2001年以降に発表したコラム・エッセイ


 僕は小説だけじゃなくてエッセイのような文章を書くのも好きで、依頼があるとほいほい喜んで書いている。
 小説とエッセイとを車の両輪のように機能させるのが理想的だなーと思いつつ、いつかエッセイ集も出版してみたいもんである。

「くろべーのごはん皿」(「銀座百点」2016年12月号所収)

 銀座のタウン誌からの依頼で、銀座にまつわる思い出をテーマに書いた文章。
 サンゴ先生シリーズで銀座の文壇バーを舞台にしてるからってことで依頼をもらったんだけど、東京を離れて田舎暮らしをしている僕には銀座との接点はほとんどない。家の中で銀座で買った物といえばただ一つ、愛犬くろべーが使っていた大型犬用のごはん皿だけだった。編集部にそれを打ち明け、くろべーのことを書かせてもらうことにした。
 くろべーは二〇一六年の夏に亡くなった。たしか依頼がきたのはその少し後のことで、くろべーのことしか書く気になれなかったというのもある。二歳になったばかりの彼を引き取って以来、一緒に暮らした時間は十三年と三カ月にもなっていて、僕は彼を喪った痛手からなかなか立ち直れずにいる。共に過ごした日々への感謝を込めて、これからも機会があったら彼のことを書いていきたいと思っている。

「図書室の外のブックトーク」(ウェブマガジン「カラフル」2016年7月10日号〜11月25日号で連載)

 双葉社の文芸ウェブマガジン「カラフル」の小説コーナーで 『図書室のキリギリス とびはね編』を連載する際、今度はエッセイコーナーの連載って形でブックトークを書かせてくださいと頼んで実現した企画。文庫版の『図書室のキリギリス』で文庫特典として収録したブックトークコラムを載せたら好評だったので、今度の連載では小説に出てくる書名をクリックするとポップアップする形のコラムではなく、独立した企画として書きたいなと思ったのだ。
 もちろん小説中に登場する本にちなんで書いていくわけだど、そこから様々な方面に話題を広げていくのを楽しみながら書いた。連載の最後には「小説に出そうと思って出せなかった本についてのブックトーク」なんてのも書いたりしたんだけど、こうやって本にまつわる四方山話を書きつづる形だったら、いくらでも書けるなあと思ったのを覚えている。
 そういうブックトークの素材にした書名は以下の通り。連載中は気楽に書いてただけだったけど、実に四十冊以上の本について語ってたんだなあ。――そのせいか、当初は単行本化の際には小説とエッセイを両方収録しようって話だったのが、ページ数の関係でカットされてしまった。(目指せ、文庫版での復活!)

