雪国のイメージは、通常のアクション映画には見られない陰影が際立ち、通常のアクション映画の平板な画像平面とは一味違う濃淡のある立体的な画面に吸い寄せられるように感じられます。雪国で撮影された他の戦争映画として、「テレマークの要塞」(1965)が思い出されますが、そちらにもやはり同じような効果がありました。「荒鷲の要塞」も「テレマークの要塞」もイギリス資本が関連する作品であり、このあたりはむしろヨーロピアンな感覚であるようにも思われます。また、リチャード・バートンとクリント・イーストウッドのコンビも興味深いところです。なぜかというと、このコンビは下手をすると、寡黙なクリント・イーストウッドがボケを担当し、饒舌なリチャード・バートンがツッコミを担当する漫才になってもさ程不思議ではない気がするからです。リチャード・バートンはいつもふてくされた表情をしているので寡黙であるかに見えますが、彼の出演作を見れば彼がいかに饒舌であるかが分かるはずです。いずれにしても、リチャード・バートンはふてくされた表情はしていても本場イギリスは舞台出身の役者であったのに対して、クリント・イーストウッドは一種のゲテモノと見なされていたマカロニウエスタンから足を洗ったばかりであり、今日の彼の名声は当時の彼には全くありませんでした。このような二人の危ういバランスが興味深く、二人の共演を見ているだけでも楽しめます。その他では、メアリー・ユーアとイングリッド・ピットの女優陣、いかにもブリティッシュなマイケル・ホーダーンとパトリック・ワイマーク、それにドイツ出身のアントン・ディフリングがヨーロピアンな雰囲気を更に盛り上げています。総括すると、「荒鷲の要塞」は、前景で展開されるのは戦争映画の体裁を装ったアクション映画である一方で、背景は極めて陰影の濃いヨーロピアンな雰囲気で満たされ、昨今のハリウッド産のそれとは一味違うアクション映画が楽しめます。戦争映画には欠かせない作曲家ロン・グッドウインのシンプル且つ豪壮な音楽が極めて効果的であることを最後に付け加えておきましょう。


2003/11/29 by 雷小僧
(2008/11/10 revised by Hiroshi Iruma)
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