秘密の儀式 ★☆☆
(Secret Ceremony)

1968 UK
監督:ジョセフ・ロージー
出演:エリザベス・テイラーミア・ファロー、ロバート・ミッチャム、ペギー・アシュクロフト

左:エリザベス・テイラー、右:ミア・ファロー

「秘密の儀式」もまた、「唇からナイフ」(1966)及び「夕なぎ」(1968)と同様、60年代後半にジョセフ・ロージーが監督した快作ならぬ怪作です。当時のロージー作品が持つ独特の傾向に関しては後二者のレビューで述べたのでそちらを参照して下さい。ストーリーは、大邸宅に一人で住む半ばクレイジーな少女(ミア・ファロー)が、今は亡き自分の母親に似ている女性レオノーラ(エリザベス・テイラー)をバスの中で見かけ、誘拐するように自分の屋敷に連れ去るところから始まります。ところが、この半ばクレイジーな少女は、レオノーラの溺死した娘によく似ていることもあり、実質的には誘拐されたも同然の監禁状態が、レオノーラの方からしても次第に悪くは思えなくなります。そこへ、ロバート・ミッチャム演ずるアルバートが現れるところから、展開は思わぬ方向へ進展します。このように、「秘密の儀式」は、一種の心理ドラマであると見なせますが、「唇からナイフ」や「夕なぎ」ほどではないとしても、この作品にもジョセフ・ロージー独特の傾向が見出せます。つまり、心理ドラマにしてはドロドロしたところがなく、無機的で淡々とした印象を強く受けるのです。それは、半ばクレイジーな少女とレオノーラという、常人とは異なる心理傾向を持つ二人の人物が登場するにも関わらず、作品は、そのような興味深い彼女達のキャラクタースタディを深めるよりも、二人の間で交わされる表層的なインタラクションを捉えることに終始するところに一因があるのかもしれません。確かに、時折レオノーラが自分の過去を少女やアルバートにわずかながらも語っており、「唇からナイフ」や「夕なぎ」のように登場人物の過去が全く等閑視されているわけではありませんが、それでも、「秘密の儀式」を心理ドラマであると見なすならば、それは決して深層心理的なドロドロしたドラマではなく、いわば行動主義的な表層心理のドラマであると見なすべきでしょう。「行動主義的な表層心理のドラマ」とは必ずしも悪い意味で言っているわけではなく、深みを主軸とする深層ドラマが、まさに深みの故に、ある1つの深層構造に時間の経過に関係なく固定化され、極めて一枚岩的な表現様式になりがちであるのに対し、行動主義的な表層心理に焦点が置かれた表層を疾駆するがごとくの表現様式は、目まぐるしく変化する色とりどりの意味合いが時間の経過に従って醸成されるという長所を持ち得るのです。さすがに「秘密の儀式」に関して「表層を疾駆する」表現様式と言い切ればいかにも言い過ぎかもしれませんが、しかしながら、当時のジョセフ・ロージーのドラマが持つ、妙に分裂的で、色とりどりの意味合いが万華鏡のように展開されるがごとくの印象をこの作品からも受けます。いずれにしても、当時のロージー作品が一筋縄では理解し難いということが分かる作品です。


2002/09/28 by 雷小僧
(2008/11/09 revised by Hiroshi Iruma)
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