・『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』 森達也/著
・『スプーン 超能力者の日常と憂欝』 森達也/著
・『図説クリスマス百科事典』ジェリー・ボウラー/著 中尾セツ子/日本語版監修
・『サンタクロース、ライフ。』パラダイス山元/著
・『サンタクロースって いるんでしょうか?』 中村妙子/訳 東逸子/絵
・『サンタの友だち バージニア』 村上ゆみ子/著 東逸子/絵
・『アガサ・クリスティーの真実』 中村妙子/著
・『鏡の中のクリスティー』 中村妙子/著
・『コンサイス人名辞典 日本編』三省堂編集所/編
・『日本奇人・稀人事典』相田浩一/編
・『白河ポケットガイド』 白河観光物産協会/編
・『実録 小原庄助伝』 西舘義雄/著
・『会津の民俗芸能 歌と踊りと子どもの遊び』 会津若松市史研究会/編
・『小原庄助』 佐藤民宝/著
・『コンサイス日本人名事典 改訂版』 三省堂編集所/編
・『本と図書館の歴史 ラクダの移動図書館から電子書籍まで』モーリーン・サワ/文 ビル・スレイヴィン/絵 宮木陽子・小谷正子/訳
・『図書および図書館史』JLA図書館情報学テキストシリーズIII 11 小黒浩司/編著
・『七瀬ふたたび』 筒井康隆/著
・『家族八景』 筒井康隆/著
・『エディプスの恋人』 筒井康隆/著
・『うさぎ! 沼の原篇 ひふみよ限定版』小沢健二/著
・『うさぎ! 2010-2011』(小沢健二作品集 「我ら、時」収録)
・『子どもと昔話』小澤昔ばなし研究所
・『日本の昔話』 柳田国男/著
・『モモ』 ミヒャエル・エンデ/著
・『日曜日の遊び方 手づくり製本術』岩崎博/著
・『影との戦い ゲド戦記I』 アーシュラ・K・ル=グウィン/作 清水真砂子/訳
・『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』村上春樹/著
・『海辺のカフカ』村上春樹/著
・『村上春樹全作品 1979−1989』 村上春樹/著
・『1973年のピンボール』 村上春樹/著
・『A PEANUTS BOOK featuring SNOOPY』 CHARLES.M.SCHULTZ/著 谷川俊太郎/訳
・『スヌーピーの50年 世界中が愛したコミック『ピーナッツ』』 チャールズ・M・シュルツ/著 三川基好/訳
・『ダンス・ダンス・ダンス』 村上春樹/著
・『R.O.D READ OR DIE YOMIKO READMAN"THE PAPER"』 倉田英之 スタジオオルフェ/著
・『Happiness Is A Warm Puppy』Charles M.Schulz/著
・『スヌーピーの しあわせはあったかい子犬』 チャールズ・M・シュルツ/著 谷川俊太郎/訳
・『ラジオのすごい人たち 今こそ聴きたい34人のパーソナリティ』 豊田拓臣/著
・『目でみることば』 おかべたかし/文 山出高士/写真
・『爆弾にリボン』 山本美希/著
・『高校生レストラン ひみつのレシピ』 相可高校調理クラブ/編 村林新吾/監修
・『ゆかいな川柳 五・七・五』 萩原昌好 西山健太郎/編 山口太一/画

「特撮と『カレーライフ』と再結集」(舞台『カレーライフ』2015年版プログラム所収)

 2011年に日本テレビ制作で上演された舞台『カレーライフ』が再演されることになり、その公演会場で販売されるプログラムに描いた文章。
 出演キャストは初演時と大幅に入れ替わった(一人四役という難役を務めた方だけ留任して今度は一人五役になった!)。僕はそっち方面に疎いのでよく知らなかったんだけど、今度の座組みは何故か過去に特撮ドラマに出演していた役者さんが多いんだそうで、公演情報が解禁されるとネットで話題になっていた。――そして、それを見ていた原作者はというと、「そーいやあ『カレーライフ』のメインキャストの5人のいとこ達って、スーパー戦隊物の定番の構成(男四人と女一人)なんだなあ」と、執筆して十数年後にようやく気づいた。
 特に意識して書いたわけじゃないんだけど、子供の頃にリアルタイムで『ゴレンジャー』を見てた世代なので、無意識的な影響があったのだろう。今度のプログラムはその話題でいこうと思い立ち、ネットを通じて親切なファンの人たちにいろいろ教えてもらって書いた。公演会場のロビーで物販コーナーを眺めていると、プログラムを買った人がまず僕の文章を読んでにこにこしている姿を見かけ、なんだか嬉しかったのを覚えている。

「竹内真のブックトーク」(双葉社ウェブサイト掲載)

 双葉社の文芸ウェブマガジン
「カラフル」『司書室のキリギリス』を連載してた時に、連動コラムとして書いていたブックコラム。Web連載ってことで、何かそれを活かした企画をやろうってことを提案され、それじゃあってことで本についてのあれこれを自由に書かせてもらった。
 もともとは隠しコラムとして、その本の書名をクリックしないと読めない仕組みだったんだけど、単行本化に際して一つにまとめられた。 ここで一覧になってるので、タイトルを眺めて読みやすくなってるかと思います。
 各コラムでは、ブックトークになぞらえて小説に出てくる本を何冊かとりあげ、話題を繋げて短いエッセイに仕立てている。小説に出てこない本も絡めてあったりするけれど、主だった書名は以下の通り。――僕はこういう文章を書くのって大好きなので毎回苦もなくさらさらっと書いてたけど、勘定してみると19本も書いてたんだなあ。
 これだけのタイトルが並べてあれば、誰とでも何かしら共通の話題が見つかるんじゃないか……と思っている。

・『モーフィー時計の午前零時』『ヒカルの碁』
・『イソップ寓話集』『未来いそっぷ』
・『ハリー・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッター」vol.1が英語で楽しく読める本』
・『八犬伝』『忍法八犬伝』『パン屋再襲撃』『夜のくもざる』
・『世界の夢の本屋さん』『世界の夢の本屋さん2』
・『からすのパンやさん』『首飾り』
・『天国はまだ遠く』『オカメインコに雨坊主』『ジャンプ』
・『クマよ』『たくさんのふしぎ』 ・『小さな本の数奇な運命』『海辺のカフカ』『図書館の水脈』
・『旅をする木』『極北の動物誌』
・『刑務所のリタ・ヘイワース』
・『心と手』『ねずみとり』
・『2分間ミステリ』『少年探偵ブラウン』『こちらマガーク探偵団』
・『見えない犬のなぞ』『The Case of the Dragon in Distress』
・『シマフクロウ』『飛びたてシマフクロウ』
・『1095』『意味がなければスイングはない』
・『翻訳夜話』『アンのゆりかご』『トリック交響曲』『黒板五郎の流儀』
・爆笑問題の日本原論』『マボロシの鳥』『文明の子』『絵本マボロシの鳥』
・『ストーリー・ガール』『黄金の道』

「無茶の醍醐味」(舞台『カレーライフ』プログラム所収)

 舞台版『カレーライフ』の稽古期間中、プロデューサーから電話でプログラムに掲載する原作者の言葉を1000字でという依頼を受け、さらさらーっと書いた文章。
 僕は演劇のプログラムってえと入場時に手渡されたり座席に置いてあったりするような無料配布のイメージがあったので気楽に書いたんだけど、『カレーライフ』のプログラムは劇場ロビーで販売されるものだった。お金払って買ってもらうもんだと分かってたら、もっとサービスして役者さんたちのいろんな裏話を書けばよかったかなー……などと思うけど、それはそれでタレントイメージ壊すとかいってボツになっちゃってたかもね。
 とはいえ、舞台化に際しては、僕は原作だけじゃなくて脚本監修としてもいろいろ口出しさせてもらったので、読み合わせや稽古場で見たことを踏まえて書いておいた。「幕が開くのが楽しみ」と書いてしめくくったけど、幕が開いてみたら本当に楽しい舞台でしみじみと幸せだった。いろんな意味で勉強にもなったし、いい経験させていただいたなーと感謝しております。

「私の一枚『風の趣くまま』」(「ミステリーズ!」vol35所収)

 「私の一枚」ってのは「ミステリーズ!」のテーマコラムで、毎号一人の作家がCDやDVDを一枚とりあげていろいろ語ることになっている。ちょうど
『文化祭オクロック』の発売のちょい前に友人のアコーディオニストの田ノ岡三郎さんがニューアルバムを出すことになったので、その一枚を紹介させてもらうことにした。
 そんで『風の趣くまま』の見本盤をいただき、それを聞きながら原稿を書いたんだけど、それを入稿した後でびっくり。何故かCDジャケットに印刷されたスペシャルサンクスの欄に僕の名前がのってたのだ。音楽面では何一つ役には立ってないし、コラムで紹介させてもらったのはこれが完成した後である。どうして事前においらの名前が載ってるんだってのが一番のミステリーだなーって気がしている。

「容疑者タケウチの返信」(「Webミステリーズ!」2008年10月配信号)

 たまたま轢き逃げ事件の車種と同じ車に乗ってのが発端で、警察の捜査が僕の身に迫るってことを経験した。こりゃ是非ネタにしたいってわけで、ミステリー専門誌の編集長にエッセイ書かせてーと頼んだらWeb上にスペースを提供していただいた。
 ちょうど東野圭吾さんの『容疑者xの献身』が映画化されてて、映画公開日あたりにエッセイも公開されそうってことでパロディーのタイトルをつけてみた。カズオ・イシグロをパロって『わたしを捜さないで』ってのも考えたのだが、やはりタイムリーな方がいいってことでこのタイトルとなった。

「セキグチの話を聞いてみよう」(関口尚『ムーン・ショット』文庫解説)

 関口尚の草野球小説『ムーン・ショット』の解説エッセイ。気楽な交遊録みたいなものをと依頼され、何書こうかなーとセキグチ本人に電話してみたことをそのままネタにしながら作品解説をしてみた。
 セキグチさんとは、『自転車少年記』の感想メールをもらったときからの付き合いで、一緒に酒飲んだりビールづくりを体験したりしてきた。そのことをネタにすることも考えたが、限られた文字数の中ではビールのことまで触れられなかったのがちと残念。自転車のことにも触れてないけど……そーいや、最初のメールで一緒に走りましょうなんて言われたけどそれも果たしてないなあ。セキグチはもう飽きちゃったみたいだし。

「だからカレーは面白いっ」(「dancyu」2008年8月号)

 “東京「スパイスカフェ」と京都「ラトナカフェ」をめぐる冒険”という副題が物語っている通り、東西の名店2軒を取材して書いたルポエッセイ。タイトルもサブタイトルも僕の文章ってよりはきれいな写真で彩られた企画全体を指していて、僕の文章を元に編集部の方でつけてくれたものだったりする。
 普通においしいカレー屋に行くってだけでも嬉しいもんだが、食の権威たる「dancyu」が選定した2店を回るってだけでも嬉しい企画であった。『カレーライフ』の読者でもある編集者からの依頼でいそいそと取材に出向いたのだけど、2店のご主人に開店までの経緯を聞いたら不思議なくらい『カレーライフ』との共通点が多くて驚いた。やっぱりカレーって料理には旅と物語がよく似合うんだねえ。

 
「ここだけのあとがき」(「Webミステリーズ!」2008年6月配信号)

 「ミステリーズ!」に連載した「珊瑚朗先生無頼控」のシリーズが
『シチュエーションパズルの攻防』として刊行される際、Webミステリーズ!にWeb限定あとがきをって依頼をもらって書いたエッセイ。あとがきっぽいことは連載終了時のエッセイに書いちゃったなーと思いつつ、せっかくだから前から言いたかったことを書いておくことにした。
 以前、青春小説を書けって依頼をもってきた某編集者に安楽椅子探偵物のミステリーを書いてるって話をしたら、「読者はそういうものを求めてはいない」などと言われて驚いたことがある。そういう一度貼り付けられたレッテルの中で再生産を繰り返すよう求められる傾向には大いに違和感を覚えてるのだ。読者の求めてるのは面白い作品であって、編集者が通せる企画だけじゃああるまいに。
 つうか、ここに書いたような考察ってのは、誰かが書評で考察してくれないかなーと前から思ってたことだったりもする。今どき青春青春と繰り返してるような紹介記事だけじゃなく、ある程度踏み込んだ評論を書かれるよーな作家になりたいもんである。
「二語トークのススメ」(「PHPスペシャル」2008年6月号所収)

 書き下ろし長編の
『ワンダー・ドッグ』の刊行後、それを読んで気に入ってくれた編集者の方が版元の新潮社経由で依頼をくれた。こういうのって普通の依頼より嬉しいもんで、ほいほい引き受けて書いたエッセイ。
 依頼テーマは「一緒にいて楽しい人の質問術」ってことだったが、こういうお題で書くときってのは軽い躊躇を覚える。世の中には、僕からの質問で楽しくない思いをしたって人も結構な割合でいるかもしれない。そう考えると迂闊に「私の質問術は〜」なんて語っていいのかなって気がするのだ。
 で、考えた末に、自分で実践していて楽しいトーク遊びみたいなものについて書いてみた。質問術というよりは遊びの紹介なんだけど、誰かの暇つぶしの役にでも立てば幸いである。

「K先生とA先生とサンゴ先生」(「ミステリーズ!」vol27所収)

 「ミステリーズ!」誌の「ミステリーズ・バー」というテーマエッセイで書いた文章。東京創元社から刊行されようとしていた
『ビールボーイズ』に絡めて酒にまつわる話を書いてくれって依頼だったのだが、僕はむしろ前号まで連載していた『珊瑚朗先生無頼控』についての話を書いた。
 珊瑚朗先生のモデルとなったK先生のことをどっかで書いておきたかったし、「ミステリーズ!」で連載をもらうきっかけとなったA先生のことも書いておきたかったのだ。話としてもそっちの方が面白い気がしたしね。
 関係ないけど、KとAと3と5って、なんだかトランプでもしてるようですな。

「嫌じゃ嫌じゃも技のうち」(芦原すなお著『わが身世にふる、じじわかし』文庫解説)

 
『雨鶏』の解説を読んでくれた創元推理文庫の編集者の方から、『ミミズクとオリーブ』シリーズ第三弾の文庫解説を依頼されて書いた文章。以前もどっかで書いたけど、こうやって腕を買われて声がかかるのは嬉しいもんである。
 そんな経緯だったので『雨鶏』の解説のパターンを踏襲して作者にまつわるエピソード+芦原作品の概観って形で書いてみた。『雨鶏』の方には盛り込めなかった“芦原作品の母性”ってことにも言及できてちょっと満足満足。

「『自転車依存症』書評」(「週刊現代」2006年12/4号所収)

 白鳥和也さんの『自転車依存症』って本の書評を書いてほしいって依頼で書いた原稿。ちょうど
ポプラビーチの連載でツール・ド・ちばっていう自転車イベントのことを書いた直後だったので、書評にからめてエッセイの続編というか書き残しのネタを書かせてもらうことにした。
 白鳥さんの文章は自転車に深くハマってる人達への共感に溢れているんだけど、そこまで詳しくはない僕は無知な側の視点から書評を組み立てた。『自転車少年記』を書いたときにも思ったんだけど、詳しいから書けることがあるのと同様に詳しくないから書けることってあると思うのだ。

「目指せエスカレーション・コメディー」(「イン☆ポケット」2006年8月号所収)

 『じーさん武勇伝』の文庫化にともない、講談社文庫のPR誌のために書いたエッセイ。文庫に収録した四話の成立過程というか、ほぼ十年かけてどんな形で書いていったかの記録みたいなことをまとめておいた。
 エスカレーション・コメディーってのは僕の目標の一つで、たたみかけるように話が大きくなっていくストーリー構造の喜劇のこと。そういう小説を書きたいなってことと、成立過程のエッセイ自体にもそんな味が出ればいいなってことでこんなタイトルにしてみた。
 第一話の『神楽坂ファミリー』ってのは僕のデビュー作の一つ(妙な経歴なので考え方次第でいくつもあるらしい)なんだけど、いろんな作品を書いていく中で忘れちゃいけない原点というか、自分で書いといて目標にしてるようなとこがあったりする。

「『アジア新聞屋台村』書評」(「SAPIO」2006年8/9号所収)

 『アジア新聞屋台村』ってのは辺境ライターの高野秀行さんの初小説で、ある日いきなり僕のところに書評依頼がきた。タケウチに読ませたら面白い書評になるんじゃないかってのが編集部の狙いだったらしいが、そういう形で未知の面白い本をすすめてもらえるってのは嬉しいものだ。
 締め切りまで間があったのでのんびり読んで書こうかなーってつもりだったのに、ひょいと開いたらとても面白かったのであっという間に読み終え、書評の方も一気呵成に書いてしまった。編集部の方によれば「これまでで最速」の原稿だったそうな。
 ぱぱっと書きはしたけれど、作品の面白さはしっかり書かせてもらった。──僕は日頃あんまり人を褒めないけれど、いざ褒めるとなると徹底的にしっかり褒めるのだ。
芦原すなおさんを絶賛した時もそうだったけど、好きな作品相手であれば解説とか書評とかは得意である。
 ただ、この書評については字数制限が短めだったのが残念だった。パースで多民族な英語学校に通った話とかシドニーの日本語新聞を手伝った話とか、この本の版元の集英社の書籍編集部で賭場が開帳してた話とか、読んでるうちにいろんなことを書きたくなっていたので。

「軽やかで朗らかな世界への讃歌」(芦原すなお著『雨鶏』文庫版解説)

 学生生活の終わり頃、僕は『雨鶏』と『東京シック・ブルース』のニ作を熱心に読んでいた。就職もせず作家への道も定まらずって時期だったので、おおらかでコミカルに文学を楽しむ『雨鶏』はちょっとした心の支えだったのだ。
 だからソニーマガジンズが新しい文庫レーベル(ヴィレッジ・ブックスエッジ)を立ち上げることになり、僕に依頼が来た時、ぜひ『雨鶏』も文庫化してくださいよとリクエストした。単に自分が文庫で読みたかったのである。ついでに文庫解説も書かせてねと頼んだところ、両方とも実現して嬉しい限りであった。
 解説を書くなら個人的な思い出も記したかったし、『スサノオ自伝』から『雨鶏』へといたる芦原すなお作品の文学性についても論じたかった。両方とも果たしたらわりに長めの解説になってしまったが、それを書けたということがしみじみ幸せであった。

「『図書館の水脈』と図書館の恩恵」(「図書館の学校」2005年1月号所収)

 図書館について書いてほしいって依頼で書いたエッセイ。『図書館の水脈』を気に入ってくれた編集者の方が依頼してくれたって経緯だったので、『図書館の水脈』のメイキングみたいな形で僕の図書館利用法を書いてみた。
 実のところ、『図書館の水脈』を書くきっかけになったのは『海辺のカフカ』ではなく『自転車少年記』の構想中に行った長距離サイクリングで……なんて感じで、図書館と本にまつわるあれこれを書いている。
 このエッセイがきっかけになり、そのまま同誌で図書館エッセイを連載することになったってんだから、つくづく水脈ってのはいろんな形で繋がってくなーと思う。

「グッドバイからはじめよう」(「ダ・ヴィンチ」2003年10月号所収)

 好きなCDを1枚選び、それにまつわる話とレビューを書くエッセイ。村上春樹のトリビュート企画の話と一緒に依頼が来たので、手土産がわりみたいなもんだったのかもしれない。「ミュージック・ダ・ヴィンチ」っていうコーナーの中の「作家が音楽に触れるとき」っていうテーマコラムなんだけど、僕はこういうお題頂戴型のエッセイって結構好きで、依頼内容を聞いたその日にぱぱぱっと書いてしまった。
 依頼されたのは本文とレビューだけだったのでタイトルのことは気にしてなかったのだが、編集部の方で「グッドバイからはじめよう」とつけてくれた。うまいことゆーなーと思いつつ、爽やかイメージがちょっと照れくさいぜい。
 とりあげたCDは渡辺美里の『Flower bed』。僕の十代の頃の話と、彼女のバックで『Cafe Voyage 〜うたの木2003〜』というツアーに参加したアコーディオン奏者の田ノ岡三郎さんのことを絡めて書いた。三郎さんにライブの招待席を用意してもらい、終演後にはうちで飲み明かしたのだ。
 もともとこの連載ってCD3枚を取り上げてエッセイ&100字レビューを書く企画だったんで、そのライブのCDや三郎さんのソロアルバムも紹介したかったたのだが、僕の回から企画変更でレビューは1本だけってことになってしまった。それでもどうにか、さぶちゃんアルバムのことは本文の方で触れといたけど。

「イチゴ大福と小論文」(「月刊国語教育」2003年7月号所収)

 国語の先生に向けての雑誌(こういうのは専門誌というのかな)に書いたエッセイ。テーマは自由ってことだったのだが、せっかく国語教育なんだからと思って小論文の書き方についてのノウハウを書いてみた。
 かつて予備校の小論講座に通ったり小論の家庭教師をやったりパソコン通信で書いたりしたことをまとめたんだけど、かなり実践的で役に立つもんになったと思う。──僕は短いエッセイってえと気楽で無益なもんを書くことが多いけど、この方法論だけは現場でも使えるはずだ。
 国語に関するネタは結構あって(マークシートのテクニックとか「作者の訴えたいことは?」って試験問題のこととか中一の時の担任だったクソバカ国語教師のこととか……)、またどっかで書きたいと思っている。

「自転車こいで高崎へ」(「上州風」2002年冬号所収)

 上毛新聞社が出している群馬県の地方誌に書いたエッセイ。テーマは自由ってことだったのだが、せっかく郷里の雑誌からの依頼なんだからと思って高崎までサイクリングした話を書いた。
 世田谷から高崎まで100キロあまり、なかなか楽しいサイクリングだったけど、正直いうと高崎から東京への復路の方が気持ちよかった。しかしエッセイとしてはやはり高崎まで行く話にするべきだよなーと、わりとどーでもいいことで迷ったのを覚えている。

「『カレーライフ』ことはじめ」(「読書のいずみ」2002年秋号所収)

 大学の生協連合が出している、大学生向けの読書情報誌のカレー特集に書いたエッセイ。
 『カレーライフ』を出して以来、カレーに関するエッセイの依頼が結構くるようになったんだけど、毎回ネタがかぶらないようにしてどこまで書けるかを楽しんでいる。
 このエッセイでは、『カレーライフ』を構想するきっかけとなった、あるカレー屋さんとの出会いと彼の死のことを書いてみた。──もしも彼が事故にあわず、あの時の取材が行われてたらどうなってたんだろうなあ。

「週間読書日記」(「日刊ゲンダイ」20002年4月4日号所収)

 以前も書いた書評日記のコラム。榎本博明著『<ほんとうの自分>のつくり方−−自己物語の心理学』(講談社現代新書刊)って本をとりあげた。
  一応、日記形式で書くってことになってるので、自主映画の上映会の日のことと、無声映画のナレーション版のことにからめて書いた。……実はその上映会の間に書評のための読書をする予定でこの本を持参したのだが、ばたばたしてる間に紛失しちゃって大変であった。

「桟橋の覆面団」(「小説すばる」2002年4月号所収)

 小説すばる誌上のテーマコラム「あの日あの場所で」に書いた文章。かつてフィリピンの島で体験したことをネタにした。
 長い長い桟橋の先っちょに一人で座ってたら、覆面をかぶった怪しい男達の小舟がこっちに近づいてきて……なんてな話なんだけど、僕の気の小ささや空想癖を物語っている、よーな気がする。

「カレーを食べにバナーラス」(「旅行人」2001年9/10月号所収)

 「旅行人」は、バックパッカー御用達のディープな旅行雑誌。そこでインドのバナーラスという都市が特集されることになって僕に依頼がきた。──バナーラスという都市は『カレーライフ』の舞台の一つになっていて、取材旅行の時に立ち寄ったのである。滞在したのはほんの数日だったのでそんなにバナーラスに詳しいわけじゃないのだが、カレーに絡めたあれやこれやを書き綴った。
 その文章と共に写真も載せたいとのことだったので、取材の時に一緒だったキリン君に頼んで、彼がバナーラスで撮った写真を編集部まで持ってってもらった。そしたらちゃっかり、キリン君も同じ号の原稿依頼をもらって帰ってきてやんの。
 んで、掲載された写真なんだが……バナーラスの特集なのに1枚はどー見てもカルカッタで撮ったやつだぞ。いいのかなあ?

「週間読書日記」(「日刊ゲンダイ」20001年8月23日号所収)

 夕刊紙の文芸コーナーの、いろんな人が持ち回りで書いてる書評日記。とりあげる本は新刊に限るってことだったので、立川談四楼『落語的ガチンコ人生講義』と、内藤みか『おしえてあげる』について書いた。
 談四楼師匠のは大学での講義録、内藤さんのはエッセイである。どちらも著者謹呈ってやつでいただいてたので、いい機会だからお礼がわりに宣伝しとこうと思ったのだ。
 もちろん、つまんない本だったら書評も書きにくいし、両著ともお世辞ぬきで面白いんだけどね。

「十年日記」(「新刊展望」2001年8月号所収)

 単行本『風に桜の舞う道で』の刊行に際して書いたエッセイ。1990年の予備校の寮と2000年の現在がパラレルに進んでいく形の小説なんで、エッセイでは1991年の日記と2001年の日記を並べてみた。──ネット日記を書いてると、時折こういう形で利用できるから便利である。
 予備校時代は、たまたま日記帳をもらったのでつけていた。特に何かに使うつもりじゃなかったのだが、それが小説の執筆に役だったりするから面白いもんだなあと思う。

「カルカッタのキリスト」(「小説宝石」2001年6月号所収)

 旅のエッセイってことで依頼を受けて書いた文章。何を書こうかなと考えて、『カレーライフ』の取材でインドに行った時のことをネタにした。カルカッタの安宿で相部屋となった謎の西洋人から狙われた話を、『南京の基督』という映画(原作は芥川)に絡めて書いてみた。
 結構急な依頼だった上、その依頼が来た時は書かなきゃならない短編がいくつもあって大変だったんだけど、エッセイの執筆となると僕はほいほい引き受ける。こーゆー仕事ばかりだといーのになーと思いつつ、一気に書いた覚えがある。

「作者のカレーライフ」(「新刊ニュース」2001年5月号所収)

 単行本『カレーライフ』の刊行に合わせて書いたエッセイ。作品にからめて何かエッセイをとの依頼を受けた時、「取材の時のこととか執筆の裏話とか食べ歩きのこととか、いろいろネタがありますけどどれにします?」と聞いてみたところ、食べ歩きが面白そうだとの反応が帰ってきたので、身辺雑記から抜粋する形で書いてみた。──ちょうどその頃、僕は何日も連続してカレーを食べていたのである。
 もちろん、10日間くらい楽々と幸せにカレーを食いまくった僕であった。

『タイムクエイク』書評「ヴォネガット風シチューと自由意思」(
Cafe Panic Americana Book Review掲載)

 カート・ヴォネガットの『タイムクエイク』についての書評。小説ってのは自由に書いていいはずだよなーなんて考えをこめて書いてみた文章。
 1998年に「三田文学」に依頼されて書いた書評なのだが、短編小説の『月光プール』と一緒に渡したところ、何故かきれいさっぱり無視された。『月光プール』の方も枚数は結構あったのに書評ぶんくらいのギャラしかもらえず、ひでえ目にあったなあと思ってお蔵入りにしてたところ、「Cafe Panic Americana Book Review」という書評サイトから載せませんかとのお声がかかって公表することになった。
 というわけで、本文はこちらで読めます。

「一二○○→一五○○→一三○○」(「青春と読書」2001年4月号所収)

 単行本『カレーライフ』の発売に先立ち、集英社のPR誌に何か書けってことで綴ったエッセイ。
 文中に鬼のような編集者が登場して僕に説教するシーンがあるが、これは担当さん自身が「僕らを悪役にしてリライト絡みの話をコミカルな感じで」とリクエストしてきたからである。僕が恨みを抱いてるとかではないので念のため。
 ま、脚色はほんのちょっとでほとんどノンフィクションなんだけどね。


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